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聖ニコラスの生涯

サンタ・クロースと呼ばれた人―聖ニコラスの生涯(41)天国への旅立ち

2026年3月18日19時43分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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聖ニコラスの肖像画+
聖ニコラスの肖像画(画:ヤロスラフ・チェルマーク)

紀元343年12月5日の朝まだき。ニコラス司教が逝去したとのニュースが各地を駆け巡った。そして12月6日。葬儀がミラの教会で行われることを知ると、隣のパタラの町から、ラオディキアやエペソなどからも人々が故人と別れを惜しむために次々とやって来た。

遠いギリシャのテサロニケからは、あのルキオとソステネが老いた体を引きずるようにしてやって来た。遺体は丁寧に洗い清められ、彼がほとんど一年中身にまとっていた赤い司教服に包まれ、大理石の棺に納められていた。

父である神の御前できよく汚れのない宗教とは、孤児ややもめたちが困っているときに世話をし、この世の汚れに染まらぬよう自分を守ることです。(ヤコブの手紙1章27節)

司教代理となったヨシュアは、ニコラスが生前愛読していた『ヤコブの手紙』を読み上げた後、告別の説教をした。

「ニコラス司教は、生涯を通して貧しい者、病める者の友でした。そして、その中でも深い愛をもってその懐に招き入れたのは子どもたちでした。彼は親から世話してもらえない子や愛情に飢えた子どもを見ると全てを忘れて尽くしたのです。なぜ司教がこれほどまでに子どもを愛したのかというと、実は彼自身が孤児であったためと考えられます。死の直前まで、司教は菓子を詰めた大きな袋を肩に担いで貧しい家庭の子どもたちにパンケーキを配って歩いておられました。子どもはまさに彼にとって命そのものだったのです」

それから、ヨシュア司教代理は大きな袋を出すと、会衆によく見えるよう掲げて見せた。「これは、船乗りのテキコという人が、遺言と共にこの教会に届けてくれた献金です。彼は嵐の時にニコラス司教に命を助けられて以来、仲間の船乗りや船大工たちに呼びかけてこつこつと献金を募り、ためていました。ある金額以上たまったら自分で教会に届けるつもりでおりましたが、残念なことに司教が亡くなる1週間前に世を去り、仲間が遺言と共に届けてくれたのです。それで全教会員と協議した末、私たちはこの教会の庭にニコラス司教の銅像を建てようと思います。どうかこの計画が神の御心にかない、立派な像が建てられますようお祈りいたします」

ヨシュア司教代理が壇から降りると、クリスポ助祭が祈りをささげ、長老に昇格したアペレは聖歌隊を指揮したので、荘厳な聖歌が流れ出した。こうして多くの人々のすすり泣きと祈りの中で、ニコラス司教の葬儀は粛々と進められていった。

この葬儀には、今年61歳になるパン屋の店主アデオダートスも、妻メリッサと息子夫婦アンドレとマリア、そして3歳になる孫のマルコを連れて参列していた。

「ニコラス司教様は、私らパン屋よりも上手にパンや焼き菓子を焼いておられたんですよ」。葬儀が終わってから、ゆかりのある人々だけで司教をしのんでいたとき、アデオダートスが言った。

「それで、そんな司教様の魂をお慰めするために、私らは徹夜でパンを焼きました。司教が考案された『天使の微笑』というパンケーキです。どうぞお帰りのとき、記念にお持ちください」

人々はアデオダートス一家が心を込めて焼き上げたパンケーキをもらってから、しばしニコラスの思い出話をするのだった。

夕方近くになって、ようやくいとまを告げるために彼らが腰を上げたとき、またしても不思議なことが起こった。彼らの耳に何とも言えないほど美しい合唱が聞こえてきたのである。

「あっ、天使たちの合唱だ!」その時、アデオダートスの幼い孫マルコが顔を輝かせて言った。そこで一同は、これはきっと天に帰ったニコラス司教が皆を慰めるために天使たちと合唱なさったのだ──と口々に語り合うのだった。

それから少し後で、またしてもマルコ坊やは妙なことを言うのだった。「ねえ、あの天使の歌が聞こえたとき、きれいな鈴の音がしたでしょう?」

「いや。鈴の音なんかしなかったよ」。父親のアンドレはそう言ったが、マルコは真剣な顔をして言うのだった。

「ううん。見えないけどね、とってもきれいなリンリンっていう鈴の音がして、そりがシューと氷の上を滑っていく音も聞こえたよ、本当なんだよ」

*

<あとがき>

皆から愛され、慕われていたニコラス司教が天に召されたという知らせは各地を駆け巡り、12月6日にミラの教会で行われた葬儀には、ミラやパタラ、その他近隣の町や村からも大勢の人々がやって来て冥福を祈りました。

司教代理となったヨシュアは、告別の説教をして、ニコラス司教の徳をたたえ、その人格をしのんだのでした。そして、その後、ニコラスとなじみの深い船乗りのテキコが自分の遺言と長い間こつこつためた献金を届けてきたとの報告もしたのでした。

そして教会員たちが協議した結果、教会の庭にニコラス司教の銅像が建てられることになりました。この葬儀にはあのアデオダートスが妻メリッサ、息子夫婦であるアンドレとマリア、それに3歳になる孫のマルコを連れて列席していたのですが、夕方近くに不思議なことが起こりました。

一同の耳に何とも言えないほど美しい天使の合唱が聞こえ、幼いマルコは天使の歌声に混じってそりが鈴を鳴らして通過していったと言うのでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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