スピリチュアルケアの専門家を養成する臨床パストラルケア教育研修センター(ウァルデマール・キッペス所長、福岡県久留米市)が12〜13日、名古屋市内のホテルで年次全国大会を開催した。キッペス所長によると、今年は8人のスピーカーがそれぞれの立場からスピリチュアルケアに関するトピックを挙げ討議した。
スピリチュアルは人間の霊的側面を意味する。その治療には、身体的ケア以外に、カウンセラーによる精神的・心理的ケア、メディカルソーシャルワーカー(MSW)による社会的ケア、臨床パストラルカウンセラーによる霊的ケアが含まれる。
「臨床パストラル」とは、パスター(Pastor=羊飼い)が羊に寄り添い、愛情をもって世話するように、患者やその家族に霊的ケアを提供すること。
12日はまず東京大大学院教授、島園進氏(人文社会系研究科)が基調講演を行った。島園氏は日本の戦後史に触れ、日本人の死生観、宗教観の変化を解説。日本人の目に見えない内面の歩みを明示した。
次に村田久行教授(京都ノートルダム女子大)、精神科医の小俣和一郎院長(上野メンタル・クリニック)が講演。村田教授は、人間の存在が3つの柱(時間、関係、自律)で支えられているというモデルを紹介し、病によって「時間」という柱をなくした患者が、家族など周りの「関係」に重点を移すことによって存在の安定を取り戻すこと、また患者が死後の希望を見出すとき、一度は崩れた「時間」の柱が再構築され、存在が安定することを説明した。小俣院長は、日本のスピリチュアリティーを精神科医の視点から解説した。
13日、應義塾大教授の加藤眞三氏(看護医療学部)は、同大でのスピリチュアルケアの取り組みを紹介した。学生にスピリチュアルを理解するための講座を開いているという。教育現場でもスピリチュアルに対する関心が高まっていることを示した。
講演後は10人以下の小グループに分かれてディスカッションをした。講演の理解が深まるように、各グループに2つのトピックが与えられ、皆がそれについて意見を交換した。講師もグループに参加して参加者の理解を助けた。
2日間で延べ200人が参加したこの大会には、医師や会社員、学生や教授など様々な職種、年齢層の人々の姿が見られた。参加者は「全体的に温かい雰囲気だった」「講演がたくさんあったが、どれもとてもよかった」「新しい希望を見つけた」と参加の喜びを語った。
本紙の取材に対し、キッペス所長は「人間が単に身体だけの存在ではなく、スピリチュアルな存在だということを社会全体に理解してもらいたい。たとえ身体に重い病があったとしても、その傷を越えて健全な生活を送れる希望がここにある」「社会にもっと働きかけていきたい」と述べ、スピリチュアルケアの必要性を強調した。
臨床パストラルケア教育研修センターでは、専門家育成のための研修会を毎年実施している。研修生はスピリチュアルケアを必要とする患者を実際に訪問し、現場に触れる機会もある。現在46人が研修に参加。そのうち6、7名のスタッフが現場で働いている。現場の医師からも信頼を得ており、スタッフ派遣の要請も増えているという。
臨床パストラルケア教育研修センターに関する問い合わせは電話(0942−31−4836)、またはホームページ(http://www.pastoralcare-jp.net/pastoral/japanese/jmenu2004.htm)まで。