すべての出来事の背後には、その出来事を生み出した要因があります。もしどうしても理解できない出来事があるなら、そこには、未知の要因が隠されているはずです。
例えば、メディアの偏向報道について、以前このコラムでも取り上げましたが、大手メディアが一斉に歪んだ情報を伝えることが頻繁に起こります。(参考:日本人に寄り添う福音宣教の扉(99)「歪んだ情報」に忠実に寄り添う)
世の中には、巨大な資本による策謀や謀略(陰謀)が背後に潜んでいると考える人もいます。中には、根拠の薄い極端な陰謀論もありますが、現代社会の仕組みに起因する、もはや陰謀とはいえないことも数多く存在するように思います。
トヨタ自動車の大きな開発力
私の所属したトヨタ自動車は大きな資産を持っている組織です。その資産の大きさ故に製品開発は全方位に及びます。すべての選択肢に網を広げて探索し、確実性の高いものに資金を投入して製品化を狙います。当然のことですが、品質の高い製品が生まれ、失敗は少なくなります。
また、技術の周辺環境を整えるための連携を強化します。関係会社にとってもトヨタとの連携は大きなチャンスですので、大きな利益を生む業務連携が比較的容易に生まれます。
私は研究開発部署にいましたので、技術を公表する前に、強力な特許網を構築し、他社に対する優位性を確保しようとしました。数千件に及ぶ戦略的な特許出願に要する費用は莫大(ばくだい)ですが、止められることはありませんでした。特許網で押さえた技術領域に他社は追従することが難しくなります。
このような仕事の仕方は、大きな資産を持つ企業なら当然の進め方ですから、陰謀という人はいないでしょう。実際に品質の高い良い製品が広く普及するわけですから、貢献度も大きいと思います。
しかし、結果としてグローバル化は一層進み、世界各地の伝統や文化に根差した企業や製品は姿を消す危険があります。実際のトヨタの海外進出は、現地の事情に配慮したものですが、もし、欧米の自動車産業が衰え、トヨタの製品一色になったとしたら、トヨタ発の陰謀論がまかり通るかもしれません。
資産家は陰謀に加担しやすくなる
一方、金融に関わる事業では、サービスや製品といった確認できるものではないので、隠されていることが多くなります。利益を確保するため、人件費の安い地域への工場進出や、購買力の高い地域への販売事業に投資するのは当然の流れでしょう。
それ以外にも利益を生む投資先はいくらでもあり、大きな資産を持っている者は、確実な情報を基に、迅速な資金運用によって一層資産を増やすことができます。さまざまな社会問題、災害、紛争などが起こると、資金が必要になりますので、資産家はその都度、大きな利益を得る可能性があります。
資産家が紛争を起こしている当事者たちに資金を調達するなら、紛争の規模はさらに大きくなり、資産家による陰謀が紛争拡大の要因とされることもあるでしょう。
さらにメディア関連の事業に投資をすれば、自らの利益を増すような情報を積極的に流し続けることも可能になります。
結局、資本主義の下では、資産家は投資によってますます裕福になり、陰謀とやゆされることに加担しやすくなります。労働でしか富を得られない人には正確な情報が流れにくく、所得格差はますます大きくなります。
資産の分配を目指す共産主義も、基本は国家による資本主義ですから、国家の力が極めて強くなるだけで、所得の低い労働者への制限は大きくなります。低賃金で働き続ける労働者は資産家である国家を強力に富ませ、国家による陰謀の危険が生じます。
二人の主人に仕えることはできない
だれも二人の主人に仕えることはできません。一方を憎んで他方を愛することになるか、一方を重んじて他方を軽んじることになります。あなたがたは神と富とに仕えることはできません。(マタイの福音書6章24節)
現代社会における理解しがたい出来事の背後にあるのは、人の中に潜む「富に仕える歪んだ性質」なのでしょう。それは、資本主義の世界で巨大な資産の集中を促し、図らずも陰謀に加担する道を開きます。人は、富に仕えながら神に仕えることはできません。
金持ちになりたがる人たちは、誘惑と罠と、また人を滅びと破滅に沈める、愚かで有害な多くの欲望に陥ります。(テモテへの手紙第一6章9節)
私たちは、信仰によってわが身の姿勢を正す必要があります。神様から預かった富(資産)の大きさにかかわらず、神様に仕える者として、注意深く富を管理したいものです。
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