8日、幡ヶ谷キリスト教会(東京都渋谷区)で「原子力発電によるエネルギー確保と聖書」と題した勉強会が開催され、同教会牧師の住田裕氏が講演を行った。勉強会では昨年3月11日に生じた東日本大震災による福島第一原子力発電所原子炉制御不能による放射性物質流出の事態について再度振り返る時間が持たれ、原子力発電によるエネルギー確保をクリスチャンとしてどのように捉えるべきかが提起され、福音主義キリスト者としてライフスタイルそのものの見直しを社会に提唱して行く必要性があることが再度確認された。
住田環境技術士事務所所長で環境問題のエキスパートでもある住田氏は、今年1月に幡ヶ谷から福島、仙台、石巻まで線量計を携えて放射線量を測定してきた結果を今回の勉強会で公開した他、原子力発電について基本となるウラン原子の核分裂の仕組みについて科学的な解説を行った。住田氏は解説を通して原子力発電と原子爆弾の核反応のわずかな違いについて説明した。また放射能を測定する単位である、ベクレル、シーベルト、グレイについて説明し、原子力発電の安全性と有害性について再度確認する時間をもった。
住田氏は放射線被ばくの安全性について、「安全と安心は異なります。行政は安全を語り、私たちは安心を求めます」と伝え、五感で感じられない被曝についての不安について、基準値や情報がなんとなしに定められていること、情報の隠ぺいがなされてきたことについて遺憾の意を示した。
また今回の東日本大震災について住田氏は「地震学者が貞観地震(869年)があったことを明らかにし、警告してきたものの、これが足りなかったと猛省している。一方でキリスト教界は『人が罪人である』ことを知っているにもかかわらず、これまで日本社会で世の光、地の塩としての役割を果たしてこれたのだろうか。そもそもこの視点があるだろうか」と問いかけ、今回の原発事故に関して「東京電力、原子力安全・保安院、原子力安全委員会など原発災害の可能性を否定していた人たちだけではなく、日本のキリスト教界も『人が罪人である』ことの意味を伝える役割を果たしきれなかったことを猛省する必要があるのではないか」と述べた。
住田氏は原発事故と聖書にある御言葉を照らし合わせて、「知らない部分を掘り下げなければ、物事は見えてこない。神の前に立ってこそ生き様を見直すことができる。聖書を読んでいると言いながらもこの世の価値基準の中でそれが歪曲されているところがあるのではないか。見えない部分、知らない部分を見つめ全体を見て行くことで、考えて行かなければならないことが見えて来るのではないか」と述べ、原子力発電によるエネルギー確保と現代社会の様相の中に潜む「貪りの罪」について指摘した。
ヨハネの黙示録18章を引用し、現代社会と新約聖書が書かれた当時のローマ社会における『貪りの罪』の様相が非常に似通っていることを指摘した。
今回の原発事故を通して住田氏は「人は間違える=人は罪人である」こと、「機械は故障する」ことの二つの大原則を指摘し、原子力発電は、1.人が管理できる技術ではなく、2.ウランは循環できない、限られた資源であり、3.放射性廃棄物の処理は確立していない、ことを挙げた。
また危険性があるにもかかわらず原子力発電を続ける社会のあり方について、住田氏はエレミヤ書6章13節~15節を引用し、「平安がないのに『平安だ、平安だ。』と言っている。彼らは忌み嫌うべきことをして、少しも恥じず、恥じることも知らない。だから、彼らは、倒れる者の中に倒れ、わたしが彼らを罰する時に、よろめき倒れる」という御言葉が、さながら原子力発電を継続しながら平安であると言っている日本社会の様子のようでもあると指摘した。
さらに現代社会が拝金主義、自己実現、成功主義、権力主義などの形での偶像崇拝を行っている様子について、使徒の働き17章23節~31節を引用し、「神が地の全面に人々を住まわせ、それぞれに決められた時代と、その住まいの境界とをお定めになられたこと(17・26)」、つまり人には居るべき領域が決められていること、「神を、人間の技術や工夫で造った金や銀や石などの像(偶像礼拝)と同じものと考えてはいけません。神は、そのような無知の時代を見過ごしておられましたが、今は、どこででも全ての人に悔い改めを命じておられます(17・29~30)」と書かれてあることを指摘した。
人が居るべき領域を超えて成功や富を求める様子については、モーセの十戒の中にある「貪り」という大きな罪であり、「こういう人はだれも、キリストと神との御国を相続することができません(エペソ5・5)」、「地上のからだの諸部分、すなわち、不品行、汚れ、情欲、悪い欲、そしてむさぼりを殺してしまいなさい。このむさぼりが、そのまま偶像礼拝なのです。このようなことのために、神の怒りが下るのです(コロサイ3・5~6)」と聖書に書かれてあることを伝え、キリスト者自身がまず悔い改め、罪人に過ぎない「人」がさらなる罪に走ることのないように「世の光」としてキリスト教界が社会に聖書の価値観を伝えていく役割を強く認識して実践していくことの重要性が改めて確認された。
終わりに住田氏は、「福音主義神学の限界もあるのではないか。人生の成功、成長に寄与する神学だけではなく、少子高齢化、成長の限界、地域社会の変化、人間性の喪失の中で、自分を理解し、方向づけ、人生の行程を最後まで貫徹することを支える神学、霊性が求められているのではないか。人のうちにある罪に関して、人間理解の浅さがあるのではないか」と問いかけ、「キリストの福音によって人に罪を悔い改めさせ、人が神の前で、イエス・キリストに似ることができる生き方が許される。この祝福を明示することが求められている。『生きる』ということはどういうことなのか。成長神学が見失ってきたものが今問われているのではないか」と指摘した。
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