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北アルプスのふところから神の懐へ

工藤公敏牧師「北アルプスのふところから神の懐へ」(3)・・・父の自殺

2009年5月26日12時56分 コラムニスト : 工藤公敏
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父の自殺

死んだ父の写真の前にせめての感謝の気持ちで三枚の賞状を置いた。一枚は卒業証書、一枚は精勤賞、一枚は長野県の教育委員会からの表彰状だった。どの賞状も一番先に父に見てもらいたかったが、父はこの世の人でなかった。父は冬になると、囲炉裏で長靴を温め、弁当を詰めて学校に送り出してくれた。

母はリュウマチで体が弱り果てていた。父のお陰で、一時間の電車に乗り、片道七キロの道を歩いて三年高校に通い続ける事ができたと思う。二百名の卒業生の中で、一人だけ県の教育委員から表彰されたのも、父の励ましのお陰だ。近所の人達は泣いてくれた。翌日名古屋の会社に入社する為に、父の葬儀に出ないで汽車の人となった。一番下の姉が信濃大町駅まで送ってくれた。父との突然の別れは悲しく、寂しかった。

名古屋へ就職

しかし今後の家の経済を誰が支えるのかを考えると、私がメソメソしている訳にはいかない。兄は精薄で働く力はない。母も姉も体が弱い。全ての責任を背負ってすでに決まっている会社に入ろうと決心した。会社に入る時には父は病死した事にし、無事入社式に出ることができた。

配属された先は、冷凍機の研究課であり、私の面倒を見て下さったのは、鈴木さんという優しい方だった。一度も怒らずお世話して下さった。良い上司に恵まれた。コンプレッサーの事を知らない者に手取り足取り教えて下さった。最初の年は、色々な職場を訓練の為に回った。

ジープの燃料消費試験をした。農村では四十才を超えた会社の先輩の二人と共に、凹凸な山道を来る日も来る日も車を走らせた。昼にいろいろな食堂に入るのが楽しみで良くジンギスカンを食べたものだった。茶臼山、浦郡、四日市、陶器で有名な多治見を通過した。

ある月は農業用のエンジンの試験に当たった。毎日エンジンの音がするそばに座って同じテストを繰り返していた。

一度、小牧の飛行場からヘリコプターに乗って振動試験する機会があった。初めてのことなので乗ったヘリコプターにビクビクしながらの仕事であったが栄町のテレビ塔が眼下に見えたのが印象的であった。

当時会社の、飛行機の部門では、アメリカの飛行機関連会社係と提携して、F八六Fのジェット機を組み立てていた。そのジェット機の振動試験のための、測定器をつける組み立て台の設計をすることもあった。

一年の実習の期間を無事終わろうとしていた二月のこと、思い掛けない失敗をしてしまった。アルコールランプでフレオンガスの漏れを調査中、アルコールが不足し補充したところ、補充用のアルコールのビンに引火してしまった。私はただ、コンクリートの床に火の付いたビンを投げ捨てることしかできなかった。火がコンクリートの床に走り大騒ぎになり、社内の消防車も来てしまった。始末書を書くことになって、私は虚しい気持ちで夕食をとっていた。その時、藤田君が近づいてきて教会に誘ってくれた。

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◇

工藤公敏

工藤公敏

(くどう・きみとし)

1937年、長野県大町市生まれ。基督兄弟団聖書学院、ルーサー・ライス大学院日本校卒業。基督兄弟団理事長、同聖書学院院長など歴任。基督兄弟団目黒教会牧師、キリスト再臨待望同志会会長、目黒区保護司。著書に『北アルプスのふところから神の懐へ』など。(2023年4月14日死去、プロフィールは執筆当時のものです)

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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