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聖ニコラスの生涯

サンタ・クロースと呼ばれた人―聖ニコラスの生涯(42)サンタ・クロース誕生

2026年4月1日19時44分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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聖ニコラスの肖像画+
聖ニコラスの肖像画(画:ヤロスラフ・チェルマーク)

その頃、ニコラスは天国に通じる階段を一歩一歩、天使たちに手を取られて登っていた。(これで思い出多い地上の生活ともお別れだな。寂しい気もするが、何とありがたい生涯だったことか)

彼はつぶやき、感謝をするのだった。それにしてもあの日照りの山道に比べ、この天国の階段は何と楽なことだろう。彼はかつて汗をかきながら子どもたちと登った山道をなつかしく思い出すのだった。

天国の門の所には、たくさんの天使たちを従えて、まばゆいばかりの栄光の衣をまとったイエス・キリストご自身が立っていた。(おお。イエス様にじかにお目にかかれるとは。何て自分は幸せ者だろう)彼の心は喜びに踊り、手足は感動のあまり震えた。

「忠実なしもべニコラス。あなたは立派にその使命を果たしました。今から未来永劫(えいごう)、世界中の子どもたちはあなたの名をたたえ、その愛の中にある祝福の贈り物を忘れることがないでしょう」

主イエスはこう言って彼を祝福し、中に招き入れた。──と、天国の門が後ろで閉ざされようとした瞬間、暗い地上に別れを告げようとして、ニコラスは下をのぞき込んだ。すると、後に続く時代の中で、苦痛にあえぎながら生きていかねばならない子どもたちの姿が目に映った。

「イエス様、お願いでございます」。彼は袋を下に置くと、その場にひざまずいた。「こうして天国に招いていただき、あなたの素晴らしい家で、もはや憂いも悩みも、思い煩いもなく、先に召された家族や友人、仲間たちと共に憩うことは、それはもう幸せなことでございます。でも……」。彼は袋を取り上げると、それを胸に抱きしめて言った。

「終わりの日まで、天国での休息はお預けにしとうございます。私は、もう少し働きたいのです。そうです──あなたのご降誕を記念するクリスマス前夜に、あらゆる国の子どもたちにお菓子やおもちゃ、絵本などを届け、また、悲しみや苦しみで心が凍りついた人々に賛美の歌を届けて、イエス様、あなたの愛で温めてあげたいのです。この使命をどうかニコラスに全うさせてくださいまし」

すると、イエス・キリストは微笑し、手を彼の肩に置いた。

「いいでしょう。聖ニコラス。あなたを『子どもたちと貧しい人々の保護者』に任命し、再び地上に遣わします。地上の全ての家々の子どもたちと、悲しい思いでクリスマスを迎えねばならない壊れた心を持つ人たちを慰めるために。決して希望を捨ててはならないというメッセージを贈り物にして、家々の煙突から中に入れてあげなさい」

「ありがとうございます。イエス様。やれうれしや、うれしや。私は終わりの日が来たら、その時にゆっくり休ませてもらうことにします」。ニコラスの白い髪とひげは雪のように輝き、その赤い司教服は太陽のように照り映えた。「では、行ってまいります」。彼はピンと背筋を伸ばして言った。

「北の国々の家は、煙突に雪があるから、そこから入るとき、滑らないようにね」。年長の天使がそう言って、ピカピカの長靴と、柔らかい靴下を持ってきてくれた。

「この子があなたと一緒に雪道を滑りたいと言っているから、連れていってあげて」。別の天使がそう言って、黒水晶のように潤んだ目をしたトナカイを引いてきた。すると、鈴の音が高らかに響き渡った。

「では、星空を抜けて、これから北の国へ参ります。もうすぐクリスマスだから、子どもたちは贈り物を待っているでしょう」

そりは、星くずをまき散らしながら、白い雲を蹴立てて地上に下っていった。ミラの町を通過するとき、教会では盛大な葬儀が終わり、人々がニコラス司教の思い出話をしているところだった。

ニコラスは特別に大きな音を立てて鈴をリンリンと打ち振った。すると、中庭にいた小さな男の子がびっくりしたように言うのだった。

「あっ、今シューッと音がしてそりが滑っていくとき、鈴の音がしたよ。本当だよ」

◇

12世紀ごろ、欧州では聖ニコラスの祝日は子どもの日となり、その前夜、子どもにプレゼントする習慣ができた。その後、贈り物を入れた大きな袋を背負い、赤い司教服と白い口ひげのニコラス像が定着する中で、オランダの子どもたちが「セント・ニコラス」をなまって「サンタ・クロース」と呼んだことから、この聖人の伝説が生まれたのである。

*

<あとがき>

この地上での働きを終えたニコラスは、天国に召され、イエス・キリストとまみえます。彼の心は喜びに満ちあふれますが、ふと暗い地上を眺めたとき、彼は天国での休息をお預けにして、もう少し地上で悲しむ人や苦しむ人を慰めるために働きたいとイエス様にお願いします。

それで、クリスマス前夜に子どもと貧しい人の所に贈り物と慰めの言葉を届ける役目を頂いたのです。これが、サンタ・クロース伝説の始まりです。サンタ・クロースとは、オランダの移民の子どもが「セント・ニコラス(聖ニコラス)」をなまってそう呼んだことから、世界中にこの名前が定着したのでした。

この世にあるときだけでなく、天国に召されてまで、ニコラスは「子どもと貧しい人たちの保護者」というお役目を頂いて、どんなにうれしかったでしょう。実に聖ニコラスこそ、現実と夢の世界の間にある境界線を乗り越えることのできた珍しい聖人でした。今まで愛読していただき、心より感謝申し上げます。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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