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キリスト教名著再読

『奇跡の人生』 20世紀の英国を代表する新約聖書学者が遺した「信仰の置き土産」

2025年9月30日18時29分 執筆者 : 栗栖ひろみ
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関連タグ:ウィリアム・バークレースコットランド英国
『奇跡の人生』 20世紀の英国を代表する新約聖書学者が遺した「信仰の置き土産」+
ウィリアム・バークレー著、滝沢陽一訳『奇跡の人生―わが生涯と信仰の歩み』(ヨルダン社、1946年)

20世紀の英国を代表する新約聖書学者、ウィリアム・バークレーは、長年にわたりスコットランドのグラスゴー大学で新約聖書学の教鞭を執り、同時に数多くの新約聖書注解を出版した。彼の聖書注解は何よりも分かりやすく、平易な文章で書かれているので、専門職にある者のみならず、学生や職業人、主婦などにも親しまれている。

定年退職後は、キリスト教を一般社会に親しみやすいものにすることを使命とし、論文やエッセーなどの著述に励んだ。本書『奇跡の人生―わが生涯と信仰の歩み』は、その中に自ら「信仰の遺言」と名付けた項目があるように、後世の人々のために愛を込めて遺したバークレーの「信仰の置き土産」である。

著者について

バークレーは1907年、スコットランドのウィックで生まれる。父親は銀行の支店長で、高等教育を受けていないにもかかわらず、読書家で説教家としても知られていた。母親は軍人の娘で、信仰あつく、何よりも常に他者を思いやる優しく温かな心を持っていた。しかし、彼女は脊椎がんを患い、1912年に亡くなってしまう。

同年、一家はマザーウェルに移住する。5歳のウィリアムはジフテリアやはしか、百日咳(せき)など6つの病気に次々にかかり、5年間療養が続いた。

1917年、マザーウェルのティー・エル・ハイスクールに入学。書物から多くのことを学ぶだけでなく、スポーツに親しみ、オペラを楽しんだ。3人の優れた教師と出会い、充実した学校生活を送った。1925年、古典文学を専攻するためにグラスゴー大学に入学する。入学したのは、同大内にあるスコットランド合同自由教会付属のトリニティー・カレッジで、そこで聖職者養成の最終課程を学ぶ。その後、牧師として、また説教者として奉職する。

1933年、牧師の娘ケイトと結婚。子どもにも恵まれ、家庭生活は幸せであったが、以前から続く難聴に悩まされる。1947年、グラスゴー大学に教授として召喚され、新約聖書学の教鞭を執る。1967~1971年、新約聖書注解を続けて出版。1947年に筆を執った、若者のための霊想集『希望と信頼に生きる ウィリアム・バークレーの一日一章』は、日本においても好評で、広くその名前を知らしめた(関連記事:聖書学者がつづる若者のための「人生論」 『明日に向かって バークレーとの365日』)。

1978年1月、70歳で多くの人に惜しまれて天に召された。

バークレーは、単に優れた聖書学者であるだけでなく、その人柄は親しみやすく、誰にも優しく親切であったと、多くの人が証言している。

「バークレー先生は、側(そば)にいるとまるで太陽のようなぬくもりを感じさせる方でした」

「先生は、おばあちゃんと猫にとっても親切です」

これは大学に通っていた学生と、日曜学校の子どもの言葉であるが、その人柄をよく表している。彼は常に快活で、知る人ぞ知る鉄道マニア。また、サッカーの愛好家で、土曜日になると、しばしば競技場に姿を見せていたという。さらに、強度の難聴であったにもかかわらず、学生たちに声をかけて合唱団をつくり、定期演奏会を開くなどして、多くの市民たちから喜ばれていたという。彼は家族を愛し、犬や猫などのペットを飼い、休日には子どもと遊ぶごく普通の市民生活を送った。

見どころ

本書は、バークレーの自伝であり、「1 思い出の人々」「2 自画像」「3 われ信ず」「4 私の仕事」「5 信仰の遺言」――の項目にわたって記述されている。全部は紹介しきれないので、このうちの3と5から、味わい深いバークレーの言葉を共にかみしめたい。

 3 われ信ず

<世界の美しさ>

私はこのように神を信じるがゆえに、世界を信じる。(中略)イエスも神の世界の美しさについて同じように感じていた。「野の花がどうして育っているか、考えて見るがよい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、あなたがたに言うが、栄華をきわめた時のソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった(マタイ6・28、29)。(中略)私は神を信じる――そして私は造り主なる神を信じる――そして私はこの世界の美しさを信じる。(71~75ページ)

<私の贖罪論>

神の愛を離れてキリストの贖罪(しょくざい)はあり得なかったであろうということが私にも次第に分かりはじめた。ついで途方もなく大きなことが分かって来た。それはイエスがこの世に来たのは、神の人間に対する態度を変えるためではなく、神の人間に対する態度を実証するためであり、また十字架という犠牲を払って神の愛がいかなるものでもあるかを人間に示すためであったという事実である。

(前略)イエスは神をアバと呼んだ(マルコ14・36)が、この名で私たちも神を呼んでよいのであり、この名で呼ぶようにと招かれているとパウロも言っている(ローマ8・15、ガラテヤ4・6)。このアバという言葉は何を意味しているか。アバは今日でもユダヤ人の男の子や女の子が家庭の中で父親に対する呼びかけに使う言葉である。子供は家の中で「アバ」(お父ちゃん)と大声で叫んでいる。(90~91ページ)

<死後の生命>

死後の生命に関するあらゆる議論は、神の本質から論じはじめねばならない。(中略)しかしイエスが啓示した神には、死後の生命を神の計画に必要なものとする二つの性質がある。一つは「神の正義」である。この世では美徳が報いを受け、悪徳は罰を受けると言い得る人はいない。もしこの世に正義があるならば、古い世界との均衡を是正するために新しい世界が必要となる。

もう一つは「神の愛」である。この世にはあまりにも短い生涯を閉じる若者がいるが、それもまったく訳が分からないというような場合が多い。しかしこれらの生命が活躍し、美しく開花し、みずからの可能性を実現し、現世では許されなかった存在になる機会が与えられないとしたら、この世の中心に存在するものは愛ではない。

(前略)美徳と至福の結合である完全な善は、現世では実現不可能である。それゆえ人間が常に理性がこうあるべしと命ずるような存在であろうとするならば(中略)死後の生命が必要となる。(96~98ページ)

<死の恐れについて>

絶えず繰り返される問いであるが、かなたの死の世界において、果たして私たちは互いに再会し認めあうのかという問題がある。(中略)私たちが論じているのは、霊魂の不滅という抽象概念ではない。肉体の復活を、人格の存続を、あなたや私の存在が継続することを私たちは論じているのである。

これは死のかなたにおいて、私たちが互いに再会することを意味している。しかし私たちが愛し、そしてしばし失った人々との再会の喜びだけを考えることはできない。私たちは、私たちが悪いことをした人々、私たちが不忠実であった人々、傷つけた人々、あざむいた人々にも再会しなくてはならないだろう。そこには愛の再結合があることは疑いないが、真実との対決もやはりあるだろう。

使徒の一人となったパウロがかなりのちまで悩みつづけた一つのことは、彼が迫害者であったことである(中略)。F・W・H・マイヤーズは、その詩『聖パウロ』の中で、(中略)パウロにこのことを考えさせている。「聖徒よ、私は申したでしょうか、忘れもしないあなたがたの面影、私が追いかけ殺した男女の人々、ああ、私が天国で人々の間に入れられる時、ステパノとあなたがたに向かってどんなに泣くことでしょうと」

(前略)天上ではゆるされた者はまたゆるすことを学ぶであろうと、私たちは望むし、それを信じることができる。(106~110ページ)

<結婚について>

私は家庭を信じる。私は結婚を信じる。私は家族を信じる。真の思想家、真の哲学者、真の学者であろうとする者にとって、結婚は致命的であるという一つの考え方がこれまで常に存在している。

(前略)エロイーズとアベラールの物語は、800年以上も前の話であるが、今日に至るまで世界で最もすぐれた愛の物語の一つである。(中略)彼女は愛以外のいかなる義務もすべてを破壊すると感じたのである。アベラールに対して彼女は結婚を考えることは耐えられなかった。「結婚生活があなたを悩ます状態を考えてみて下さい。学問をすることと家庭を営むこと、勉強机とゆりかご(中略)との間にどんな関係があり得るでしょう。心は聖書や哲学の上にありながら、生まれたばかりの赤ん坊の泣き声(中略)、嬰児(えいじ)の汚物などを我慢できる男がどこにいるでしょうか」

(前略)私はこれらすべてと正反対の考えを持っている。私がこの世に何か貢献したとするならば、その一つびとつが家庭のお蔭(かげ)である。(中略)家庭は私たちの最も悪い面を皆が知っていて、それでもなお愛してくれる所である。私は家庭を信じる――私は結婚を信じる――私は家族を信じる。なぜならそれなしには私は今日まで生きて来れなかったからである。(111~115ページ)

5 信仰の遺言

<私は神の配慮を信じる>

神の配慮の最善の証拠は世界が存在していることであると思う。(中略)もし神が愛であるならば、神は愛の対象となるものを持たねばならない。愛は一人では存在できない。(中略)それゆえ、自分自身を完全なものにするため神は自分が愛することのできる世界と、また神を愛する世界を作らねばならなかった。(174ページ)

<私はイエスを信じる>

イエスはその生と死において、無限の、そして不滅の神の愛を証ししたと私は信じる。(中略)実際に何が起こったのか私は知らない。(中略)ある時は、イエスは霊であって扉は何の障害にもならず(ヨハネ20・19、26)、意のままに行き来した(ルカ24・31)。(中略)人々「について」私たちは知っているが、イエス「を」私たちは知っている。人々のことを私たちは「覚えている」が、イエスを私たちは「体験する」。(176~178ページ)

<私は人間を信じる>

あらゆることが言えるとしても、私は人間の本質的な善と高貴を信じる。イエスもまたそれを信じていた。福音書の中でイエスは人間に対して驚くべき命令と要求を投げかけている――そして明らかに人々が勇気を奮い起こしてそれに従おうと努力することを期待している。(184ページ)

※ この記事は、ウィリアム・バークレー著、滝沢陽一訳『奇跡の人生―わが生涯と信仰の歩み』(ヨルダン社、1946年)を基に執筆しています。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

関連タグ:ウィリアム・バークレースコットランド英国
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