8月の平和旬間を前に、日本カトリック司教協議会会長の菊地功大司教(東京大司教区)による談話「人間のいのちの尊厳を守るものは」(7日付)が20日、カトリック中央協議会のホームページで発表された。
菊地大司教は談話で、人間の尊厳に対するカトリック教会の考え方や、昨年2月から続くウクライナ戦争、今年6月に可決・成立した入管難民法の改定案、異質な存在を排除しようとする社会の傾向などに言及。その上で、カトリック教会は「人間の尊厳を守り、すべてのいのちを大切にする社会の実現を希求し、思いやりと支え合いによる連帯が実現する社会へと変わっていくことを目指しています」と述べ、平和の実現のために働き続けようと呼びかけた。
談話は、▽いのちの尊厳に対する脅威と危機、▽ウクライナ戦争、▽在留資格のない子どもたちへの人道的配慮、▽排除をなくす連帯の必要性、▽キリストの平和をわたしたちに――の5項目で構成。日本語の他、英語でも発表された。
昨年2月にロシアが軍事侵攻したことで始まった「ウクライナ戦争」については、「多くのいのちを危機に直面させ、その尊厳を奪い続けています。いのちを守り平和を希求する多くの人の願いを踏みにじりながら、いのちの危機が深刻化しています」と指摘。その一方、「解決の糸口さえ見えない中で、世界は思いやりや支え合いといった連帯よりも、暴力によって平和を獲得することを肯定する感情に押し流されています」と懸念を示した。
その上で、暴力を肯定する感情は、国家間の相互不信と相まって、武力による抑止力の容認につながるとし、「日本においても自衛の名の下に武力の増強が容認されていることは憂慮すべき状況」だとした。また、「暴力は、真の平和を生み出すことはありません」と強調。「人間の尊厳は、暴力によって守られるべきものではありません。それは、いのちを創造された神への畏敬の念のうちに、互いに謙遜に耳を傾け合い、支え合う連帯によってのみ守られるものです」と訴えた。
「在留資格のない子どもたちへの人道的配慮」では、2年前に廃案にされながらも、当時の骨格がそのまま残された入管難民法の改定案が可決・成立したことに言及。日本で生まれ育ちながらも、両親に在留資格がないことで強制送還の危機にさらされている子どもたちは300人に及ぶとし、こうした子どもたちを含め、多くの人間の尊厳が危機に直面し続けていると訴えた。その上で、今後も人間の尊厳を尊重し、必要な人道的配慮をするよう求め続けていくとした。
「排除をなくす連帯の必要性」では、社会的弱者に対する無関心が広がる一方、「異なるものを排除することで安心を得ようとする社会の傾向も強まっており、排除や排斥によって人間の尊厳が危機にさらされる事態は深刻化しています」と指摘。コロナ禍の中、ローマ教皇フランシスコは、より良い未来を生み出すためには連帯こそが不可欠だとし、特に社会的弱者に対する思いやりの重要性を説き続けてきたとし、今年の復活祭に教皇が伝えたメッセージの一部を引用するなどした。
最後の「キリストの平和をわたしたちに」では、困難な状況にあっても、互いに支え合い、共に歩む連帯を、具体的な愛の行動で示している多くの人々がいることに言及。こうした人々は、「不安と不信の暗闇に輝く希望の光」だとし、再び教皇の復活祭のメッセージを引用しつつ、「『あなたがたに平和があるように』と呼びかけられる主の言葉に、力をいただき、平和の実現のために働き続けましょう」と呼びかけた。
日本のカトリック教会の平和旬間は、1981年に当時の教皇ヨハネ・パウロ2世が広島を訪問し、平和メッセージを発信したことを受け、翌82年から始まった。毎年8月6日から15日までの10日間が該当し、平和のために祈るとともに、各教区がさまざまな取り組みを行っている。