NHK大河ドラマ「篤姫」で再び注目を集めている西郷隆盛(南洲翁)が民衆に聖書を教えていたことが最近、生前の西郷を知る父を持つ地元住民の証言などから明らかになった。これを受け、鹿児島市上竜尾町の西郷南洲顕彰館で昨年末に開催された展示会「敬天愛人と聖書展」では「西郷さんは聖書を教えた」との証言パネルを紹介。また、西郷の思想に影響を与えた書物として、西郷が実際に読んだのと同じとされる天理大学付属天理図書館所蔵の香港英華書院刊「新約聖書」が展示された。西郷といえば「敬天愛人」の思想や、新政府軍を最後まで圧倒した庄内藩に寛大な処置を施したことで有名だが、今回の発見でそれらの言動に聖書の教えが深く関係していた可能性が強まった。
昨年12月8日の南日本新聞によると、西郷南州顕彰館館長の高柳毅さんは、「側近に漢訳聖書を貸し与えたとの記述(有馬藤太聞き書き『私の明治維新』上野一郎編)から、西郷が聖書を入手し読んでいたのは確実」という。
西郷が説いた「敬天愛人」とは、「道というのはこの天地のおのずからなるものであり、人はこれにのっとって行うべきものであるから何よりもまず、天を敬うことを目的とすべきである。天は他人も自分も平等に愛したもうから、自分を愛する心をもって人を愛することが肝要である。」 (西郷南洲顕彰会発行・南洲翁遺訓より)という教え。これは、マタイの福音書22章37〜39節にあるイエスの教え「『心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。』これがたいせつな第一の戒めです。『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ。』という第二の戒めも、それと同じようにたいせつです。」と酷似している。
また、マタイの福音書5章43〜45節には次のようなイエスの教えがある。「『自分の隣人を愛し、自分の敵を憎め。』と言われたのを、あなたがたは聞いています。しかし、わたしはあなたがたに言います。自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい。それでこそ、天におられるあなたがたの父の子どもになれるのです。天の父は、悪い人にも良い人にも太陽を上らせ、正しい人にも正しくない人にも雨を降らせてくださるからです。」
死後130年経った今、西郷が聖書信仰をもっていたかどうかの立証は難しいかもしれないが、西郷がその生涯を通して聖書の教えを体現したことは事実である。
南洲翁のひ孫・隆文さんは同紙のインタビューに、「(西郷が)聖書は読んでいたかもしれないが、忙しい身で普及させていたとは思えない」としながらも、「死後百三十年たった今も謎が多く、いろんな切り口で情報が出てくる。まだまだ”生きている”とびっくりする」と話している。