ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始してから24日で1年となった。キリスト教主義の国際NGO「ワールド・ビジョン」は、侵攻1年を前に現地の連携団体と協力し、ウクライナ東部の3都市で子どもを対象に調査を実施。その結果、戦争や避難生活、家族との離別などによって生じる精神的苦痛から、タバコや薬物に手を出してしまう子どもが増えていることが分かったという。
ワールド・ビジョンは、現地の連携団体「アームズ・オブ・マーシー」と協力し、昨年12月にウクライナ東部のハルキウ、ヘルソン、ドニプロの3都市で、9~17歳の子ども457人を対象にインタビューを実施。今年1月に追加調査とデータ分析を行った。
その結果、51%の子どもが、友人らが精神的苦痛から喫煙やその他の依存症に陥っていると回答。特にこの傾向は、14~17歳の男子では77%に上るという。
ワールド・ビジョンのウクライナ危機対応ディレクターであるクリス・パルスキー氏は、「現在、10代の少年の80%近くが、彼らの仲間が何とかやっていくために喫煙やその他の薬物を使用するようになったと考えているという事実は、非常に憂慮すべきことです」と話す。
また、調査によると、タバコや薬物だけでなく、暴力に走ってしまう友人らがいると回答した子どもも21%いた。パルスキー氏は、子どもたちが暴力に走ってしまう理由について、「親族が砲撃で傷つき、親が最前線に兵士として送られていることを非常に不正義であると感じ、他者に復讐(ふくしゅう)したいという気持ちを抱いています」と説明する。
さらに、47%の子どもが、自宅に何らかの被害を受けたと回答。83%の子どもが、「身の安全」を心配事のトップ3の1つとして回答した。パルスキー氏は、「彼らの家族は紛争の経済的影響に苦しんでおり、以前は手に入れられた物を、今同じように購入する力がありません」と述べ、経済的な苦境にも言及。また、頻繁な停電と空襲警報により、多くの子どもたちが避難所からオンライン授業に接続するのに苦労しているとし、教育を受ける機会が阻まれていることを伝えた。
ワールド・ビジョンは、侵攻が始まった昨年2月末からウクライナや近隣諸国で支援活動を行っており、侵攻後の11カ月間で3万6千人以上の子どもとその家族に心理社会的支援を提供してきた。ハルキウ、ヘルソン、ドニプロの3都市では、アームズ・オブ・マーシーと協力して支援活動を展開。心理社会的支援を行うとともに、子どもたちが安心して安全に過ごせる居場所を提供し、食料や衛生用品、暖房などの基本的なニーズにも対応している。
2023年3月以降は、支援パートナーの「ラチョ・ドローム」を通じて、ウクライナ国内にいる少数民族ロマ人のコミュニティーを保護するためのプログラムを進め、同国東部で行っている現金給付支援をさらに拡大する計画だという。
パルスキー氏は、「(ウクライナの)子どもたちは、既に抱えているトラウマの上に積み重なっていくトラウマに対処するのに苦しんでいます」と述べ、次のように訴えている。
「子どもたちが日常を過ごせているという感覚を取り戻すことは極めて重要であり、紛争の全ての当事者は、国際人道法および人権法へのコミットメントを尊重し、維持しなければなりません。平和がなければ、ウクライナの子どもたちは肉体的だけではなく、精神的にも深刻な犠牲を払い続けることになるのです」