東京都八王子市にアトリエを持つ画家、森岡憲治氏の個展が、銀座渋谷画廊(東京都中央区)で、27日から開催されている。学生時代から40年以上にわたって絵を描き続けてきた森岡氏は、大手画廊の専属画家を経て、現在はフリーの画家として活動している。2年ごとに開いてきた渋谷画廊での個展は、今年で17年目になる。
画廊の壁には、八つ切りサイズの作品から、F50(1167ミリ×910ミリ)の大きな油彩画までが飾られている。クリスチャンである森岡氏は、聖書をモチーフにして絵を描くことが多い。
今回の個展で初公開された「善き羊飼い」は、F50のカンバスに、一匹の子羊を抱えた羊飼いが描かれている。羊の群れを背景にして描かれたその人は、聖書に登場する「99匹の羊を野に置いて1匹の羊を探しに行く」羊飼いであり、まさしくイエス・キリスト自身であることが分かる。足元が入りきらないほど羊飼いが大きく描かれた絵の前に立つと、自分が幼い子どもになったような不思議な感覚に襲われる。
今回の個展に向けて準備をしてきたこの2年の間は、決して順調ではなかった。体を壊し、医者からも命拾いをしたと言われるほど状態が悪化した。大変な中で、1年以上筆が持てず、思うように作品を描けなかった。その中で感じた、イエス・キリストの力強さ、規格外の愛の大きさ、広さ、深さが、この絵に豊かに表現されている。
自然は第二の聖書、と自然を題材にした作品も数多く見られる。山の中で出会った、どくだみの花の美しさに心を奪われた森岡氏は、その花を「白十字の花」と呼ぶ。聖書から直接イメージを持ってきたものではない風景や植物を描いた作品であっても、そのモチーフに注がれているのはクリスチャンとしての森岡氏の視点なのだ。
絵を見る人が一人でもキリストを感じてほしい、多くの絵の中で一つでも心に残る絵があってほしい。言葉では表現できない絵を通してキリストが伝わるように、ひとつひとつ祈りを込めて描いているという。森岡氏が筆を動かすのは、「俺みたいな者が救われた」という、ただ神への感謝の気持ちから。
妻・陽子さんを通して救いに導かれるまで、森岡氏は、神のいない人生、自分の力で頑張らなければならない人生のつらさを長い間味わってきた。つまずき、だまされ、努力しても評価されない現実の世の中は、クリスチャンになっても変わることはない。しかし、苦しみがあるからこそ、羊飼いであるキリストが共にいる絶対的な安心感、これからも共に旅をしていけることの喜びがある。そんなメッセージが、この個展の作品全体を通して伝わってくる。
この個展の直前に、一つの連絡が森岡氏に入った。屋久島の小さな教会で、森岡氏の作品と、森岡氏を特集したVTRを見た人が受洗の決断をしたというのだ。森岡氏にとってこれ以上にまさる喜びはない。絵を描くことを通して福音を伝えていきたいと願う森岡氏の手のわざは、神に守られ、これからもやむことはないだろう。
森岡憲治個展は、中央区銀座7-8-1渋谷ビル2Fの渋谷画廊で、11月2日(日)まで開催。午前11時~午後6時30分(ただし、最終日は午後4時まで)。