米国の第69回国家朝餐祈祷会が4日、今年は新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催された。現職大統領が出席する伝統のある行事で、2週間前に就任したばかりのジョー・バイデン氏も出席。バイデン氏は演説で政治的過激主義を批判した上で、新型コロナウイルス感染拡大の抑制に向け、米国民に団結を呼び掛けた。
バイデン氏は演説の冒頭、自身とファーストレディーのジル夫人のために国民が祈りをささげていることに謝意を示し、「アイゼンハワー大統領から始まった(国家朝餐祈祷会という)内省と交わりの伝統を継承できることを光栄に思います」と述べた。
その上で「連邦議会議事堂が襲撃され、民主主義が攻撃を受け、人命が脅かされ、人命が奪われました」と言い、「私たちが今やらなければならないことは、政治的過激主義、白人至上主義、国内テロに立ち向かい、打ち負かすことです」と続けた。
バイデン氏は政治的過激主義を批判する中で、トランプ氏の支持者らによる議事堂襲撃事件に言及する一方、急進左派の反人種差別運動「アンティファ」や反黒人差別運動「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)による暴力行為には触れなかった。BLMでは20人余りが命を奪われ、中小企業や家屋の損害は20億ドル(約2107億円)を超え、アパートの建物に住民が閉じ込められるという事件も発生するなどした。
バイデン氏は、演説の大部分を米国が直面する不安定な政治情勢に関する話に費やし、新型コロナウイルスの感染拡大とその影響による経済の崩壊や、人種的正義の呼び掛け、また気候変動という人類生存の危機などに触れた。
「この国の多くの人にとって、これは暗黒の時代です。それでは、私たちはどこに向かえばよいのでしょうか」。バイデン氏は自ら発した問い掛けに「信仰です」と答え、デンマークの哲学者セーレン・キェルケゴールの言葉を引用して、「信仰は暗闇の中で最もよく見えるのです」と語った。
「私はそれが真実だと信じています。私にとって信仰は、最も暗い時節に希望と慰めをもたらすものです。また、明瞭さや人生の目的ももたらしてくれますし、互いに尊重し合い、いたわり合い、誰も置き去りにしないという共通の目的によって一つの国として前進する道を示してくれます」
「これは、この国の民主党支持者だからおなかをすかしているとか、共和党支持者だからおなかをすかしているということではありません。どちらも同じ米国人であり、同じ人間なのです。米国では民主党支持者だから健康保険がないとか、共和党支持者だから健康保険がないということはありません。どちらも同じ米国人であり、同じ人間です。また、民主党支持者だから家を追い出されるとか、共和党支持者だから家を追い出されるということもありません。どちらも同じ米国人であり、人間なのです」
「これは、この国がこのような状況を看過してよいかどうかの問題ではありません。私たちの在り方が問われているのです」。バイデン氏はそう述べ、「宗教的なアイデンティティーの問題ではありません。今この瞬間、私たちは尻込みしていたり疲弊していたりしてはいけません。やることが山積しているからです」と続けた。
そして「私たちがこれらのことをすべて乗り越えるときがやって来ます」と言い、最後には「聖書には『泣きながら夜を過ごす人にも喜びの歌と共に朝を迎えさせてくださる』(詩篇30:6)と書かれています」と聖書に言及。「前途には耐え難い夜がまだたくさんあります。私たちはそれを一緒に乗り越えなければなりません。私たちは互いを必要とし合っています。互いに頼り合い、互いに高め合い、信仰に立って暗闇の中から光の中へと道をたどっていかなければなりません」と伝えた。
バイデン氏はジョン・F・ケネディ大統領以来、米国史上2人目のカトリック信者による大統領。演説の中でも聖書の内容に触れたり、信仰について語ったりしたが、中絶に反対するカトリック教会の立場とは異なり、中絶を容認する政策を推し進めていることから批判も受けている。
米カトリック系擁護団体「カトリック・ボート」のブライアン・バーチ会長は、バイデン氏の演説を受けて声明を発表。海外の中絶支援団体への米政府による資金援助を禁じた「メキシコシティ政策」を撤回したことなどを挙げ、バイデン氏は「自身の政権による信仰の人々に対する攻撃的かつ敵対的な措置」を黙認していると批判した。
「バイデン大統領がカトリック信者やカトリック教会を代弁していないことを覚えておくことも重要です。実際、大統領は、妥協が許されない教会の信条や教えの多くから明確に逸脱しています。このため米国のカトリック司教たちは結婚や家庭、信教の自由、胎児の保護などの問題をめぐって、バイデン氏の政策が『道徳的な悪を助長する』ことになると深い懸念を表明しています」
「この国は癒やしと団結を切実に必要としています。歴史を通じて、この国の指導者たちはユダヤ教とキリスト教がもたらした真理のために祈り、それに従うようこの国に呼び掛けてきました。(ですから)今朝のバイデン大統領の言葉は貧相なだけでなく、失望させられました」
米国の国家朝餐祈祷会は、ドワイト・アイゼンハワー大統領の時代の1953年に始まり、以来歴代の現職大統領が出席するのが伝統になってきた。米下院議員が毎週行っている朝餐祈祷会の延長として、毎年2月第1木曜日に開催されるのが恒例。例年は100カ国以上から、さまざまな国籍、宗教、政治的背景を持つ3千を超える人々が参加する。今年はオンラインで開催され、歴代の大統領5人のうち4人が何らかの形で参加したが、ドナルド・トランプ前大統領は参加しなかった。