2015年大晦日、私は3度目のアトスを目指した。目的は、降誕祭、つまりクリスマスの取材のためである。
この時点で、2014年9月、2015年6月と過去2回アトスを訪れていたが、どちらも季節は夏で、大変過ごしやすい時期だった。今回は初の冬ということで、防寒着などの装備が多く大変荷物がかさばり、苦労したことを思い出す。
ギリシャ自体もとても寒く、テッサロニキ空港も閑散としていた。ウラノーポリに向かうバスターミナルも閑散としており、完全にオフシーズンである。
そのバスの途中で、1月1日の朝日を見ることになった。バスのカーテンがいたずらして、光が差し込んだ。
アトスは、ユリウス暦を使用し続け、俗世とは13日のずれがある。つまり、年を越した1月7日が降誕祭、いわゆるクリスマスに当たる日となる。隔週配信をさせていただいているが、次回は1月7日を予定しており、まさにその時がアトスの降誕祭の真っ只中であると思うと、不思議な気分になる。
1月6日のクリスマスを迎える前は、数カ所の修道院を周り、取材を続けた。その様子は、1月7日以降に順を追って配信させていただく。
1月6日(アトスでは12月24日)、シモノスペトラ修道院を目指すために、ダフニ港へ向かった。以前は、シモノスペトラ修道院へは船でしか行けず、下船後300メートルもの山道を登らなくては行くことができなかったが、最近は道もでき、修道院からダフニ港に往復してくれるバスが配備されたことが、前回訪れたときに分かった。ダフニでしばらく待つと、やはりそのバスが到着した。
その運転手は、以前世話になったA修道士。シモノスペトラ修道院で降誕祭を迎えたいと交渉した。すると、私に任せてくださいと、普段は予約や事前連絡を入れないと乗せてくれないらしいバスに、快く乗せてくれたのだ。
しばらくするとあちらこちらから、冬の数少ない巡礼者たちが船を降り、集まり出した。親しげにA修道士と抱き合う。
「お久しぶりです。よく来られましたね」
話を聞いてみると、ここで降誕祭を毎年迎える約束をしているようで、中には、なんと数人の子どもたちも、親と共にこの地を訪れているという。
バスが出発し、次第にシモノスペトラ修道院が近づくにつれ、アトス山も顔を出す。夏のカラッとした天候とは打って変わり、湿気の含んだ体の芯まで冷え込む、凍てつく寒さを感じさせる。雲も多く、どんより薄暗く次第に闇に変わっていく。冬の日の入りは早く、闇夜の時間が長いのも、この地域の特徴だ。
修道院に到着すると、すでに昨日からこの日を待つ巡礼者がおり、100人ほどになろうかというくらいごった返していた。修道院下のケリに住む修道士たちも集まり、総勢200人を超えるくらいに感じた。
また、この日は、このシモノスペトラ修道院の聖人の祭日とも重なり、誰もが今日この日を迎えられることへの喜びを隠しきれない表情で、聖堂や修道院のあちらこちらが賑わっていた。
ついにシマンドロが鳴り響く。修道士と巡礼者が主聖堂の周りに集まり出した。十字形の聖堂の両翼に聖歌隊が並ぶ。ろうそくに火を灯し、準備が進められる。
その聖歌隊の間には、なんと先ほどバスに一緒に乗ってきた子どもたちが混じっている。修道士たちも、子どもたちを大歓迎で招き入れ、最前列を用意するほどであった。
シモノスペトラ修道院の主聖堂で神に仕える修道士たちに混じり、ともにこの時間を過ごせるという子どもたちの喜びに溢れた表情は忘れることができない。彼らは自分の街の教会で日々のお祈りに参加し、聖歌をしっかり覚えてくる。神に一番近い場所で修道士に囲まれ、共に聖歌を口ずさむということは、どんな贈り物よりも喜びになるであろう。
聖歌隊の歌が始まった。子どもたちの声変わりしてない高い声が修道士たちの低音の声と混じり、なんとも気持ち良く、そして、遠くどこまでも、神の元へきっと聞こえているのだろうと感じさせる。突き抜けた子どもたちの歌声が聖堂内に響く。その美しく澄んだ歌声に、僕はただただ、圧倒され、聞き入るだけであった。
総主教が聖堂に招かれ、いよいよ始まりである。
次回予告(1月7日配信予定)
1月7日(1月6日深夜)同日、まさに降誕祭を迎えたその日に後半をお送りします。
良いクリスマスをお過ごしください! お楽しみに。
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