創立125周年を迎えた関西学院大学(兵庫県西宮市)に9月にオープンした同大博物館で、12月1日から来年2月まで、「聖なる光に照らされて 聖書から生まれた美」と題した初の企画展が開催されている。同大図書館が所蔵する「グーテンベルク印行42行聖書」(1455年ごろ)や、エラスムス校訂新約聖書(初版・1516年)、死海写本レビ記(断片)などの聖書コレクションの他、版画家・渡辺禎雄の型染版画の聖書画や、小磯良平など神戸ゆかりのキリスト教美術家の作品、さらに世界のクリスマス切手コレクションなどが展示されている。13日には、「聖書による美と平和への祈り」と題した同大神学部の神田健次教授の講演も行われ、約70人が参加した。
渡辺禎雄(1913~1996)は、東京・牛込生まれの版画家。幼くして父を亡くし、関東大震災で近所が壊滅的な打撃を受けたことをきっかけに、教会に通い始め受洗した。その後、染物屋の仕事を通して染色工芸の技術を学び、型染(かたぞめ)と呼ばれる技法を応用した「型染版画」によって聖書をテーマにした作品を創作し始めた。その後、柳宗悦の民芸運動や版画家・棟方志功と交流しながら創作を続け、1947年には『ルツ物語』で第1回民藝館賞を受賞した。
海外にも活躍の場を広げ、1970年代初めに、『病者への憐れみ』など5点をバチカンが購入して、バチカン美術館に展示されている。また1991年には世界教会協議会(WCC)の依頼で聖書画を制作し、現在もジュネーブのWCC本部の壁に展示されている。この他、ニューヨークのメトロポリタン美術館や大英博物館などにも所蔵されるなど、世界的にも高く評価されているという。
神田教授は、「渡辺禎雄の作品は、深く聖書を読むことによって培われた信仰と、非常に自由な発想で描かれています。また作品の中には日本的なモチーフも取り入れられており、キリスト教のインカルチュレーション(文化的風土化)としても興味深い点があります」と説明した。
また、1967年に制作された『太陽を抜け出る天使』はヨハネの黙示録7章1節の、神が天使に「大地も海も木も損なってはならない」と語ったという記述をモチーフにしており、「1960年代に既に環境破壊、エコロジー的視点から聖書を読んでいた視点の鋭さに驚かされます」と高く評価した。
さらに神田教授は、神戸にゆかりのある3人の美術家、小磯良平、田中忠雄、堀江優によるキリスト教絵画についても触れた。
小磯良平(1903~1988)は、1933年に神戸教会(現日本基督教団神戸教会)で洗礼を受けた。今回は、小磯が欧州滞在中に描いた『聖書より』(1960年)が展示されている。小磯は1971年から出版された『口語訳聖書』(日本聖書協会)の挿絵を描いており、その聖画集も参考資料として展示されている。
また「世界のクリスマス切手」では、同大出身で牧師の播磨醇氏が50年以上かけて集めたコレクションが展示されている。パレスチナ自治政府が発行した、ベツレヘムがキリスト生誕の地であることを記念した切手(2000年)、バチカンの時祷書を図案にした記念切手、レンブラントの聖画を使ったオランダの切手、サンタクロースの国フィンランドの切手、各国の子どもたちのクリスマス切手など、国柄や文化、信仰が表れたユニークなクリスマス切手が並んでいる。
神田教授は、「関西学院は、米国の南メソジスト監督教会の宣教師、W・R・ランバスによって1889年に創立されて、今年で125周年です」と、同学院の歴史を紹介。太平洋戦争で日本を離れざるを得なかった4代院長C・J・L・ベーツの別れの言葉「Keep this holy fire burning(この聖なる光をともし続けてください)」について触れ、「聖なる光とは、ヨハネによる福音書冒頭の『命は人間を照らす光であった』『光は暗闇の中で輝いている』という言葉にもあるように、救い主イエスを示唆するものです。聖なる光を描いた作品の展示を通して、『命の光』とキリスト教主義学校の関西学院の歴史を感じていただければ幸いです」と話す。
展示は、第1部が12月23日(火)まで。第2部は、2015年1月6日(火)から2月14日(土)まで。開館時間は午前9時半から午後4時半まで。日曜・祝日は休館。入館無料。問い合わせは、同大博物館(住所:兵庫県西宮市上ケ原一番町1−155、電話:0798・54・6054、ホームページhttp://museum.kwansei.ac.jp/ )まで。