「戦後70年の今こそ、地上に平和を―痛みを知る神とともに―」をテーマにした、第39回日本カトリック「正義と平和」全国集会2015東京大会(カトリック東京大司教区主催、日本カトリック正義と平和協議会共催)が、9月21日から23日までの3日間、カトリック東京カテドラル関口教会(文京区)など都内5会場で開催された。
初日の21日午後2時からは、東京カテドラル大聖堂で開会式が行われ、岡田武夫東京大司教が、約630人の参加者にあいさつを述べた。岡田大司教は、日本の司教団が今年2月に出した戦後70年のメッセージが多くの人々に歓迎され、海外からも反響を呼んだことを語った。しかしその一方で、「日本の政治の成り行きは非常に残念」と言い、「憲法があるのに憲法に合致しない法律が成立する。あれは本当に成立したのでしょうか」と、大会の数日前に成立した安全保障関連法に疑問を呈した。その一方で、多くの人が国会周辺など街頭で自分の意志を表明したことを、「大変良いこと」と評価した。
岡田大司教は、大会テーマにある「痛みを知る神」について、「どういう神様でしょうか?」と問い掛け、「私たちキリスト者として、平和と、そして痛みを知る神とのつながりというものを、少しでも学ぶことができますようにと、心から願い、皆様と一緒に学び、そして祈りたいと思います」と語った。
また、大会実行委員長の幸田和生司教は、「私たちが祈る平和、心から願う平和は、決して武力によって実現するものではない。イエス様ご自身がはっきりと『剣を取る者は皆、剣で滅びる』とおっしゃったように、平和は武力では実現しない。これは私たちの信仰上の確信だ」と明言。「では、平和のために私たちはどうしたらいいのか? 武力によらない平和を実現するために何ができるのか」と問い、それがこの大会のテーマだと説明した。
その上で幸田司教は、安保関連法の成立を受けて、「まるで武力によらない平和と正反対の方向にこの国は動き始めようとしているのではないか」と懸念を示しつつ、「この3日間、正義と平和の源である神様が私たちと共にいてくださり、私たちを力強く導いてくださるようご一緒に祈りながら、この3日間を有意義に過ごしたいと思う」と語った。
日本カトリック正義と平和協議会会長の勝谷太治司教は、「結果的にこの法律(安保関連法)は通ってしまったが、これはまだ始まりに過ぎないと思っている」と述べ、「私たちのこのバラバラに見える活動は、キリストを頭とした一つの活動なのだ。そのような連帯のイメージの中で、今回の大会が新しい時代を築いていく、模索すべき何かをつかみ取るきっかけになればと期待している」と語った。
韓国カトリック教会脱原発日本訪問団代表のユ・フンシク司教(正義と平和担当)は、「神は愛です。処罰や断罪ではなく、愛と赦(ゆる)しで私たちを変化させてくださる。その主と共に、悪の根源である新自由主義、巨大な資本、突出主義、利己主義に立ち向かい、互いを生かせる文化、そして仕える文化を毎日生きながら、この世を変化させましょう」と訴え、「一緒に神様が望んでいらっしゃる平和を建設するために、力を合わせましょう」と呼び掛けた。
この他、ローマ教皇庁正義と平和協議会議長のピーター・タークソン枢機卿から、「神の慈しみと愛」が生み出されるよう祈るとするメッセージが寄せられ、日本キリスト教協議会(NCC)の小橋孝一議長からも、「主の道こそ平和をつくり出す道です。共に平和への道を祈り求めよう」とするメッセージが寄せられた。
開会式の後には、上智大学国際教養学部教授(政治学)の中野晃一氏が、「東アジアにおける平和と社会正義のために今」と題して基調講演を行った。中野氏は、自身の近著『右傾化する日本政治』(岩波新書、2015年7月)に言及しつつ、1)グローバル化時代の「ナショナリズム」や原理主義という逆説、2)グローバルな寡頭支配が求める安全保障政策の転換、3)北アジアにおける緊張の高まり、4)政治問題としての「歴史問題」、5)歴史修正主義を支える「パトス」(情念)と両義的な米国の役割、6)「個人の尊厳」の擁護を「エトス」(精神)とした緩やかな連帯へ、という6つの点について論じた。
そして中野氏は、安保関連法案に反対した学生グループ「SEALDs」(シールズ=自由と民主主義のための学生緊急行動)の中心メンバーに、キリスト教主義の学校で学ぶ学生が非常に多いと指摘し、「これは偶然ではないと思う。『人間の尊厳』について圧倒的自信を持っていて、劣勢に立ち向かう精神がある」と述べた。
さらに、「それを受けて『ママの会』、そして中高年、学者も勇気付けられた。勇気の伝達によって、新しいエトスが広がっていく。新しい運動が成り立っていく。個人の尊厳を大切にし、目標としているのは終わりのないゴールではあるが、個人が貧困や暴力と闘う、それに向かう、あくまでも追求していく、それが立憲主義、平和主義だ」と語った。
そして中野氏は、「彼らにインスパイア(感化)され、こうして彼らのスピリットをもらったわれわれが進む。今、劣勢かもしれないが、われわれは負けない。最後まで、いつまでもこういう理想を持ち、闘える」と述べ、講演を結んだ。(続く)
■ 日本カトリック「正義と平和」全国集会2015東京大会:(1)(2)