企画展「ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ 書物がひらくルネサンス」が印刷博物館(東京都文京区)で7月12日まで開催されている。世界に類を見ない貴重書を多数所蔵するバチカン教皇庁図書館から貸し出された、第一級中世写本、初期刊本、地図、書簡など計21点を中心に、同博物館および国内諸機関所蔵の資料を加えた計69点を公開展示。書物を通してルネサンス精神に触れ、その生き証人である書物そのものの持つ魅力に迫る内容となっている。
展示は、「第1部 祈りと救い」「第2部 古代の叡智(えいち)」「第3部 近代の扉をひらく」「第4部 ヴァチカン貴重庫でみつけた日本・東アジア」からなる4部構成。ルネサンスとは、14世紀から16世紀にかけ、欧州各国に広まった大きな文化運動のこと。それまで、キリスト教が、聖書を土台にした文学や神学によって人々に支配的な影響を与えていたのに対し、ルネサンス期には、「古代ギリシャ・ローマの復活」「人間主義」を掲げた価値観が育まれた。ことキリスト教の世界にあっては、ローマ・カトリックの腐敗に反旗を翻す形でマルティン・ルターによる宗教改革が起こり、教会全体に大きな変化の波が押し寄せた時代でもある。
第1部では、15世紀に刊行された書物が中心に展示され、古代から中世、そしてルネサンス期という時代の流れの中で、キリストの教えを守り続けるために、聖書をはじめとしたキリスト教書が果たした役割が検証されている。
第2部、第3部では、ルネサンスの立役者である人文主義者(ユマニスト)たちが、遺跡・墳墓・碑文・古典文芸の研究を通して出会った古代の叡智を、時代に合った読みやすい書体でまとめた書物を紹介。イタリアに始まった文化運動が欧州全域にまで広まり、近代の礎となっていった背景に、当時誕生したばかりの活版印刷技術があったことが分かる。またユマニストたちの関心が、哲学・文学・思想・科学・医学・技術・博物学など、あらゆる分野にまで広がっていたことに驚かされる。
一方、第4部では、バチカン貴重庫の中から、歴史がルネサンス期から大航海時代にまで進み、欧州から海を渡って、極東の日本にまで印刷文化がもたらされたことの分かる資料を公開。1582年に日本から初めて欧州に派遣された「天正遣欧少年使節」が持ち帰った印刷機は、「きりしたん版」と呼ばれる出版活動を生み出した。その後、いつ頃か宣教師の手によって欧州に“帰還”し、長い間バチカン教皇庁図書館で保管されていた、日本で印刷された日本語の書物「きりしたん版」が、今回、再び日本で公開されたのは非常に感慨深い。
日本の印刷博物館とバチカン教皇庁図書館との関係は、2001年の同博物館設立当初から続いている。同博物館の事業主体である凸版印刷株式会社は、17年前から同図書館とさまざまなプロジェクトを協力して行っており、05年に始まった、凸版印刷の独自開発による紫外線を用いたスキャナーで羊皮紙をデジタル再生化する「キケロ・プロジェクト」は、現在も継続して行われている。02年には、同博物館で「ヴァチカン教皇庁図書館展 書物の誕生―写本から印刷へ」が開催され、聖書を中心とした写本、初期活版印刷本が展示された。
今回の企画展は、同博物館と同図書館の13年ぶりの共催で実現。バチカンから来日した同図書館機密文書館館長のジャン=ルイ・ブルーゲス大司教は、レセプションのあいさつの中で「この企画展では、バチカン図書館所蔵の20冊以上の写本、印刷本を紹介しているが、これは例外的なことで、通常、貸し出しできるのは3、4冊である」と紹介し、この展覧会が非常に貴重な機会であることを強調した。
企画展「ヴァチカン教皇庁図書館展Ⅱ 書物がひらくルネサンス」は、7月12日まで開催。広島経済大学(広島市)が所蔵する、世界に39点しかない『ルター訳聖書』の初版本や、天正遣欧少年使節が実在したことを示す、伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチノの4人の花押・サイン入りの感謝状といった、歴史的価値の高い資料を目にすることができる。また、同博物館の展示では初めてプロジェクションマッピングが導入され、バチカン教皇庁図書館の風景を迫力あるコンピューターグラフィックスで体感することができる。展示される書物一冊一冊とじっくり向き合えば、思わぬ新しい発見があるかもしれない。
詳細・問い合わせは、同博物館の特設ページまで。