世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、都市封鎖や移動制限が敷かれる中、キリスト教徒への迫害は昨年もその数と激しさを増し続けた。キリスト教迫害監視団体「オープンドアーズ」は13日、昨年のデータを基に、キリスト教徒に対する迫害のひどい上位50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(WWL、2021年版、英語)を発表した。
オープンドアーズによると、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した2020年もキリスト教徒への迫害は衰えることなく続き、幾つかの国では政府がコロナ禍に付け込み、さまざまな制限を厳格化して教会や信者への嫌がらせをエスカレートさせた。
信仰を理由に高いレベルで迫害や差別を受けたキリスト教徒は昨年、世界で3億4千万人に上った。そのうち3億900万人は、WWLに掲載された迫害のひどい上位50カ国で暮らしている。また、信仰を理由に殺害されたキリスト教徒は4761人に上り、19年の2983人から60パーセントも増加した。これらの殺害事件は、91%がアフリカで、8%がアジアで発生した。
コロナ禍悪用した差別が増加
新型コロナウイルスの感染拡大により新しい形態の差別が生じ、キリスト教徒が意図的に感染対策の支援から排除されるケースもあった。
インド(WWL10位、以下同じ)では、オープンドアーズのパートナー団体から食料支援を受けた10万人余りのキリスト教徒のうち、80%が配給所に近付けないよう追い払われたと報告している。こうした差別は、ミャンマー(18位)やネパール(34位)、ベトナム(19位)、バングラデシュ(31位)、パキスタン(5位)、マレーシア(46位)、イエメン(7位)、スーダン(13位)のほか、中央アジアや北アフリカの国々からも報告されている。
差別は政府当局者によって行われることもあるが、多くの場合は、地元の村の村長や委員会によって行われている。一部のキリスト教徒は手を振って追い払われたり、食料配給カードを破られたりした。ナイジェリア(9位)のカドゥナ州では、複数の村でキリスト教徒の家庭が、イスラム教徒の家庭に割り当てられた配給の6分の1程度しか受け取れなかったという。
教会の監視と「中国化」進める中国共産党政府
インド(10位)やトルコ(25位)、中国(17位)など一部の国では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、権威主義やナショナリズムが高まりを見せた。
推定9千万人のキリスト教徒がいるとされる中国は、10年ぶりのワースト20入りとなった。中国政府は、キリスト教会の監視強化と「中国化」を推進する口実として、新型コロナウイルスの感染拡大を利用した。河南省と江西省の複数の県からは、教会のオンライン礼拝が監視され、すべての公認教会に顔認証システムが設置されているとする報告が複数寄せられた。
また、教会指導者の選出に中国共産党が関与しているとする報告や、公的出版物に掲載された聖書の物語を、中国政府が「修正」しているとする報告も複数寄せられており、国家による干渉が増加傾向にある。例えば昨年9月には、姦通(かんつう)の女の物語(ヨハネによる福音書8章1~11節)について、イエスが女を石打ちにして殺したと改ざんされていたことが報じられた(関連記事:中国の大学出版社、教科書で聖書を改ざん引用 イエスが女を殺害と記載)。
一部の教会は、十字架などキリスト教を象徴する物品を撤去し、習近平国家主席の写真や中国の国旗に置き換えるよう強要された。また複数の場所において、牧師が共産主義の価値観に基づいて聖書を再解釈するよう命じられている。
オープンドアーズはまた、華為(ファーウェイ)などの中国企業を通じて、中国が、ミャンマーやラオス、イラン、サウジアラビア、ベネズエラなどの国々に、教会の監視などに用いられる恐れのあるセキュリティーシステムを輸出していると非難している。
サハラ砂漠以南のアフリカで暴力30%増加
サハラ砂漠以南のアフリカでは、キリスト教徒に対する暴力が30%増加したとオープンドアーズは推定している。暴力の増加は主に複数のイスラム過激派グループによるもので、過激派は新型コロナウイルスの感染拡大を、キリスト教徒など「異教徒」に対するアラー(イスラム教の神)の罰だと見なし、異教徒に対してジハード(聖戦)を布告している。
ナイジェリア(9位)では主に、過激化したフラニ族の遊牧民やテロ集団「ボコハ・ラム」、およびその分派である「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)により、キリスト教徒約3800人が昨年、殺害された。
こうした勢力は、新型コロナウイルスの感染拡大による都市封鎖や政府の弱体化に付け込み、足場を強化している。オープンドアーズによると、武装したフラニ族の遊牧民らは、キリスト教徒が住民の大半を占める村々を何百カ所も略奪したり、占領したり、作物を荒らしたりするなどしており、まるで焦土作戦のような様相を呈しているという。
北朝鮮が20年連続でワースト1位
世界の多くの地域で迫害が増加する中、北朝鮮は20年連続でWWLの1位にランクされた。推定40万人とされる同国のキリスト教徒のうち、5~7万人が刑務所や強制収容所に収容されていると考えられている。
北朝鮮のキリスト教徒は、まったく秘密裏に信仰を守らざるを得ない。万一、信仰を持っていることが発覚した場合は、本人を含めて家族全員が死刑または投獄の脅威にさらされることになる。強制収容所では、恐ろしい環境と拷問が待ち構えており、一度投獄されると、解放されることはほとんどないとされている。
クリスチャンは沈黙してはいけない
オープンドアーズ英国・アイルランド支部の最高責任者(CEO)を務めるヘンリエッタ・ブリス氏は、次のように述べている。
「(2020年は)何十億もの人々にとって厳しい年でした。しかし、世界中で迫害や差別に直面している3億4千万人のキリスト教徒の多くにとって、事態はさらに悪化しています。自国の政府から『お前たちの神に面倒見てもらえ』と言われ、食料支援を拒否されたインドやベトナムの信者の話や、3人の子を持つエジプト人キリスト教徒の母親のように、ムスリム同胞団に誘拐されて『(私は)改宗しました』と動画の中で言わされる女性たちの話を耳にすると、心が痛みます」
「でも、私は絶望していません。私はこのような迫害に立ち向かう勇敢なキリスト教徒たちに世界中で出会い、その力強さに心を揺さぶられました。オープンドアーズは、さまざまなことがあっても信仰に固く立っているこれらの素晴らしい男性や女性、子たちたちを支援し、励まし、擁護するよう努めています」
オープンドアーズ英国・アイルランド支部のアドボカシー(権利擁護)責任者を務めるデイビッド・ランドラム氏は、次のように述べている。
「世界中でキリスト教徒に対する迫害が増えていることは、私たち全員の心を乱すと思います。信教の自由は、それ以外の人権や自由に関する権利を多岐にわたって支えています。抑圧的な政府はそれを知っており、新型コロナウイルスの感染拡大という危機に乗じてキリスト教徒を苦しめているのです。私たちは沈黙していてはいけないのです。自分で声を上げることのできない人々に代わって声を上げるという道徳的義務があるからです」
WWL(2021年版)に掲載された上位50カ国は下記の通り。
1. 北朝鮮 2. アフガニスタン 3. ソマリア 4. リビア 5. パキスタン 6. エリトリア 7. イエメン 8. イラン 9. ナイジェリア 10. インド 11. イラク 12. シリア 13. スーダン 14. サウジアラビア 15. モルディブ 16. エジプト 17. 中国 18. ミャンマー 19. ベトナム 20. モーリタニア 21. ウズベキスタン 22. ラオス 23. トルクメニスタン 24. アルジェリア 25. トルコ |
26. チュニジア 27. モロッコ 28. マリ 29. カタール 30. コロンビア 31. バングラデシュ 32. ブルキナファソ 33. タジキスタン 34. ネパール 35. 中央アフリカ 36. エチオピア 37. メキシコ 38. ヨルダン 39. ブルネイ 40. コンゴ民主共和国 41. カザフスタン 42. カメルーン 43. ブータン 44. オマーン 45. モザンビーク 46. マレーシア 47. インドネシア 48. クウェート 49. ケニア 50. コモロ |