世界で最も多言語に吹き替えられている映画をご存じだろうか。それは1979年に公開された映画「ジーザス」だ。この映画は、2012年7月9日に817番目の吹き替えが完成し、世界最多言語吹き替え映画として正式にギネスブックに登録された。そして昨年7月には、2千言語の吹き替えが完成するという金字塔を達成したのだ。
ルカ福音書を映像として忠実に再現したこの映画は、福音伝道のツールとして世界中で大きく用いられてきたが、制作から40年以上たつ今もその活躍は全く衰えない。
宣教団体Cru(キャンパス・クルセード・フォー・クライスト=CCC)の「ジーザス・フィルム・プロジェクト」は、世界中の誰もが、心に響く母語とその人が理解できる方法で福音に接することを目的に活動している。ガーナでは「ジーザス・フィルム・ライダー」と呼ばれる5人の若者が、へき地の村々をオートバイで行き巡って上映会を開いて伝道に励み(22年8月25日当課題)、ウクライナでは紛争勃発後、避難民でごった返している国境キャンプでこの映画が活躍したこと(22年3月30日当課題)は、すでにこの課題でも伝えた。
全ての人に届くため、ジーザス・フィルム・プロジェクトのレコーディングチームは新しい言語翻訳のために世界中を訪れ、現地語の話者と協力し、翻訳、レコーディング、そして吹き替えの確認作業を行っている。
まだ翻訳されていない言語の中には、文字を持たない口承言語もあり、その言語を話す人々は、聖書を通して福音に触れることがほぼ不可能だ。また、人里離れた村の人々が話す言語もあり、そのような人々は文字による福音書を手にする機会がほとんどない。そこでプロジェクトを通して吹き替えされた映画が活躍する。これが、あらゆる人々がそれぞれの母語でイエスの物語を理解できるように助けるのだ。
映画が新しい言語に翻訳されるたびに、その吹き替え映画は、言語や識字率、不便さなどの障壁を取り除き、今まで福音を聞いたことのない人々にイエスを紹介することを可能にするのだ。プロジェクト最大のイニシアチブは、イエスが「あなたを愛している」と人々に伝えるのを、誰もが心に響く自分の母語で聞くことができるようにすることだ。そのために、パートナーシップ、技術の進歩、そして世界中の兄姉らの祈りが、長年にわたってこの活動を大いに助けてきた。
記念すべき2千番目の吹き替えとなったミャンマーの少数民族ゾ族のゾ語版が、パンデミックの最中の昨年、どのように完成したのかを紹介したい。
3年続いたCOVID-19の大流行は、ジーザス・フィルム・プロジェクトが直面した最大の障害の一つだった。現地への渡航は中止され、計画もキャンセルされた。それでも活動は続けなければならない。何百万人もの人々が、心に響く母語で福音を聞くことを待ち望んでいるのだ。
海外への旅ができなかったため、チームは知恵を絞り、全米の移民コミュニティーのコンタクトを探し始めた。こうしてチームはシング牧師とつながった。
ミャンマー出身のシング牧師は、テキサスの神学校に通っていた。彼は、ゾ族が自分たちの言語と自分たちが理解できる方法でイエスの物語に触れる必要を強く感じていた。ゾ族の翻訳聖書は2019年に完成していたものの、ミャンマーではまだ印刷されていなかったし、ゾ族の多くは文字を読むことができなかったのだ。
ゾ族はおよそ6万5千人の小さな民族グループで、多くはミャンマー北西部とインド北東部に住んでいるが、差別と迫害のため、多くのゾ族の人々が世界中に散らばっていた。米国では28の町々にいたが、テキサス州フォートワースでは、シングがゾ族の小さな家の教会を導いていた。
プロジェクトチームがシング牧師に、ジーザス・フィルムをゾ語で収録することに興味があるかを尋ねると、彼は熱心にプロジェクトに関わり始めた。シングは、台本の翻訳、声優への連絡、全工程の調整など、あらゆる面で協力した。彼は、イエスが誰であるのかを視覚的に伝えるこの魅力的で強力なツールを手に入れることを切望していたのだ。
レコーディングチームの決意と、シング牧師とゾ族のコミュニティーの協力がなければ、ゾ語の吹き替えは、もしかすると10年はかかっていたかもしれない。しかし、全ての国の人々が神を知るという神の願いは、たとえ世界的なパンデミックがあっても決して妨げられることはなかったのだ。
20世紀最大の大衆娯楽にして総合芸術は「映画」だと考える人も少なくないだろう。そしてそれは、とりもなおさず福音宣教の最大のツールといっても過言ではない。特に、文字を持たない未伝地民族や文盲の人々へは、映像作品以外の選択肢は考えられない。
79年の映画ジーザスは、CCCの創設者であるビル・ブライト氏の情熱によって制作された。彼が天に召されてすでに20年になるが、彼の手がけた映画プロジェクトは、今もすさまじく福音を伝え続けている。きっと彼も天で喜んでいることだろう。
ジーザス・フィルムによる伝道が、なお力強く用いられ、多くの人々に救霊をもたらすことができるよう祈っていただきたい。