「外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会」(外キ協)は1月30日、「記憶をつなぐ、人をつなぐ、明日をひらく」をテーマに、日本基督教団聖ヶ丘教会(東京都渋谷区)で第30回全国キリスト者集会を開き、約50人の参加者が同法の制定を求める集会宣言を拍手で採択した。
またこの集会の終了後、外キ協による「日本軍『慰安婦』問題の日韓政府間『合意』に対する声明」や韓国キリスト教教会協議会(NCCK)から送られてきた「共に生きることが神様の御旨であります!」と題する連帯メッセージが読み上げられた(下記に全文あり)。
「地域に生きる一人一人が互いを尊重し合い、互いの文化を分かち合うことによってこそ、全ての人の人権が守られる社会が実現します。そのような社会の実現を目指して、私たちは『外国人住民基本法』の制定を引き続き求めてゆきます」などと集会宣言は述べている。
同宣言はまた、旧約聖書のエレミヤ書22章3節「主はこう言われる。正義と恵みの業を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救え。寄留の外国人、孤児、寡婦を苦しめ、虐げてはならない」を引用しつつ、「私たちは現代を生きるキリスト者として、この世界で和解と共生を求めていくこと、自らに託された福音宣教の使命として取り組んでいくことを決意します」と結んでいる。
この集会の第1部で行われた礼拝では、招詞として、ガラテヤの信徒への手紙3章28節「そこではもはや、ユダヤ人もギリシア人もなく、奴隷も自由な身分の者もなく、男も女もありません。あなたがたは皆、キリスト・イエスにおいて一つだからです」が読み上げられた。
そして、賛美歌と祈り・献金の後、聖書朗読でコリントの信徒への手紙二5章17節〜18節「だから、キリストと結ばれる人はだれでも、新しく創造された者なのです。古いものは過ぎ去り、新しいものが生じた。これらはすべて神から出ることであって、神は、キリストを通してわたしたちを御自分と和解させ、また、和解のために奉仕する任務をわたしたちにお授けになりました」が読み上げられた。
その後、外キ協共同代表の一人である吉高叶牧師(日本バプテスト連盟常務理事)は、「和解のつとめに仕える~分裂をもたらすものに抗しながら~」と題してメッセージを語った。
吉高牧師は、「私たち日本のキリスト教会がケリュグマを語り、ディアコニアを生き、コイノニアを作る。記憶をつなぎ、人とつながり、明日を開く、そうした教会になっていくことができるかどうかの、大切な、大切な問いを受ける時代を生きようとしています。共に手を携え、叫びとうめきと痛みの声に耳を傾け、そして、そこからなお立ち上がって、生きていく、私たちでありたいと思います」などと語った。
この集会に先立ち、外キ協は1月28日から29日にかけて、第30回全国協議会を在日本韓国YMCA(東京都千代田区)で開催し、「外キ協30年の歩みを共有し、宣教課題を定立しよう」という主題のもとに、北海道から九州までの各地にある「外国人住民基本法の制定を求めるキリスト者連絡会」(外キ連)および外キ協加盟各教派・団体の代表者ら38人が参加した。
また、この集会の第1部の終了後、外キ協からのアピールとして、「日本軍『慰安婦』問題の日韓政府間『合意』に対する声明」が読み上げられた(下記に全文あり)。
「今回の、加害と被害の立場を逆転させたような押しつけの合意内容に対して、私たちはその撤回と更なる交渉の再開を求めます。特に日本政府に対して、自らの歴史に誠実に向き合い、間違いは無かったこととするのではなくまた『水に流す』のでもなく、間違いとして責任を認めて償うことでしか解決を図れないことを認めるように要請します」と同声明は求めている。
そして同声明は、「金学順(キム・ハクスン)さんの告発以来、四半世紀の間、「戦争犯罪の認定、真相究明、公式謝罪、法的賠償、犯罪者処罰、歴史教科書記述、追悼碑と資料館の設立」を求めてきた被害女性たちの訴えに、真摯(しんし)に耳を傾け、真に「不可逆的」な解決を図られるように私たちは求めます」と結んでいる。
外キ協事務局の佐藤信行氏によると、声明のほうは、日本の諸教会の関係委員会の連名で、今週中に英訳・韓国語訳をして、韓国キリスト教教会協議会(NCCK)や世界教会協議会(WCC)など、世界の諸教会に送る予定だという。
続いて、NCCKからの連帯メッセージ「共に生きることが神様の御旨であります!」が佐藤氏によって読み上げられた(下記にその全文あり)。NCCK総務(日本キリスト教協議会[NCC]でいう総幹事にあたる)の金栄柱牧師によって署名されたこのメッセージは、「従って、あなたがたはもはや、外国人でも寄留者でもなく、聖なる民に属するもの、神の家族であり」(エフェソ2章19節)を引用し、「韓日両国における教会の絆を深め、その協力によって、互いの違いを尊重し、喜び、一つになることによって、神の国を築き上げる大いなる御業がともにありますことを、切に願い申し上げます」と結んでいる。
そして、日本と韓国の近現代史に関する5万冊を集めた特定非営利活動法人の私設図書館「文化センター・アリラン」(東京都新宿区)の副理事長である宋富子(ソン・プジャ)さんが同センターについてアピールをした。
「(副理事長を)神様の使命としてやらせていただいています」と、一人芝居の演技者でもある宋富子さんは語り、同センターでは「日本と韓国の近代史の真実の歴史を教える本を5万冊所蔵しています」と紹介。「国会図書館にもないような本もございますので、皆さん、ぜひお出掛けください」と述べて、同センターを支える会員をまずは1万人募集したいと呼び掛けた。
そして宋富子さんは、自らが編集長を務める同センターの機関誌『アリラン通信』(=写真、年2回発行)について、「本当に歴史認識を高めたり、市民意識が高まると、社会のいけないことに『NO!』と言う勇気が私たちの中に湧いてきますので、帰ってゆっくり読んでください。そしてぜひ教会でこのことを広めて、まずは図書館(文化センター・アリラン)に来て」と呼び掛けた。
さらに宋富子さんは、同誌には「古代から近代まで目の覚めるような歴史が書いてあります」と紹介し、「巻頭言にあいさつとして館長が『ヘイトスピーチは無知から来る偏見だ。日本人の問題として考えてほしい』ということを書いている」と述べた上で、聴衆に感謝してアピールを終えた。
第2部では、日本人牧師の父と韓国人牧師の母を持ち、米国在住の経験があるクリスチャンの歌手・沢知恵さんによるピアノ弾き語りコンサートが行われた。
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2016年/第30回「外国人住民基本法」の制定を求める全国キリスト者集会宣言
2016年1月28日から29日にかけて、「外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会」(外キ協)は、第30回全国協議会を東京、在日本韓国YMCAにて開催しました。「外キ協30年の歩みを共有し、宣教課題を定立しよう」という主題のもとに、北海道から九州までの各地外キ連および外キ協加盟各教派・団体の代表者ら38名が参加しました。そして今日わたしたちは日本基督教団聖ケ丘教会において「第30回『外国人住民基本法』の制定を求める全国キリスト者集会」を開催しました。
協議会では、これまでの外キ協30年間にわたる取り組みについて共有し、これからの日本社会とキリスト教会の使命について意見を交わしました。また、日本における人種差別撤廃基本法と外国人住民基本法の制定に向けての課題を確認し、わたしたちが求めてきた多民族・多文化共生社会のあり方について論議しました。そして、社会の中で小さくされた者の声を聞きとり、受け入れることに福音宣教の使命があることを聖書から聞きました。
1980年から始まる指紋押捺拒否の運動は、多様な民族的・文化的背景を持った者たちが共に生きる社会の実現を求めていくことが、敵意と憎悪によって蝕まれている社会を癒し、神の国の福音を伝えるためのキリスト教会の重要な宣教課題であることを明らかにしてきました。またこの取り組みは、日本の中の諸教会が教派を超えて協働する場となり、さらに世界のキリスト教会と使命を共有し連帯する道を創り出してきました。こうした歩みには終わりが無いこと、心から共に生きる喜びを分かち合う多文化共生社会を求め続けることは、これからも変わらず大切であることを、私たちは確認しました。
しかし、現在日本において行なわれている在留管理制度は、外国人住民の管理と排除を強化し、地域社会の一員として生きることを妨げています。また東北の被災地、とくに福島においては、住民の意思が無視されて“復興”が進められています。地域に生きる一人一人が互いを尊重し合い、互いの文化を分かち合うことによってこそ、全ての人の人権が守られる社会が実現します。そのような社会の実現を目指して、私たちは「外国人住民基本法」の制定を引き続き求めてゆきます。
現在、世界で排外主義の高まりが大きな問題となっており、それは従来よりマイノリティに対して同化を押し付けてきた日本社会においても例外ではありません。日本において2000年代以降顕在化してきた人種憎悪と差別を扇動する動きはさらに深刻さを増しています。日本は2014年、国連自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会から、ヘイトスピーチなど「人種主義の表明、人種主義的暴力と憎悪に、断固として取り組むこと」を求められ、2015年5月、議員立法として「人種差別撤廃施策推進法案」が国会に提出されました。人種差別禁止を目的とした法案は、日本では初めてものであり、必要不可欠なものです。それにもかかわらず、この法案はいまだ成立していません。私たちはその早期実現を求めます。
また私たちは、2015年11月に世界のキリスト教会の協力によって東京において開催された第3回「マイノリティ問題と宣教」国際会議の共同声明を踏まえて、日本におけるキリスト教会の使命として、社会の中のマイノリティの声を聞きとり、共に歩み、人種主義と闘う世界的なエキュメニカル・ネットワークに連帯してゆきます。
現在日本では、過去の戦争と植民地支配の歴史を否定する流れが作られようとしています。しかし、過去に眼を閉ざすことは、再び戦争へと向かうことであり、社会の中で憎悪と排除を生み出し、共に生きる未来を閉ざしてしまうことを、私たちは知っています。真の多民族・多文化共生社会を実現するために、過去の歴史と真摯に向き合い、平和を求め続けなければなりません。
「主はこう言われる。正義と恵みの業を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救え。寄留の外国人、孤児、寡婦を苦しめ、虐げてはならない」(エレミヤ書22章3節)
私たちは現代を生きるキリスト者として、この世界で和解と共生を求めていくことを、自らに託された福音宣教の使命として取り組んでいくことを決意します。
2016年1月30日
第30回「外国人住民基本法」の制定を求める全国キリスト者集会 参加者一同
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会
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日本軍「慰安婦」問題の日韓政府間「合意」に対する声明
私たちは、1980年代、人としての尊厳と自由を求めてたった一人の指紋押捺拒否の闘いから始まった外国人登録法改正運動に取り組むために集められたキリスト者たちです。その改正運動の中から、必然的に「外国人住民基本法」制定運動へとひろがりました。外国人登録法が廃止された今、私たちは、「外国人は煮て食おうと焼いて食おうと、こちらの勝手」という日本政府の血統主義による異民族排除の論理と闘い、普遍的な人権の保障を求めて、「外国人住民基本法」の制定運動に取り組んでいます。
2015年12月28日、日韓外相は韓国ソウルにおいて共同で記者会見を開いて、日本側は、①軍の関与を認めて、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷づけた責任を痛感し、安倍内閣総理大臣は心からおわびと反省の気持ちを表明する、②韓国政府が設立する財団に日本政府が資金を拠出し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業を行う、③この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。また韓国側は、①この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認し、日本政府の実施する措置に協力する、②日本大使館前の少女像(正式名称は「平和の碑」)の問題を適切に解決する努力をするとし、両国とも今後国際社会で互いに非難・批判をしない、と発表しました。(以上、日本外務省ホームページより抜粋)
長いあいだ隣国同士でありながら首脳会談を開けない要因であった日本軍「慰安婦」問題に関して、合意文書なし、「慰安婦」被害者抜きの突然の合意の内容に、私たちはその不実さに唖然とすると同時に、強い憤りを感じています。すぐさま被害当事者から非難の声が挙がったことは当然のことです。
今回の合意は、かつて起こされ今も続いている酷い人権侵害の解決とはほど遠い両国間の申し合わせにしか過ぎないものです。日韓米3カ国による東アジア安全保障体制強化を主眼とした政治決着としか言えず、戦後一貫して過去の歴史に対する責任の受容を拒否してきた日本政府の姿勢がより一層鮮明になり、安倍晋三首相個人の歴史認識と歴史に対する態度に沿ったものになっています。今回の、加害と被害の立場を逆転させたような押し付けの合意内容に対して、私たちはその撤回と更なる交渉の再開を求めます。特に日本政府に対して、自らの歴史に誠実に向き合い、間違いは無かったこととするのではなくまた「水に流す」のでもなく、間違いとして責任を認めて償うことでしか解決を図れないことを認めるように要請します。
すでに2014年6月、8カ国の被害者とその支援者が、第12回日本軍「慰安婦」問題解決のためのアジア連帯会議において協議して採択した「日本政府への提言」が、学者や市民の努力で集められた日本軍「慰安婦」関連公的資料529点と併せて提出されております。金学順(キム・ハクスン)さんの告発以来、四半世紀の間、「戦争犯罪の認定、真相究明、公式謝罪、法的賠償、犯罪者処罰、歴史教科書記述、追悼碑と資料館の設立」を求めてきた被害女性たちの訴えに、真摯に耳を傾け、真に「不可逆的」な解決を図られるように私たちは求めます。
2016年1月30日
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会(外キ協)
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韓国NCCからの連帯メッセージ
共に生きることが神様の御旨であります!
従って、あなたがたはもはや、外国人でも寄留者でもなく、
聖なる民に属する者、神の家族であり
(エフェソ2章19節)
このたびは、「外キ協30年の歩みを共有し、宣教課題を定立しよう」という主題をもって開催される第30回外キ協全国協議会と全国集会が開かれることを、まことにお祝い申し上げます。
30年間、ひたすらな想い出集会をつないでこられた日本にある諸教会の熱い意気込みに大きな拍手を送りつつ、韓国教会から連帯と支持の志をお伝えします。冷めることのない日本教会の熱い意気込みは、やがては、30倍、60倍、100倍の実りをもたらすであろうと信じております。
現在、韓国と日本における移住外国人の数は、それぞれ約180万人と220万人に及び、年々増してきています。もはや私たちは、人種や国籍を超えて共に生きていかなければならない時代を迎えているのです、しかし、残念ながら韓日両国における移住外国人政策は、依然として排他的かつ非人権的である状況です。日本では移住外国人に対する、とりわけ在日韓国・朝鮮人に対する排他的、暴力的、攻撃的差別煽動(憎悪発言ことヘイトスピーチ)が日に増して激しくなってきていますし、また、2011年東日本大震災における被害者支援政策においても移住外国人は不平等な扱いをされています。
さらに、日本国憲法9条をはじめ安保関連法案の全面的改定は、より排他的国家主義を促す結果をもたらしていると思います。韓国における移住外国人に対する体制も、パリ同時多発テロ以来、悪化しつつあり、最近ではテロ防止法案を進めることによって、不特定多数の外国人をテロ容疑者とみなそうとしています。まさにこれは、韓日両国ともども移住外国人を「神様のかたちとして創られた者」として見るのではなく、商品化された労働力としかみていない結果だと言えます。
民族や文化が違うという理由だけで、命の尊厳や人権をないがしろにされることは、決して許されることではありません。さらに、こんな時代だからこそ、平和のための働き人としての教会の役割がより切実に求められているのです。なぜなら、極めて小さく弱い者一人ひとりのうめきに耳を傾け、互いの命と人権を尊重し生きる世の中をつくりあげることこそが、私たちに向けられた神様の御旨であり、すべてのキリスト者に委ねられた使命であるからです。
このような時に、外キ協30年の歩みを顧み、新たなる時代に向けて力強い一歩を踏み出す志を確かめ合うことは、本当に大切なことであると思います。今まで数々の試練や苦しみにもめげず、ひたすら道を歩んできた外キ協の歩みは、きっと、多くの人に大きな喜びと感動を、そして、より明るい世界へ導く祝福の一時になることでしょう。また、多様な文化と歴史に触れ合い喜びと悲しみをともに分かち合うことによって、主にあって一つになれる感激の一時がもたらされることを望みます。韓国キリスト教教会協議会も、差別無き美しい共同体づくりのために連帯と協力を惜しまない所存であります。韓日両国における教会の絆を深め、その協力によって、互いの違いを尊重し、喜び、一つになることによって、神の国を築き上げる大いなる御業がともにありますことを、切に願い申し上げます。
2016年1月22日
韓国キリスト教教会協議会
総務 金栄柱