村上伸(むらかみ・ひろし)氏(日本基督教団隠退教師、東京女子大学名誉教授)が11月23日、療養中の施設で召天した。87歳。告別式は、岐阜市の同盟福音基督教会芥見(あくたみ)キリスト教会の鴨下直樹牧師の司式により、家族のみで行われた。
1930年、福島県生まれ。軍人の父のもと、自らも陸軍幼年学校に入ったが、敗戦で価値観が崩壊する中、聖書に衝撃を受け、教会に通うようになる。
「《汝の敵を愛せよ》という言葉でした。私は、こんなに美しい言葉は聞いたことがないと思いました。それが新約聖書の一節であることを確かめると、翌日町の本屋に行って聖書を買い、読み始めたのです。それが、私の信仰の始まりでした」(『ボンヘッファー紀行』83ページ)
やがて献身して、東京神学大学時代には鈴木正久牧師(西片町教会)と出会った。また、ナチスによって処刑されたドイツの神学者ボンヘッファーの著書を読み始めたことから、生涯をその研究にささげることになる。
1955年、東京神学大学大学院修士課程修了後、日本基督教団安城教会の開拓伝道に7年間従事し、その後、74年まで岡崎教会の牧会に携わる。また66~68年、西ドイツ(ベルリン、ヴッパータール、ボン)に留学し、組織神学を専攻。74~78年、西ドイツに滞在して南西ドイツ福音主義教会世界宣教部研究主事を務めた。帰国後、78年から97年まで東京女子大学教授(キリスト教学)。1997年から代々木上原教会の初代牧師。2010年、80歳をもって牧師職を隠退した。
著書は、晩年に刊行した自伝の『良き力に守られて―一牧師の歩んだ道』(日本基督教団出版局)の他、『ボンヘッファー』(清水書院)、『あなたはどう生きるか―現代キリスト教倫理入門』(新教出版社)など、訳書は、E・ベートゲ『ボンヘッファー伝1』、『ボンヘッファー獄中書簡集』、カール・バルト『キリスト教倫理 Ⅲ 生への自由』(新教出版社)など多数。
村上氏の愛したボンヘッファーの言葉。
神はすべてのものから、最悪のものからさえも、善を生まれさせることができ、またそれを望まれるということを、私は信じる。(『ボンヘッファー獄中書簡集』12ページ)