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新・景教のたどった道

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

2022年4月26日20時34分 コラムニスト : 川口一彦
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関連タグ:川口一彦景教

2004年3月と06年11月の2回、私たち一行は北京から内モンゴル自治区(内蒙古)へと旅立った。飛行機は呼和浩特(フフホト)空港に着き、ホテルに向かった。明くる朝早く起きてスケジュールに目を通し、用意された20人ほど乗りのマイクロバスで百霊廟へと走り出した。

陰山山脈を過ぎると、大平原が目の前に広がっていた。新緑も生えない大平原の中に見えたのは、ぽつんと立つ墓石碑であった。行き交う車もほとんどなく、運転手はスピードを上げた。まるで高速道路を走るかのような速さに、恐怖を抱いた。

中国人ガイドさんは日本語に精通し、ユーモアを交えて自己紹介とモンゴルの歴史や文化を語り出した。そうこうすると、あたりには多くの羊の群れが集まってきた。羊飼いと羊の姿を生まれて初めて見る者にとって、その光景は驚きであった。聖書に出る羊と羊飼いの記事が現実となった。また、中国内地では毛沢東の肖像が至る所で掲げられていたが、内モンゴルに入れば、毛沢東ではなくチンギス・カンの肖像画が掲げられていたことに驚いた。

バスは最初の見学地、シラムレンにある博物館に到着した。敷地内に入ると、風雪に耐えてきたかのようにシリア語が彫られた十字墓石を2つ見ることができた。そして、一人の女性の白骨遺体が安置された墓所を見るや、この光景も驚きであった。聞くと、アラカイベキという名の景教徒(元の時代は景教を廃止し、エリカオン教へと改名)の夫人だという。

フフホト空港

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

地図、その中の百霊廟橋には977年8月1日と刻まれる

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

羊の群れ

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

包頭市ウラントク郷土博物館

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

シリア語十字墓石

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

アラカイベキ墓所

新・景教のたどった道(71)東方景教の遺跡を巡る旅・中国(4)内モンゴル1 川口一彦

解説1:モンゴル帝国のチンギス・カンと景教・エリカオン教

景教徒たちは、840年代にあった中国・唐の武宗皇帝による大迫害で国外へと追放され、名称を景教からエリカオン(エルケウンと呼ぶ者もいる)教とし、会堂を十字寺とした。エリカオンとは一説に福音を意味する。それは十字架のイエスの贖罪(しょくざい)こそ福音だからだとする。

モンゴル帝国の元を作った初代皇帝のチンギス・カンあるいはチンギス・ハン(漢語で成吉思汗、1162〜1227、在位1206〜27)のもとには漢民族、チベット族、テュルク族、欧州人などの多民族がいて、宗教の面でも全真道教の長春真人、漢人で官僚の耶律楚材、ラマ教徒、景教(エリカオン教)徒、ローマ・カトリック教徒などの多文化宗教徒で構成されていた。

チンギスの子のフビライ・カン(1215〜94)の母は景教徒であり、代々のカンの正妻は景教徒のオングト族から選んでいた。モンゴルの宗教観はシャーマニズム的汎(はん)神観でありつつも、景教徒たちがハンの勝利に貢献したことや、聖書の神観の三一神に忠実に仕えていたことなどから受け入れられていた。

この時代、欧州には東西のローマ帝国があり、聖地エルサレムをめぐって十字軍とイスラム勢力が戦っていた。西のキリスト教世界は、東方からの謎の軍力「プレスター・ジョン」を待望していたものの、その望みが霧散していった。その軍は、一説にモンゴル軍であったともいわれ、ローマ教皇も書簡をジョンに送ったが返信がなく、モンゴル軍は帰還していったという。

中央アジアの、特にキルギスには東方教徒が多くいて、共同体を形成し、南の中国福建省付近の泉州や厦門などにもシリア語が刻まれた十字墓石が発見されている。北京からローマへと巡礼の旅に出たソーマやマルコも同時代の人物で、当時はシルクロード周辺や中国全土に72カ所の十字寺があり、東方教徒たちが生きていたことが分かる。

解説2:シラムレン(シャラムレンともいう)にあるウラントク郷土博物館

この博物館には、チンギス・カンの娘のアラカイベキなる女性の白骨遺体が安置された墓所がある。2度目に訪問したときには扉が硬く閉じられていて、中に入ることができなかった。エリカオン教徒たちのシリア語墓石や遺品が展示されていた。北部の沙貝庫論古城には景教徒墓地がある。

※ 写真は川口が撮影。

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※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
盖山林著『陰山汪古』(中国古代北方民族史叢書、内蒙古人民出版社、1991年)
江上波夫著『モンゴル帝国とキリスト教』(サンパウロ、2000年)
『オロンスム モンゴル帝国とキリスト教遺跡』(横浜ユーラシア文化館編集発行、2003年)

◇

川口一彦

川口一彦

(かわぐち・かずひこ)

愛知福音キリスト教会(日曜と火曜集会)ならびに名古屋北福音キリスト教会(水曜集会)の宣教牧師。フェイスブックで「景教の研究・川口」を開設。「漢字と聖書と福音」「仏教とキリスト教の違い」などを主題に出張講演も行う。書家でもあり、聖書の言葉を筆文字で書いての宣教に使命がある。大学や県立病院、各地の書道教室で書を教えている。基督教教育学博士。東海聖句書道会会員、書道団体以文会監事。古代シリア語研究者で日本景教研究会代表。特に、唐代中国に伝わった東方景教を紹介している。著書に『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』など。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
関連タグ:川口一彦景教
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