もう何年も前の話だが、ワールド・ビジョンは、ソマリアのある地域を支配していたイスラム過激派組織「アル・シャバブ」によって、その地域から追放された。
そのため、ワールド・ビジョンが提供していたさまざまな活動が影響を受けた。夜間の学校は閉鎖され、非常食の供給は止まり、衛生や清潔な飲料水のための教育プロジェクトは停止したのだ。この時、ワールド・ビジョンは何百人もの現地採用の労働者を解雇せざるを得なかった。
そんなことがあった数カ月後、ソマリアのワールド・ビジョンのディレクターは、彼らが立ち退きを余儀なくされた非常に危険な地域を訪れた。地元のイマーム(イスラムの指導者)の一人を訪ねた彼は、武装した男たちに囲まれながらこう尋ねた。
「先生、あなたは私たちお互いが神に仕えることを不可能にしています!」
この発言に衝撃を受け、対面したイマームは「どういう意味だ?」と尋ねた。ディレクターは続けた。
「コーランも聖書も、神と隣人を愛するよう私たちに求めています。あなたは私たちの隣人でありながら、私たちがあなたを愛することを不可能にしているのです。あなたが私たちをこの地域から追い出した結果、4万人の子どもたちが学校に行けなくなり、毎週8~10人の子どもたちが栄養失調や不衛生で死んでいます。つまり、あなたは私たちお互いが神様に仕えることを不可能にしているわけです。どうするつもりなんですか?」
その話に驚いて目を丸くしたイマームは、ディレクターに3度聞き直し、そのメッセージを繰り返し述べるように頼んだ。そして、ついにこう言ったのだ。
「もし、君の言うことが本当なら、私はこのことをモスクで説教しようじゃないか。私以外の20人のイマームの名前も君に教えよう。彼らにも同じメッセージを伝えてくれないか」
この出会いの直後、ワールド・ビジョンは現地に戻り、活動を再開する許可を得たのだ。
この経験も含め、ワールド・ビジョンは、他の宗教が支配的な地域で実りある活動を行うため、以下の3つの重要な教訓を得た。
1. イスラム文化圏でキリスト教の組織として信頼されたいのであれば、ただキリスト教徒であることです。それを隠したり、ねじ曲げたり、半分イスラム教徒のように振る舞おうとはせず、キリスト教徒であることをはっきりさせることです。これが信頼を生み出します。
2. 自分自身が信じていることを他の宗教と進めることは大いにあり得ます。相手を完全に自分の信仰に改宗させなくとも、お互いが信じている共通の事柄を一緒にやっていくことは可能です。
3. 神は誰を通してでもご自身を現すことができます。それは使徒パウロが次のように述べている通りです。「それは、神を求めさせるためです。もし人が手探りで求めることがあれば、神を見出すこともあるでしょう。確かに、神は私たち一人ひとりから遠く離れてはおられません。『私たちは神の中に生き、動き、存在している』のです。あなたがたのうちのある詩人たちも、『私たちもまた、その子孫である』と言ったとおりです」(使徒17:27、28)
それにしても、危険な過激派が支配する異教世界で働くワールド・ビジョン・ソマリアには、驚くような命知らずの信仰の豪傑がいるものだ。
彼らは臆することなく、キリスト者としてイスラム世界の人々に仕えている。近年過激派が台頭し、テロや殺害、誘拐事件などが絶えないソマリアだが、彼らワールド・ビジョンのようなNPOが、人々に仕え、彼の地で豊かに実を結ぶうよう祈っていただきたい。
■ ソマリアの宗教人口
イスラム 99・6%
プロテスタント 0・06%
カトリック 0・01%
正教会関係 0・28%