「おまえは間違っている! この愚かな計画がうまくいかず、来年おまえの家族が飢え死にすることになっても、絶対に私のところに泣きついてくるんじゃないぞ!」
サイモンは、自給自足農業に長年携わっている年老いた父親が、首を振りながら立ち去るのを眺めていた。彼は振り向いて、自分の小さな畑に目をやった。確かにその畑は、父が50年以上も営んできた父の畑とは全く違っていた。丁寧に種を植えた穴の周りには、マルチ※がびっしりと敷き詰められていたのだ。(※土の乾燥などを防ぐために畑のうねを覆うフィルム)
サイモンは、「神の農法」と呼ばれる農法があるのを耳にした。彼の過去数年間の畑の労働は、自分と家族が食べるだけの収穫を得るのがやっとで、そこから収入を得るのは、夢のまた夢だった。
しかし彼は、信仰の一歩を踏み出す決意を固めた。「神の農法」は、単なる農法である以上に、人間の在り方について、より深く語りかけているように思えたのだ。
しかしサイモンは逃げ道として、また彼を指導してくれた農家たちの勧めもあって、従来通りの農法の畑の区画も作った。それは、父から教わったように耕運機を使って植え付けをし、マルチは敷かない伝統的な方法だ。サイモンは深呼吸をした。いつ雨季が始まってもおかしくない今、彼にできる全ては、主を信じてただ待つことだけだった。
本来、アフリカは地球上で最も豊かな大陸だ。広大な国土、天然資源、肥沃な土壌、これらは他のどの大陸にも引けを取らない。ところが、長い間アフリカは「世界の物乞い」のレッテルを貼られ、世界のGDPのわずか5%しか産出できないでいる。過去50年間に何千億ドルもの援助がこの大陸に注ぎ込まれたが、貧困に苦しむ人々の数は増え続けているのである。
政府の腐敗、部族間紛争、植民地支配の傷跡、教育の欠如など、悲惨な状況の原因は無数にあり、相互に関連している。中でも問題の上位に挙がるのが、土地の潜在能力を全く生かしていない自給自足農家たちの貧しい農業だ。
アフリカでは7億5千万人以上が自給自足の農業を営んでおり、家族を養う収穫が精いっぱいで、販売して収入に換えるビジネスモデルがほとんどない。耕作、焼畑、単作(輪作をしない)といった伝統的な技術によって土壌は侵食され、土地の栄養分は流出し、作物の育成が阻害され、ほとんどの自給自足農家たちが、生産性が先細っていく悪循環から脱せずにいる。
土壌がもともと豊かであるにもかかわらず、アフリカの多くの地域では、洪水や干ばつなどの異常気象に定期的に見舞われる。そのため、土壌と水の保全に重点を置いた農法が必要となる。皮肉なことに、アフリカの生態系では必ずしも機能しない耕運機や西洋式の農業技術を導入したのは、1800年代の宣教師たちだった。
1984年、ブライアン・オールドリーブというジンバブエの敬虔な農家が、現在の「神の農法」運動を始めた(2021年11月17日当課題参照)。その名が示すように「神の農法」は確固たる聖書的基盤を持っている。
オールドリーブは農作物の不作に苦しんでいた。そこで彼は神に助けを求めた。オールドリーブは、不作という絶望の淵で、神が彼に何事かを教えたいと願っておられることを感じた。神は、ご自身の方法による農業の真理へ、オールドリーブを導かれたのだ。
2015年、WGM(World Gospel Mission)の宣教師とウガンダの教会指導者たちは、「神の農法」チームによって訓練を受けた。彼らは、段階的に「神の農法」の聖書的根拠、技術、管理スキームを、ウガンダの自給自足農家たちに教えることを申し出た。現在では、神の農法の国内的伝播のサイクルが確立し、同国人への主要なトレーナーはウガンダ人が担っている。
「神の農法」は、「神がどのように植物を育てておられるのか」に着目し、植物が野生でどのように生育しているかを観察した結果の知恵だ。落ち葉や枯れ草による自然のマルチは、土壌の浸食を防ぎ、水分を保持する。マルチ層がない状態で、土から植物が取り除かれると、土や種は流され、土壌から貴重な栄養素が溶け出してしまう。
「神は私たちに、降雨と土壌という2つの大いなる恵みを与えてくださいました。『神の農法』とは、この2つの贈り物を大切にする農法です」と、ウガンダで「神の農法」運動の発展に尽力している宣教師ジョン・ミューライゼンは語る。
この運動には、農業の技術や経営に関するトレーニングに加えて、聖書の知識と弟子訓練の要素が強く織り込まれている。コーチは研修後、農家を訪問し、植え付けプロセスにおいてさらなる指導を行う。トレーナーが用いる重要な聖句の一つに、ホセア書4章6節「わたしの民は知識がないので滅ぼされる」がある。
伝統的な農法がもたらす結果をよりよく知り、理解することで、農家は土壌を枯渇させるのではなく、それを豊かにする方法を実践することができるのだ。
従来の農法に背を向けて、父親から厳しい警告を受けていたサイモンは、神の農法を実践した畑の区画で、それまでの収穫量の6倍を収穫した。
ジョンは言う。「『神の農法』の基準に照らしても、サイモンの収穫は、規格外の増大です! たいていの農家では3倍程度になるのがやっとです」。サイモンの父親は、息子の収穫に驚き、どうすれば同じ技術を自分の畑で実践できるのかと、謙虚に助言を求めた。
サイモンの収穫増のうわさが広がると、サイモンは、彼の部族の王であるブソガ王(ウガンダには5つの部族立憲君主制がある)の宮殿から興味深い電話を受けた。「君は農業で面白いことをやっているそうじゃないか。うわさは聞いている。君の成果を見たいものだ」
彼らはサイモンの畑を訪れ、畑の植え付けから収穫までの全過程を目撃した隣人たちと、彼が行ったプロセスを検証した。感心した王の側近たちはサイモンに言った。「もし王国がこの方法を教えるために、さまざまな共同体で研修セミナーを開くなら、君は講師として来てくれるかい? もちろん相応の報酬を払うつもりだ」
自給自足の農家が収入を得ることで、家族全員が貧困から抜け出すことができるのだ。
ゴッドフリー牧師は、ピーナッツ農家も営んでいた。彼は、神の農法が彼の人生にもたらした祝福について証言をした。
「『神の農法』を始める前は、子どもたちの学費を払うのにいつも苦労していました。家族を養うのに十分な食料がないこともあり、私の一家は、電気もない草ぶき屋根の泥小屋に住んでいました。子どもたちはロウソクの明かりで宿題をしていました。『神の農法』以来、私の家の屋根は鉄製の屋根に変わり、ソーラーパネルも設置しました。今では、子どもたちはきれいなLEDライトで宿題をしています。父の家にも、鉄製の屋根とソーラーパネルを設置してあげました。私の子どもたちはより良い学校に通い、学費は学期の初めに全額支払っています。私は新たに2エーカーの土地を現金で購入しました。銀行にもお金があります。信じられますか? いつもお金に困っていた私の銀行口座にお金があるんですよ!」
ひとたびコミュニティー内の農家が「神の農法」の訓練を受ければ、その農家は教育レベルに関係なく、他の農家を訓練することができるようになる。
ジョージ・ナリティ牧師は、妻のセリーナと共にパテテという小さな村で教会を導き、18の教会を監督し、小学校の教師もしている。彼らは、プランテンバナナの小さな畑を持っている。ジョージは「神の農法」を学び、その成果を確かめるために試験的に畑を作った。一つは伝統的な方法で、もう一つは「神の農法」によるものだ。
彼がバナナを収穫し、市場に売りに出したところ「伝統的な」バナナは1茎当たり約1・5ドルにしかならなかったが、「神の農法」のバナナは、他のものより品質が高く、1茎当たり9ドルにもなったのだ!
自分の畑で2シーズン「神の農法」に取り組んだ後、ジョージは学校長に相談した。彼は「神の農法」で、学校の畑のトウモロコシを栽培し、子どもたちに教える許可を求めた。ウガンダのほとんどの田舎の学校には小さな農場があり、生徒たちは、自分たちの給食用の栽培をすることで農業を学んでいる。
校長は、畑の一番悪い小さな場所に区画を割り当てた。その区画は、前年は165ポンド(約75キロ)のトウモロコシを収穫するのがやっとだった。ジョージが申し出た年は、干ばつの年であり、何かが育つとは到底思えなかった。
しかし、ジョージの決意は揺るがなかった。子どもたちもこのプロジェクトに熱中した。そして収穫時になると、なんと1300ポンド(約590キロ)という驚くべき量のトウモロコシを収穫したのだ! 子どもたちは自分たちの親に、トウモロコシが育っているところを見に来るように促した。
「この地域でこんなトウモロコシを見るのは初めてだ!」と人々は口々に驚嘆の声を上げた。ジョージは「神の農法」を地域の人々にも教え続け、いつでも神の備えと知恵のメッセージも宣べ伝えている。妻のセリーナは「『神の農法』は、まるで長靴を履いた福音だわね 」と言って、喜びの驚嘆を上げた。
「神の農法」は、農業の伝播だけにとどまらず、人生のあらゆる分野でキリストに根ざして生きることを教える。技術的に適切な農法伝授と弟子育成、伝道という強力な組み合わせで、確かな科学的根拠に基づいているのだ。この農法は、地域社会で、言葉と行いで神の愛を示す非常に実践的な方法として地域教会に用いられている。
「神の農法」は、ウガンダにおけるCHE(Community Health Empowerment、共同体の健全な活性)と呼ばれる4つのイニシアチブの一つだ。CHEは、人々が肉体的、霊的、そして人間関係の健康を回復するのを助けるために作られた一連のプログラムである。
要するに、CHEは神、地域社会、環境との調和を可能にする。全人格的な変革の結果、家族全体や地域社会全体が変化し、触発され、神の教えに従うようになるのだ。
「『神の農法』は、教会が地域社会でより効果的に活動できるようにするためのツールです。人々が神との関係と、神が自然界を通して与えてくださった資源とのつながりを知るとき、彼らの目に光がともるのです。そしてその結果が説得力を持って、悠然とそれ自身を語るのです」と宣教師ジョン・ミューライゼンはしめくくった。
主イエスは、真理を語ると同時に5千人にパンを与え、人々の実際的な必要にも応えた。同じように、神からの知恵による「神の農法」は、多くのウガンダ人の現実の必要に応えることによって、神がどれほど憐(あわ)れみ深く、彼らの髪の毛一本さえも気にかけてくださる方なのかを示し、人々を神の恵みに立ち返らせている。
福音は単なる題目ではなく、現実に働く力だ。そしてそれは、ウガンダでは農業を通して、文字通り豊かな実を結んでいる。
「神の農法」とそれを伝道のツールとして使う兄姉たちの働きを通して、畑の収穫とともに、福音による霊的に豊かな収穫がウガンダをさらに祝福するように祈っていただきたい。
■ ウガンダの宗教人口
プロテスタント 9・9%
カトリック 39・2%
英国教会 36・1%
イスラム 11・5%
土着宗教 2・6%
正教会関係 0・1%