川越市内の19のキリスト教会と川越YMCAが協力して、第41回川越市民クリスマスが10日、ウェスタ川越大ホールで開催された。来場した約1700人の市民を前に、歌手で日本ユニセフ協会大使としても活躍するアグネス・チャンさんが「みんな地球に生きる人」と題して講演し、日本ホーリネス教団川越のぞみ教会の西岡義行牧師がクリスマスのメッセージを取り次いだ。
香港で生まれたアグネスさんは、母親が教会に通っていた影響で、生まれてすぐにカトリックの受洗を受けている。「アグネス」は洗礼名で「羊」を意味し、これまでの人生における考え方も、キリスト教に影響を受けていると明かした。世界各地の貧困国でボランティア支援を続けるアグネスさんはこの日、特に東アフリカ、南アジアの子どもたちの現状を伝えながら、今地球に生きる私たちにとって何が大切なのか、自身の体験から語った。
6人兄弟のちょうど真ん中に生まれたアグネスさんは、子どもの頃はすぐ上の2人の姉にコンプレックスを抱き、自分に価値を見いだせない不平不満の毎日を送っていた。そんなアグネスさんに大転換をもたらしたのが、中学時代のボランティア活動だった。当時通っていたミッションスクールでボランティアに参加し、初めて訪れた障がい者施設で、手足が不自由なのにもかかわらず、きらきらした瞳で歓迎してくれる子どもたちに出会い、自分がいかに恵まれた環境にいるのかが分かったという。
ボランティア活動を通していろいろな人と出会う中で、自分がこれまで不満だとか不幸だとか思っていたのは、自分のことばかり考えていたためだったと気付かされた。すると気持ちが楽になり、目の前にいる子どもたちに何でもしてあげたいと思うようになったのだという。アグネスさんは、「子どもたちにどうしたら笑顔になってもらえるか、あれこれ考えているうちに、自分のコンプレックスを忘れてしまった」と語った。そして、「神を愛する方法は、世界中で困っている兄弟を愛することで、神様大好きと言っても、神を愛することにはならない。神を愛することは、皆を差別なく愛すること」と話した。
日本で歌手デビューをした17歳のときは、ろくに日本語もしゃべれず、食べ物や文化の違いなどにも戸惑っていたが、それでも日本人は自分のことを認めてくれ、本当にうれしかったと当時を振り返った。その上で、「友好・平和とは、決して皆が同じになることではない」と述べた。「お互いの違いを認め合い、互いの国のことを勉強し尊重し合う、楽しめるものがあれば一緒に楽しみ、一緒にならないことがあれば大目に見る。そういう気持ちが世界の人々にあれば、戦争はなくなる」と力を込めた。
1980年代にアグネスさんは、テレビの仕事で初めてアフリカに行った。そこでの体験もまた、アグネスさんのその後に大きな影響を与えた。訪れたのは、干ばつと内戦により、100万人が飢えて死ぬ状況にあったエチオピアだった。砂漠化された地には、着るものもなく裸で、骨に皮が垂れ下がっている人々、骸骨のような人が歩けず這っている惨状が広がっていた。車を止めて降りると、大勢の子どもたちがハエと共に近寄ってきて、思わず後ずさりしてしまった。「子どもたちが寄ってきたのになぜ逃げるんだ、いつもボランティアだ、福祉だと言っているくせに」と、自分がとても嫌になったという。
難民キャンプでは、アグネスさんが歌う現地の言葉での替え歌に、子どもたちが立ち上がり、踊って歓迎してくれた。「その姿がかわいくて、抱きしめてこのまま死んでも構わないと思った」という。「この時の気持ちは、中学生の時のボランティアで感じたことと同じだった。皆と一緒に生きている、皆とつながっているからこそ、この命には意味があるんだ、すてきなんだということを、この子どもたちに教わった」と語った。
この体験をきっかけにボランティア支援を精力的に行うようになり、1998年に初代日本ユニセフ協会大使に任命された。その活動として、タイの児童買春の現状や、スーダンにおける子ども兵士の実態、東西ティモールやフィリピンなどで紛争の犠牲になった子どもたちの実態や児童労働問題などを広く訴えてきた。
イスラエルの国々も訪れており、そこで暮らす人々がどんなに心温かく親切かを体験したエピソードも話した。「みんな地球に生きる人。いつも祈っている、みんな無事でいてほしい」と訴えた。
「クリスマスに、キリストは私たちを救うためにこの世に来た。私たちの役目もキリストと一緒」と述べ、「時にはつらくて、耐えられない出来事も起きてくる。でも、そんな時でもクリスマスが来ると楽しくなる。それは、クリスマスが希望だからです。もし私が人を愛せるという約束を果たせたら、きっと私も愛される。その希望です」と語った。
西岡義行牧師はメッセージの中で、イエス・キリストが馬小屋で生まれたことが、当時神殿にも入れてもらえず虐げられていた人にとっていかに喜びであり、救いだったかを説き、排除され、仲間に入れてもらえない人たちをイエス・キリストが何よりも大切にし、寄り添っていたことを伝えた。教会でのある出来事を通して、自分が寄り添う者ではなく、排除する側の者だったことに気付かされたという西岡牧師は、「私たちは知らないうちに誰かを排除していないか、無視をしたり、無関心を装ったりしていないか」と問い掛けた。
西岡牧師は、皆から排除され、十字架にかけられた時のイエス・キリストの言葉「父よ、彼らをお赦(ゆる)しください。自分が何をしているのか知らないのです」を引用し、排除される側だけでなく、排除する側の罪をも赦すためにイエス・キリストがこの世に来てくださったのだと語った。人は誰もが、助ける者ではなく助けられる者だとし、救い主イエスの恵みに感謝の祈りをささげた。
毎年この集会に参加しているというカトリック信徒の女性(71)は、「アグネス・チャンの真実な証しに感動した。これまで自分が無関心であったことを反省した。これからなすべきことを神様にささげていきたい」と感想を述べた。
今回の実行委員長を務めたカトリック川越教会の加藤智神父は、「昨年より多くの方に来場していただき、素晴らしい市民クリスマスとなった。教派を超え、またクリスチャンでない人も一緒にクリスマスの恵みを共にでき、本当に感謝しています」と語った。