【CJC=東京】イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)する映像が米国で製作され、その一部がインターネットに掲出されたことから、イスラム教徒が反発、エジプトの首都カイロの米国大使館に9月11日、抗議デモが行われた。
リビアでも同日、北東部ベンガジの米領事館が襲撃され、ジョン・クリストファー・スティーブンス大使ほか3人が殺害された。
国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ」が15日声明を出し、事件について、米軍によるアルカイダ幹部殺害と、イスラム教預言者を侮辱的に描いた映像への報復だと指摘した。ただ自らの組織が直接的関与したとは述べていない。
一方、リビア国民議会のムハンマド・ユースフ・エル=マカリーフ議長は14日、襲撃事件について、「自然発生的な行為でない」として、米国で10年前に起きた同時多発テロの記念日に合わせて周到に準備されたものだ、と指摘している。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」が15日、議長とのインタビューを報じた。議長は、携帯式ロケット弾などの重火器が用意されていたと指摘、映像問題と関係なく襲撃が行われていたとの見方を示している。
13日にはイエメンの首都サヌアにある米大使館が襲撃された。イランの首都テヘランでは、イスラム体制を支持する保守派の学生約500人が、国交断絶している米国のビザ発給業務などを代行している在イラン・スイス大使館近くで「映像制作者に死を」「米国に死を」と叫んで気勢を上げた。
抗議デモは14日、英独の大使館や米系の民間施設も標的となった。矛先が米政府だけでなく欧州諸国や企業にも広がることで、経済活動に支障が出る恐れも出てきた。抗議はアフガニスタン、チュニジア、パキスタン、バングラデシュ、仏、オーストラリアなどに拡大している。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、問題となっている映像「イスラム教徒の無知(イノセンス・オブ・ムスリムス)」について、ユダヤ系米国人の不動産開発者サム・ベイシル氏(52)が100人から500万ドル(約4億8000万円)を集めて制作した、と報じている。
米メディアは、イスラム教の聖典『コーラン』を焼却したことで有名になったテリー・ジョーンズ牧師が宣伝に関与したと伝えている。
バラク・オバマ米大統領は声明で、襲撃の原因とされる映像にも言及、「米国は他者の信仰を侮辱する行為を認めない」とした。ただ「無分別な暴力は決して正当化できない」と力説してもいる。
マーティン・デンプシー米統合参謀本部議長は12日、ジョーンズ牧師に電話し、イスラム教預言者ムハンマドを侮辱した映画が緊張を高め、暴力を誘発するとして、映画の内容に懸念を表明、支持を撤回するよう要請した。ただ、ジョーンズ牧師は、撤回に応じるかどうか明言を避けたという。
米国は治安維持を目的に、リビアとイエメンに海兵隊を派遣することを決めたが、派遣が逆に緊張を高める恐れもある。