世界宗教者平和会議(WCRP)国際トラスティーズ・日本グループなどが主催する特別セミナー「ミャンマー国民の叫び」が10日、オンラインで開催され、約520人が参加した。セミナーでは、ミャンマー近現代史が専門の根本敬(けい)上智大学教授が基調発題。その後のパネルディスカッションでは、日本・ミャンマー友好議員連盟会長の逢沢一郎衆院議員(自民)、WCRP国際副事務総長の杉野恭一氏、在日ミャンマー人女性の3人がパネリストとして発題した。
最年少の犠牲者は5歳、国民に銃を向ける国軍
パネルディスカッションで初めに発題したのは、現在日本に在住するミャンマー人の女性。女性は、セミナー前日の9日夜時点で死者が600人を超え、日に日に犠牲者が増大しているミャンマーの状況を説明。死者の中には子どもも含まれており、最年少の犠牲者は5歳などと、国軍が幼い子どもも含め国民を殺害していることを訴えた。女性によると、自宅の庭で遊んでいた10歳の少女が銃で撃たれて殺害されたケースもあり、負傷者の治療を妨げたり、「市民的不服従運動」(CDM)に参加している医者を手術中に逮捕したりと、国軍は抗議する国民を徹底的に弾圧しているという。
一方、女性はミャンマー最大民族のビルマ族の出身で、国軍のプロパガンダを見聞きしていたことから、かつては国軍が正しいと考えていたという。しかし、日本に来たことで視野が広がり、さらに今回のクーデターによる国軍の仕打ちにより、ビルマ族以外の少数民族がこれまで長年にわたって国軍から苦しめられてきたことを理解できるようになったと告白した。その上で「神がいればすぐにでも国軍を裁くことを期待している」と言い、「悪いことをした人は法によって裁かれるということを子どもたちに分かってもらうためにも、国際社会は国軍に制裁を課してほしい」と訴えた。
国軍の利益になることはすべて停止
政治の視点から発題した逢沢氏は、「国軍はまさに殺人集団に堕落してしまった」と強く非難し、日本はクーデターを認めず、国軍による支配を完全に否定する立場であることを伝えた。また、日本のミャンマー政策は、国軍の利益につながるものは、政府開発援助(ODA)であれ、民間レベルであれすべて停止するという非常にシンプルなものだと説明。新規のODAについてはすでに事実上の停止を決めており、民間企業の関わりについては現在調査中だが、これまでに国軍関連企業と取引がある例が1、2件見つかっていると明かした。
また、ミャンマーの現在の問題は、人権や人間の安全保障に関わる問題だと強調。中国などが主張する内政干渉には当たらないとし、現状を追認するのではなく、国際社会が一丸となって国軍に圧力を加えていかなければならないと訴えた。
ミャンマー宗教界、対話姿勢から国軍非難に転換
WCRPの国際副事務総長としてニューヨークで活動している杉野氏によると、ミャンマーの宗教者は民政移管後の10年、国軍側とアウン・サン・スー・チー氏、国民民主連盟(NLD)側の両者と関係を持ち、両者の対話推進に努めてきた。2017年にローマ教皇フランシスコがミャンマーを初訪問した際も、現地のカトリック指導者は極秘に教皇と国軍トップが対面する場を設けるなどしていたという。そのためクーデター発生当初、ミャンマーの宗教指導者らは、再び軍政に逆戻りした場合も国民を守れるよう、国軍との関係も一定程度維持する姿勢を示していたという。
しかし、CDMの広がりに表れた国民の明確な姿勢を目の当たりにし、さらに国軍の強硬姿勢を受け、国軍に対し非常に厳しい姿勢を示すように態度を転換した。クーデター発生当初は、国軍を支持する勢力もあり、見解が分かれていた仏教界も、3月半ばには国軍寄りの仏教組織が国軍を非難する声明を発表するなど、大きな転換があったと説明した。その上で「現在は軽々に対話、交渉ができるような状況ではない」と指摘。WCRPとしては、両者とのパイプは維持しつつも、国軍の残虐行為にはいかなる正当性も与えず、またミャンマー国民の悲痛な叫び声を無視するような妥協や迎合に陥らないことを確保した上で、あらゆる諸宗教外交、対話の機会を模索していくと語った。
その一方で、暗闇の中にも希望のともしびがあるとし、NLDが設立した連邦議会代表委員会(CRPH)により「国連特使」に任命されたササ氏が、ロヒンギャの人々に謝罪をしたことを取り上げた。ミャンマーには、最大民族のビルマ族の他に、130を超える少数民族が存在する。それが今回の国軍による暴力により、これまで長年あった少数民族に対する抑圧や、さらに少数民族からも蔑視されてきたロヒンギャの人々に対する差別が認識されるようになってきたという。杉野氏は、CRPHには少数民族やCDMの代表者も入っているとし、連邦制国家の樹立や連邦軍の設立などを掲げるCRPHへの期待感を示した。