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ジョージ・ミュラーの生涯

日ごとのパンを求めて―ジョージ・ミュラーの生涯(3)前科者の烙印

2026年5月13日18時30分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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百人一読―偉人と聖書の出会いから(30)ジョージ・ミュラー 篠原元+
ジョージ・ミュラー(1805~98)

ジョージは生まれて初めて刑務所の中の生活を体験した。最初は賭博や飲酒から始まって、すりや窃盗、恐喝と、まるで坂を転がり落ちるように悪事を重ね、行き着いたのが投獄と禁固刑だった。

囚人に差し入れられる粗末な食事をかみしめながら、彼は自分が情けなくなって涙を流した。こんなはずではなかった。全てうまくいっていたと思っていたのに。

息子が犯罪を犯したという連絡を受けて、父親は驚愕(きょうがく)し、刑務所に駆けつけてきた。そして、国税局の役人であった彼は、たまたまこの刑務所の署長と旧知の仲であったことから、その執り成しで、ジョージの刑期は1カ月足らずで済んだのであった。

しかしながら、その後釈放されても、ジョージは自分が犯罪者という一生消えない烙印(らくいん)を押されて生きていかねばならないことを痛感したのであった。

それは後になって全く新しい人生を彼が歩むようになっても、なお心のどこかでそのささやきが聞こえるはずだった。(おまえは何をしても、しょせん前科者じゃないか)

出所して家に戻ったジョージは、家族から冷たい目で見られた。そして彼自身別人のように陰気で卑屈な人間になってしまっていた。あの不良仲間と町で遊び回っていたころの陽気な笑い声はどこにいってしまったのかと思われるほどだった。

「これほど恥ずかしい思いをしたことは今までなかったよ」。父親は、改めて息子に説教しながら言った。「卑しくも国税局の管理職にあるこの身が、どら息子のために警察の署長の前にはいつくばって謝罪をし、執り成しをしなくてはならなかったのだからな」

さすがにジョージは、神妙な顔で父親の小言を聞いてから言った。「お父さん、本当に悪かったと思うよ。これからは心を入れ替えて、ちゃんと学校に行って、その後、何か仕事に就くからさ」

父親は、そんな息子の謝罪を聞き流し、またしてもくどくどと、彼がいかに恥ずべき犯罪を犯したか、強盗や殺人を犯したのではないにしても、一生を通じて前科者の烙印が押されてしまったのだということを言って聞かせるのだった。

しかし、ジョージは心の中でせせら笑っていた。(お父さんは、結局自分の体面だけを考えているのさ。自分の息子が犯罪者になったことで、自分の役所の中の地位が危うくなりはしないかとそれだけを心配しているんだろう)

神妙に罪を悔いるふりをしつつも、彼の心は石のように固く、冷たく閉ざされていたのだった。

父のヨハン・フリードリッヒ・ミュラーは、今度ばかりはあまりにも息子を甘やかし過ぎたことを悔い、何か対策を考えなくてはならないと考えた。それで、半ば強制的に神学校であるノルトハウゼン校に、親元から離れて寄宿舎に入れ、学ばせることにした。

しかし、この方法こそが、ジョージを自立させるための最良の処置だった。寄宿舎に入ったジョージは、生まれ変わったように学業に身を入れ、真面目に授業に出、夜遅くまで自室で勉強するようになったのである。

この学校で彼は2年間学ぶことになったが、休暇になっても一度も家に帰ることなく、ひたすら図書館か、自室で勉強していた。何人か友人ができたが、ジョージは彼らと遊びに出かけるようなことは一切しなかった。

それだけでなく、彼は話しかけられてもあいさつ程度のことしか会話を交わさなかったので、変わり者と言われるようになった。

ところで、このノルトハウゼン校には優れた教師が多くいたが、その中にラテン語を教えるある教師がいた。彼はミュラーという生徒がいつも一人で廊下の外れのベンチで本を読んでいるのを見て声をかけた。

「君はよく本を読むそうだが、若い頃には良い本をたくさん読みなさい」。すると、この教師を驚かせたことには、彼はラテン語でこのように返事したのである。「はい、先生。私は本を読むのが好きで、ラテン語の勉強が楽しくてたまりません」

この時、この教師は両手を彼の肩に置いて言った。「ミュラー君、君には語学の才能がある。十分に学んで、将来のために役立てなさい」

この教師こそミュラーの中に眠っている語学の賜物を発見した最初の人であった。そして、やがてミュラーが伝道の働きをするようになったとき、この才能が大いに役立つことになるのである。

*

<あとがき>

国税局の役人の息子が前科者になったのですから、誰もが驚くと同時に、ミュラー家の家族に冷たい目を向けました。しかし、どこまでも息子を溺愛する父親は、刑務所の署長と旧知の間柄であったことから、ジョージの量刑をわずか1カ月足らずにしてもらったのでした。

そして家に帰ると、息子にさんざん説教をします。さすがにジョージは神妙な顔で父親の小言を聞いていましたが、心の中では嘲笑し、肩をすくめていたのです。彼は、父親が自分の体面を保つために、あれこれ世話を焼いてくれているのを見抜いていたのです。

一方、父親はあまりにも息子を甘やかし過ぎたことを深く反省し、彼を自立させるためにノルトハウゼン校の寄宿舎に入れることにしました。しかし、この学校に入ったことこそが、この放蕩息子を自立させ、正しい人生の目標に向かって歩ませることになったのです。

実に神様は、どんなに堕落した者をも見捨てず、必ず立ち直る道を備えられていることを思わずにいられません。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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