マザー・テレサが創設したことで知られるカトリックの女子修道会「神の愛の宣教者会」が運営するインドの施設で、女性職員1人と修道女1人が今月初め、乳児の売買に関わった疑いがあるとして逮捕された。事件を受けインド当局は16日、同修道会が運営する国内のすべての施設を検査するよう命じた。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)などによると、同国東部ジャルカンド州の児童福祉局が先月末、州都ランチにある同修道会の施設を検査した際に事件が発覚した。同局によると、施設の職員が母親になりすまし、今年3月に生まれた生後2カ月の男児を、養子を希望する子どものいない夫婦に、約1750ドル(約20万円)で売ろうとしていたという。
実母は男児を育てることを望まず、夫婦は5月15日に正式な養子縁組の手続きをすることなく、男児を引き取っていた。先月末に行われた検査で同局が指摘すると、職員は手続きが必要だとして夫婦に子どもと共に戻ってくるよう連絡し、夫婦に説明することなく子どもを実母に返したという。職員を問いただしたところ、ここ数カ月間で他にも3人の子どもを違法に売ったことを認めたため、同局が警察に通報した。
警察は、この職員を今月3日に逮捕し、翌4日に事件に関与したとして施設の責任者であった修道女を逮捕した。検査を行った同局の担当者は「神の愛の宣教者会には非常に良いイメージを持っていましたが、今回の事件においては確かな証拠がありました。今、私たちはここで何が行われていたのか疑問に思っています」と話している。
逮捕を受け、神の愛の宣教者会の広報担当者であるスニータ・クマール氏は5日、英BBC(英語)に「私たちの施設で起こったことを知り、ショックを受けています。これは私たちの道徳的信念に完全に反するものです。この問題を注意深く調査し、もしこのようなことが起こっていたのであれば、二度と起こらないようあらゆる対策を取ります」と語った。
しかしクマール氏は、翌6日付の米ニューヨーク・タイムズ紙には、「修道女たちは今回のことをよく思っていません。彼女たちはそれが真実なはずはないと話しています」とコメント。修道会独自で調査を行う意向も示し、「この数年の間、同様の事件は一度も起こったことがありません」と述べ、今回の逮捕に疑問を示していた。
また、英ガーディアン紙(英語)によると、警察は逮捕された修道女が犯行を「自白」したとしているが、ランチ司教は、自白は圧力の下で引き出されたものだと主張。「マザー・テレサの団体すべてをあたかも犯罪組織のように扱っている」と述べ、警察を非難した。神の愛の宣教者会の基盤がある西ベンガル州でも、今回の事件は、ヒンズー教ナショナリズムの傾向が強いとされる、現与党インド人民党による反キリスト教運動の一環だと非難する声が出ているという。
インド政府は2015年、独身者や離婚者、別居中の人々も養子を引き取れるよう、養子縁組制度を一部変更した。オンラインで接続可能な全国規模のデーターベースも導入されたが、幾つかの養子縁組団体は養子と養親のマッチングに関われなくなるとして変更に反対していた。神の愛の宣教者会も、独身者や未婚のカップルへの養子縁組に反対していたため、制度変更後は養子縁組のあっせんをやめている。
インドでは合法的に養子縁組をするためには、手続きに数カ月から数年も要する。養親を待っている子ども、また養子を希望する夫妻がそれぞれ多くいるにもかかわらず、実際に縁組が成立する数は限られているという。ガーディアン紙によると、16年初頭から今年3月までに成立した件数は、希望する夫婦が約1万5千組いるのに対し、2671件のみだった。こうした状況が、乳児売買の闇マーケットの温床となっているとも指摘されている。