インド政府は、マザー・テレサが創設したことで知られる女子修道会「神の愛の宣教者会」に対する海外からの寄付を遮断すると発表した。
インド内務省は発表(英語)で、クリスマスの昨年12月25日、神の愛の宣教者会が海外から寄付を受け取る上で必要な認可の更新申請を審査したところ、認可条件に反する複数の情報を確認したとしている。これにより、同会は外国貢献規制法に基づく適用要件を満たさなくなり、海外からの寄付を受け取ることができなくなった。
マザー・テレサは1950年、同国東部のコルカタで神の愛の宣教者会を設立。同会は「社会的階級、信条、肌の色とは無関係に貧困層に奉仕する」ことを目的に、孤児院や捨て子のための学校運営、炊き出しなどの慈善事業を行っている。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)によると、同会はインドで人道的活動を行う上で、海外からの寄付に大きく依存しているという。今回の決定に対しては不服申し立てできるものの、今のところ活動に不可欠な資金を海外から受け取れない状態となっている。
インドでは、2014年にナレンドラ・モディ政権が誕生して以来、国内で活動するNGOへの海外からの資金提供に対する規則を厳しくする傾向が続いている。こうしたNGOの多くは宗教的信条に基づいて活動しており、人口の約8割を占めるヒンズー教徒の中には、人道的活動を、改宗を目的とした行為と批判する強硬派も存在する。
インドの複数の州には「改宗禁止法」と呼ばれる法律があり、強制的または金銭的利益の提供による改宗を禁じている。慈善活動も金銭的利益の提供と解釈される可能性があり、活動家らは、同法がキリスト教徒やキリスト教団体に対する襲撃や訴追を助長していると警鐘を鳴らしている。
昨年12月には、神の愛の宣教者会が西部グジャラート州で運営する保護施設で、「ヒンズー教の宗教的感情を傷つけ」、若い少女たちを「キリスト教に勧誘」した疑いがあるとして、警察が訴追する事件が発生している。
警察に提出された報告書は、「この施設は、ヒンズー教徒の宗教的感情を、敵意を持って意図的に傷つける活動に関与している」と主張。「『少女たちの家』にいる少女たちは、キリスト教を受け入れるよう勧誘されている。十字架を首にかけさせたり、少女たちが使う物置のテーブルの上に聖書を置くなどし、聖書を読むよう強要したりしている」と述べ、「少女たちに宗教的改心を強要しようと試みるのは犯罪である」としている。
一方、神の愛の宣教者会の広報担当者は、強制改宗疑惑を根拠がないものとして否定。「私たちは誰も改宗させていませんし、キリスト教徒との結婚を強制したこともありません」と述べている。
インドの全国キリスト教会議議長のM・ジャジバン主教は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(英語)に対し、キリスト教団体に対する海外からの資金援助をインド政府が拒否する傾向が強まっており、多くのキリスト教団体が閉鎖を余儀なくされていると語った。
ジャジバン氏は、「政府はキリスト教に反対することが愛国心だと思っています」と言い、「これは健全な環境ではありません」と語った。
実際に2017年には、インドで約14万7千人の子どもたちを支援していたキリスト教児童支援団体「コンパッション・インターナショナル」が、海外からの資金調達を遮断され、同国での活動を停止させられた。この際には、米国の上下院議員100人余りがインドの内務相に書簡を送るなどして働き掛けるなどした。
また同年には、アジア最大の人道支援機関の一つである「ゴスペル・フォー・アジア」の指導者K・P・ヨハナン氏が設立したネットワーク「ビリーバーズ・チャーチ」と関連3団体も海外からの資金調達を停止させられた。さらに20年には、ニューライフ・フェローシップ協会、マニプール福音教会評議会、エクレオソクリス北西ゴスナー福音ルーテル教会、北部福音ルーテル教会など、キリスト教の6団体が海外からの資金調達を禁止された。
キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害のひどい上位50カ国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト」(2021年版、英語)で、インドを10番目にランク付けしている。米国際宗教自由委員会は20年、インドを信教の自由に関して「特に懸念のある国」として指定するよう米国務省に16年ぶりに勧告し、昨年も引き続き指定を勧告している(関連記事:米国際宗教自由委員会、インドなど4カ国を「特に懸念のある国」に指定勧告)。