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聖ニコラスの生涯

サンタ・クロースと呼ばれた人─聖ニコラスの生涯(39)変わらぬ友情

2026年2月18日19時24分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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聖ニコラスの肖像画+
聖ニコラスの肖像画(画:ヤロスラフ・チェルマーク)

ニコラスは夢を見ていた。あの3人の将校が、暗い地下牢に閉じ込められているのだ。「ニコラス司教様。お助けください!」彼らは鉄格子をたたいて叫んでいる。

「私たちは、無実の罪で獄につながれているんです。ゲルマン人の首領と話し合い、平和的に解決をし、コンスタンティヌス大帝からお褒めの言葉まで頂いたのに。どうしてこんなことになったのか分かりません」

ニコラスは、はっと目を覚ました。あの3人の将校を送り出して3日がたっている。

(何やら不測のことが彼らの身に起きたのだ。どうしたら彼らの無実を晴らしてあげられるだろう?)彼はつぶやいた。この上は、どうしてもローマに行ってコンスタンティヌス大帝と会って話したかったが、今はとてもそうしたことなどできない身であった。

「主イエス様。どうか彼らをお助けください。無力な私は、あなたに祈り求めるしかすべがありません」。彼は、3人の将校たちのために、祭壇の前で夜を徹して祈った。そして、明け方の光が差すころ、疲れ果てて眠ってしまった。

奇跡は始まった。彼は眠っていることは分かっているのに、その体がふわりと持ち上げられ、どんどん海の上を運ばれていくのだった。そして、彼自身一歩も足を踏み入れたことのないローマの都に入り、見事な建造物が並んでいるフォロ・ロマーノを歩いていた。そして「コンスタンティヌスの凱旋門」と呼ばれる見事なアーチの前に出た。

ふと気が付くと、その凱旋門の入り口の所に、一人の男が立っているのが見えた。ニコラスと同じように大きくて、頑丈な体つきをしていた。近づいてよく見れば、何とそれは忘れもしない心の友、コンスタンティヌス自身ではないか。

「おお、あなたでしたか! ここでお会いできるとは」。ニコラスが駆け寄ると、相手はがっしりとした手を差し伸べた。「しばらく。きっとここへ来るだろうと思ってお待ちしていました」

2人はそのまま抱擁を交わした。ニコラスが白い髪とひげを持った老人になっていたように、コンスタンティヌスの髪にも白いものが混じり、その顔には無数の傷跡があり、深いしわを作っていた。

「まずあなたに礼を言わなくては。キリスト教を公認し、私たちの教会と兄弟たちの命を返してくださって心から感謝します」

「礼を言われるほどのことじゃない。信教の自由というものは万人のものであるから、これを法令化する必要があるのです」

コンスタンティヌスはそう言って灰色の髪を片手でかき上げると、正面からニコラスを見つめた。

「自分こそあなたに礼を言いたいと思っていた。あのミルヴィウス橋の決戦の前夜は、心身ともに疲労していて、とても勝てる自信がなかった。でも、あなたがキリストに祈ってくれたから、このマークを付けて勝利することができたのです」

そして彼は、自分の軍服に縫い取りしてあるあの印を見せた。そしてキリスト教を公認すると同時に、自分もクリスチャンとなったと語った。

ニコラスは、旧友の肩を抱いて祝福してから、おもむろにもう一つ頼みごとがあってやって来たことを語った。

「ところであなたにお尋ねしたいのです。なぜ忠実な3人の将校を牢に入れたりしたのです? 彼らは剣を交えることなくゲルマン人の首領と話し合い、その侵入を食い止めたのです。あなたは心ない一部の側近の中傷に耳を貸し、彼らを牢に入れ、死刑を考えているのですね。これは違う。間違っていますよ」

「そうだったのか」。コンスタンティヌスは、途方に暮れたようにぼんやりとしていたが、やがて頑丈な手でごしごしと顔をこすった。「いやはや、何ということだ。この自分は帝位に就く資格などないぞ」

ニコラスは、彼の手を取って言った。「大切な友コンスタンティヌス。私も年を取りました。もう地上では会うことがないと思いますが、あなたと家族の幸せをお祈りしていますよ」

するとコンスタンティヌスも彼の手を握り返してきた。「軍人には幸せというものなどなく、あるのは公義のみ。ローマが再建されればそれで自分の人生は終わるのです。さようなら、ニコラス」

そして、ややユーモラスに付け加えた。「もし自分より先に天国でイエス・キリストに会ったら、こう伝えてください。――キリスト教公認はかなり高いものにつきました、とね」

*

<あとがき>

3人の将校は、ゲルマン人の首領と会って平和的に争いを解決した後、ローマに帰ってきました。しかし、彼らの出世をねたむ者たちは、よからぬことをコンスタンティヌス大帝の耳に入れたので、3人は牢につながれる身になりました。

彼らはニコラス司教のことを思い出し、その名を口にして助けを求めたところ、その声が彼に届き、彼はいつかのように夢の中で、現実には会うことが不可能なコンスタンティヌス大帝と会うことができました。

コンスタンティヌスは、自分が大変な間違いをしていたことに気付き、すぐに3人の将校を牢から出し、以前よりももっと高い役職に就かせたのです。そして、彼とニコラスはもうこの世では会うことができないことを知りつつ、あの世での再会を誓い合いました。

その時、コンスタンティヌスは、もしニコラスが自分より先にイエス・キリストにまみえることができたら、ぜひ伝えてほしいと言い、音信を託すのでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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