次に訪問したのはマルディン県に建つ聖アヴギン修道院。ガイドマップや修道者による解説では次のように紹介されていた。
聖アヴギン修道院は、ヌサイビン(ニシビス)から約25キロ、ギルメリ地区北7キロに位置し、海抜約千メートルのバゴク山の斜面に建つ。その歴史は4世紀にまでさかのぼる。
聖アヴギンが70人の学生(使者)と共に、エジプトのバゴク山脈のふもとにある彼の名を冠した聖アヴギン修道院を建設し、そこからこの地にイエスの教えを広めたいとの意思で来たという。写真にあるように、バゴク山の麓を通る交易路のすぐ北に位置し、この道路を通過するキャラバンに水を供給し、もてなしを行うことで知られていた。山肌を削った城のような修道院からはメソポタミア平原が一望できる。
修道院の一部の構造物は岩に彫られ、中庭を囲むように複雑な古代からの建物が建ち並んでいる。この修道院は1839年までアッシリア東方教会(景教の前身)によって使用されていたが、1842年以降シリア正教会の手に移った。
1900年に入り、放火や略奪を経験するという大変困難な時期を迎える。さらに第一次世界大戦の1915年には、修道院とこの地域が大迫害に遭い、多くの住民が殺害され、離散していくという悲しい出来事が起きた。
シリア正教司祭の死の1970年まで続いた修道院はその後閉鎖された。長い間誰も訪れなかったこの修道院は、2010年に礼拝のために再開された。この修道院からイラクに使者を派遣し、教会を設立した経緯もあるという。
この地を訪れて大変驚いたのは、山の中腹に修道院が建てられていたことだ。壮大さに圧倒され、どのようにして建てていったのか不思議であった。これを見て、建設は何年もかかるが、神の助けと神への信仰と熱意とが実現へと導いたと思うと、不可能なことはないと知った。車で入り口まで行くとトヨタ製の使用車があり、身近に感じた。また院内外ではソーラーパネルが稼働し、発送電は十分だという。
礼拝室の奥のデザインを見て感じたのは、アッシリア東方教会や景教のものに似ているということであった。先述したような背景があったことを知れば少し理解できる。
黒服を身にまとった修道士のガイドさんが穏やかな口調で説明してくれた。私たちにとっては全てが新しい光景であった。建築は石こう造りや石造のアーチ形が多く見受けられ、他の修道院とは異なるものを感じた。
※ 参考文献
『古代シリア語の世界』(イーグレープ、2023年)
『景教—東回りの古代キリスト教・景教とその波及—』(改訂新装版、イーグレープ、2014年)
『景教碑の風景』(シリーズ「ふるさと春日井学」3、三恵社、2022年)
【著者の最新刊】
『古代シリア語の世界』(イーグレープ、2023年)
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