③ 子なる神イエス・メシアの理解
東方景教徒たちのメシア観は、表記としてはキリストの語はなく全てメシアです。なぜなら彼らの出身地がシリアからペルシアで、キリスト表記はギリシャ語やラテン語世界ですので、地理的な相違からイエス・メシアと表記しています。
種々の表記を列挙しました。
a. イエスあるいはイエス・メシアの表記
翳數(イエス)➡ 一神論の中の世尊布施論に2回。
移鼠(イエス)➡ 序聴迷詩所経に2回。
移鼠迷師訶(イエス・メシア)➡ 序聴迷詩所経に1回。
その他の表記
一尊弥施訶 ➡ 志玄安楽経に2回。
普尊弥施訶 ➡ 景教三威蒙度讃に1回。
景尊(景教の尊主)➡ 景教碑に1回。
世尊 ➡ 一神論の中の世尊布施論に30回。景教三威蒙度讃に1回。
皇子 ➡ 尊経1回。
聖子 ➡ 景教三威蒙度讃に3回。
明子 ➡ 景教三威蒙度讃に1回。
応身 ➡ 尊経1回。
分身 ➡ 景教碑1回。
大聖 ➡ 景教三威蒙度讃に1回。
大師 ➡ 景教三威蒙度讃に6回。
降誕に関する表記
誕聖 ➡ 景教碑1回。懐妊 ➡ 序聴迷詩所経に3回。
b. 十字架に関する表記
受苦 ➡ 序聴迷詩所経に3回。
受死 ➡ 序聴迷詩所経に2回(代命受死は1回)。
上懸高 ➡ 一神論の中の世尊布施論に5回。
ゴルゴダ(訖句)➡ 序聴迷詩所経に1回。
木上縛 ➡ 序聴迷詩所経に2回。
c. 復活に関する表記
懸景日以破暗府(景日・主の日をかかげてヨミを破った)➡ 景教碑に1回。
死活(死より活きた)➡ 序聴迷詩所経に1回。
迷師訶従死起(メシアは死より起きた)➡ 一神論の中の世尊布施論に2回。
以上からメシアに関する語句を表記する中で幾つかを考えました。その一つは、新約聖書が教えている重要なメシア観が十分ではないものの、受肉、十字架刑、復活を伝えています。
次にメシアが多様に漢文表記されていることは、当時の中国宣教と浸透結実化を考えていたことを伺うことができます。景教の唐代中国宣教期間は、紀元635年ごろから同850年代の約220年で、初期から安定した中期の時代の中で、語句の表記の変化から宣教の変化変遷を見ることができます。
さらにメシアの三一観は、父と浄風(聖霊)とが同格として表記され、それは新約聖書が伝えている父・子・聖霊の表記と同じであることです。
景教の異端性は見られません。
※ 参考文献
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『景教のたどった道―東周りのキリスト教』(キリスト新聞社、2005年)
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