緻密なフィンガーピッキング奏法にR&Bやヒップホップのテイストを取り入れた楽曲と演奏スタイルで、国内外で高い評価を受ける若手実力派プロギタリスト・井草聖二さん。4枚目となるソロアルバム「Blessings―Finger Style Gospel Guitar」が2月22日、アコースティックギター専門レーベルであるイルカミュージックより発売された。前作「Welcome Home」から約2年ぶりとなる最新アルバムは、賛美歌やゴスペルナンバーをソロスタイルにアレンジした会心作だ。
牧師を父に持ち、幼い頃から教会で過ごしてきた井草さんにとって、賛美歌はまさに音楽の原点。「祝福」と名付けられたアルバムには、礼拝で一般に歌われる賛美歌をはじめ、ゴスペル、ワーシップソングなど8曲が収録され、どの曲も井草さんのアレンジのセンスの良さが際立つ。また、1本のギターで演奏されているとは思えない流麗な音色はどこまでも優しく、心癒やされる。現在、発売を記念したライブなどで多忙を極める井草さんに、最新アルバムへの思いを聞いた。
ニューアルバムの制作はいつ頃から進められたのでしょうか。
ファーストアルバム「Introduction」を作った2009年頃から、いつかは賛美歌アルバムを作りたいと思っていました。少しずつアレンジをしていき、今回まとまった曲数のアレンジができたので、アルバムにまとめました。
タイトル名の「Blessings」はどのように決まったのですか。
今回カバーした曲(「アメージンググレース」や「いつくしみふかき」など)が作られた経緯や時代背景を調べていく中で、どの曲も神様からの祝福「Blessings」があってできたのだと感じ、アルバムを作っていく過程でこのタイトルに決めました。
選曲はどのように行われたのでしょうか。
特にジャンルやスタイルは決めずに、教会でよく歌われている曲や、普段ライブで弾いている曲を選びました。
今回のアルバムを作られて、あらためてご自分の奏法(フィンガースタイル)に対する気付きのようなものはありましたか。
賛美歌はシンプルで覚えやすく、それでいてとても美しいメロディー、コードワークの曲が多いので、フィンガースタイルのギター1本というシンプルなスタイルがすごく合うとあらためて思いました。
ギタリストであると同時にクリスチャンでもある井草さんにとって、今回のCDには特別な思いがあるでしょうか。
賛美歌やゴスペルのCDですが、クリスチャンではない方々に聴いてもらいたかったのが一番の理由です。日本では日常で賛美歌やワーシップソングを聴く機会はまずないと思うので、このアルバムをきっかけに教会音楽に興味を持ってもらえると嬉しいです。
全曲賛美歌アレンジを、一般のレーベルであるイルカミュージックから出すことについては特に問題はなかったのでしょうか。
一般の音楽からすると、相当マニアックな選曲のカバーアルバムなので、最初は自主制作で出そうと思っていましたが、レーベルの方に相談すると、面白そうということでOKをいただき、リリースできました。
レコーディングの中で喜びを感じた瞬間を教えてください。その逆に、苦労した点も。
3曲目の「as the deer」は小さい頃から大好きな曲で、落ち込んでいる時にも励まされた曲だったので、こうしてギタリストになってレコーディングできるのは嬉しかったですね。レコーディング中も本当に賛美する気持ちで演奏できました。
苦労したのは、ソロギターはアンサンブルそれぞれのパートを1人で演奏しないといけないのですが、ゴスペルはバンド以外にもクワイアやホーンセクションなど、とにかくパートが多く、ギター1本にアレンジするのに相当苦労しました。
「井草聖二モデル」のギターが作られたと聞きましたが、どんな感想をお持ちですか。
ギタリストとして自分のモデルが出るのはすごく嬉しいことです。アコースティックギターはフォークやカントリー、ポップスのイメージが強いですが、僕のモデルはフィンガースタイルに特化した仕様で、弦の分離がよく、クラシックギターのようなニュアンスも出るので、ソロギターを弾く方にお勧めです。
どのような経緯で作られることになったのでしょうか。
昨年の夏頃にこのギターをオーダーして、特注で作ってもらいました。それ以降、ライブやレコーディングのメインギターとして使っていて、ファンの方やギターの生徒さんが同じものがほしいという要望があり、販売が決まりました。予約はすでに開始していて、7月から販売します。
新作のピーアールをぜひお願いします。
今までのアルバムは、派手な奏法やテクニカルなプレーをする楽曲が多かったですが、今回はオーソドックスなフィンガースタイルで、メロディーがしっかり生きるようなアレンジをしました。賛美歌、ゴスペル、ワーシップソングの前向きな、希望のあるメッセージがギターの演奏を通して感じていただけると嬉しいです。また、原曲と聴き比べて楽しんでほしいですね。
ドルフィンギターズ恵比寿店(東京都渋谷区)でも3月31日、発売記念ライブが行われた。予約チケットは完売。当日は悪天候にもかかわらず、会場は満員だった。観客のほとんどはクリスチャンではないので、井草さんは、賛美歌、ゴスペル、ワーシップの違いを説明したり、それらの曲にまつわるエピソードを紹介したりしながら、ニューアルバムからの曲を含め、全10曲を披露した。1本のギターで弾いているとは思えない音の広がりに圧倒されながら、1時間の演奏時間はあっという間に過ぎていった。
ライブを聞きに来た女子大学生は、「テクニックがすごいと思った。賛美歌は知らない曲もあったが、実際にライブに来て聴くことができて、とてもよかった」と感想を語った。
「Blessings―Finger Style Gospel Guitar」は、現在はオンラインショップとドルフィンギターズで販売されている。