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聖ニコラスの生涯

サンタ・クロースと呼ばれた人―聖ニコラスの生涯(40)スントケの砂糖菓子

2026年3月4日18時34分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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聖ニコラスの肖像画+
聖ニコラスの肖像画(画:ヤロスラフ・チェルマーク)

月日が流れ、いつしかニコラスも70歳を超える高齢となった。しかし、彼は相変わらず教会の任務の間をぬって菓子が入った袋を担いで子どもたちの家々を訪問して歩いていた。

そんなある日のこと。それはひどく冷え込む日で、朝から雪がちらつき始めた。ニコラスは風邪をひいており、その日の朝も気分がよくなかったのだが、待っている子どもたちのことを考えると、袋をかついで出かけたのだった。

しかしながら、寒さにかじかむ手に息を吹きかけながら、最後に足の悪い子どもの家にお菓子を配り終えたとき、急に強まってきた吹雪のために坂道で足を滑らせ、そのまま何も分からなくなってしまった。

どのくらいたったことだろう。彼は冷え切った体がぽかぽかと温まってきたのを感じて目を開けた。すると広い花園の中にいて、大勢の子どもたちに囲まれているのだった。

「よく来ましたね、ニコラス様。さあ、これは私が作った砂糖菓子です。召し上がれ」

そんな声がしたかと思うと、黒い皮膚をして縮れた髪をリボンでゆい上げた女性が、大きなザルからザラザラと砂糖菓子をテーブルの上の大皿にあけた。

「スントケ!」思わずニコラスは叫んだ。「あなたスントケじゃないですか。迫害の中、エチオピアに逃げたと聞いたが、無事だったんですね」

「そうですよ、ニコラス様。お会いできるのを楽しみにしていました」。そして彼女は、エチオピアに帰ってから娘と共に王宮のレストランで働き、そこで「冬のばら」という砂糖菓子を作って女王に献上し、大変お褒めにあずかったと話すのだった。

「そしてね、ニコラス様。エチオピアは今では立派なキリスト教国になりましたのよ」

「本当によかった。全て神様のお恵みです」。ニコラスは言った。

その時、子どもたちが歌い始めた。

ニコラス様の焼き菓子と
スントケおばさんの砂糖菓子。
(どっちがお好き?)
どっちも、どっちも、どっちもね
おいしいな。おいしいよ。

ニコラスは目を覚ました。司教館のベッドに寝かされ、心配そうなたくさんの顔が自分をのぞき込んでいる。彼はその中に、黒い皮膚と縮れ髪の女性を見て、やはり夢でなかったと思った。

「スントケ、あなたにまた会えて、本当に私はうれしい」。すると、その女性は首を振り、恭しく言うのだった。

「スントケは、私の母でございます。実は1週間前に亡くなったのですが、その時に、もし船旅でミラの港を通過するようなことがあったら、ニコラス司教様にこの砂糖菓子を届けてほしいとそのレシピを私に託してこの世を去りました。私は母と共にエチオピアの宮廷で料理人として働いていたものですから、時々食材を求めて船で他国へ行くのでございます。それで、たまたまビザンチウムにとうもろこしを買いに行く用事がありましたので、母のレシピをもとにこの砂糖菓子をたくさんこしらえてお届けにあがったのでございます」

ニコラスは、周りの人に起こしてもらい、手を差し伸べてスントケの娘の手を握った。彼女は、ツルポサと名乗った。

「それで、この美しい砂糖菓子に名前は付いているのでしょうか?」「はい。これは『冬のばら』と申します」

その時、教会堂の入り口あたりでガヤガヤと子どもたちの騒ぐ声がした。「ニコラス司教がご病気といううわさが伝わって、子どもたちが心配して来たのです」。様子を見に行ったクリスポが言った。

ニコラスはそれらの子どもたちを連れてきてほしいと頼んだ。すると、まるで津波のように子どもたちが司教館に押し寄せた。

「ツルポサ。あなたの手でこの『冬のばら』をこの子たちに分けてあげてください」。ニコラスの言葉に、ツルポサは大切に持ってきた箱を開け、中からキラキラ輝く砂糖菓子を両手ですくって子どもたちに配った。

すると子どもたちは、歓声を上げて歌うのだった。

ニコラス様の焼き菓子と
スントケおばさんの砂糖菓子。
(どっちがお好き?)
どっちも、どっちも、どっちもね
おいしいな。おいしいよ。

*

<あとがき>

ニコラスは70歳を超える高齢となっても、相変わらず大きな袋にパンケーキをたくさん詰め込んで、子どもたちに配って歩いていました。

そんなある寒い日に、彼は風邪をひいているにもかかわらず、子どもの家を一軒一軒訪ね、パンケーキを配って歩いていましたが、途中で急に気分が悪くなって倒れてしまったのでした。

気が付くと明るい場所にいて、昔彼をかわいがってくれたスントケという家政婦が砂糖菓子を作っていたのです。

迫害が起きたとき、彼女は子どもと一緒にエチオピアに逃れ、宮廷のレストランで働くうちに「冬のばら」という砂糖菓子を開発し、大変女王から喜ばれて庇護(ひご)されているということでした。

目が覚めると、枕元に本当に彼女がいたので声をかけると、それは娘のツルポサという女性で、母の遺言通り、ニコラスの所に菓子を届けに来たのでした。

ニコラスは大変喜び、彼女の手から「冬のばら」という砂糖菓子を受け取り、共に主を賛美したのです。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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