ホスピスケア(終末期ケア)を行う英慈善団体「マリ・キュリー」は、現場責任者が団体で奉仕していたボランティアの男性チャプレンに対し、身に着けていた十字架を外すよう要求したことについて、謝罪した。
英キリスト教アドボカシー団体「クリスチャンコンサーン」(英語)によると、十字架を外すように言われたのは、マリ・キュリーのソリフル支部で奉仕していた元ビジネスマンのチャプレン、デレク・ティムズさん(73)。チャプレンは、教会などの宗教施設外で働く教職者。同支部の「スピリチュアル・アドバイザー」プログラム中に、現場責任者から十字架を外すように言われたが、抗議したところ、11月に入って謝罪を受けたという。
ティムズさんの代理人を務める英国の「キリスト教法律センター」(CLC)によると、この問題は9月、ソリフル支部が新しい「異宗教間的」アプローチの一環として、チャプレンの職名を「スピリチュアル・アドバイザー」に変更した後に起こったという。
ソリフル支部でプログラムの現場責任者を務めるメソジスト派の牧師は、ティムズさんが十字架を身に着けていることに「驚いている」「控えるべきだ」と伝えるメールを送信。ティムズさんがこれまで4年間、マリ・キュリーで奉仕する際に身に着けてきた十字架が、「規則違反」であり「障壁」になるかもしれないと述べたという。問題とされた十字架は、上着の外側に着けるごく小さなピンバッジ。メールには次のように書かれていた。
「ホスピスと医療チャプレンの精神にのっとり、精神的ケアに携わる者は宗教的シンボルを身に着けるべきではありません。私たちは、全ての信仰を持つ人、持たない人のためにいることが必要です。あなたは、身に着けた十字架をある患者が気に入ったという話をされていましたが、他の患者にとっては障壁となっている可能性があります。私たちは中立であるべきで、それによって、訪ねている相手が必要とするものを巡る精神的な出会いが可能になると考えています」
CLCによると、ティムズさんはこの十字架を、自身の信仰の表現としてだけでなく、今年初めに亡くなった妻を偲んで身に着けていたという。ティムズさんはまた、妻の遺灰の一部が入った十字架のネックレスも目立たないように身に着けている。
ティムズさんはこのメールに対し、十字架は自分がキリスト教のチャプレンであることを示すものだと述べ、ターバンを巻いたシーク教徒や、ブルカや祈りの服を着たイスラム教徒にも同じ規則が適用されるのかと質問した。
すると牧師はティムズさんに、ある種の「再教育」が必要だと述べたとされる。牧師はティムズさんに直接会い、「(ティムズさんが)このホスピスで、私たちと精神的ケアを続けるのが適切かどうか」を判断しなければならないと言ったという。
ティムズさんはCLCの支援を受けて、職場で十字架を身に着ける自由に関する法的判断の抜粋を引用しながら、次のような手紙をマリ・キュリーの地域本部に送った。
「マリ・キュリーのソリフル支部のウェブサイトや企業方針の文書、国民保健サービス(NHS)のウェブサイトを調べましたが、私のような状況で十字架を身に着けることを禁止する企業方針の文書はどこにもなく、なぜ禁止されるのかも分かりませんでした」
マリ・キュリーの地域本部は11月初め、ティムズさんの手紙に返信し、「ホスピスの患者や家族をサポートする間は十字架を外すべきだという要請を支持し得る組織上、服装上の方針は存在しない」と伝えた。CLCによると、手紙には「私たちが引き起こした苦痛に対して、無条件に謝罪します」と書かれていたという。
ティムズさんは、謝罪を歓迎するが、チャプレンの仕事は「もはや別のところで行う」と考えていると述べた。
「私は、私が扱われた方法にショックを受け、傷つきました。十字架のシンボルを抑圧する必要は、当時も今もなかったし、そうすることでキリスト教信仰を、中立化あるいはチャプレンの奉仕の場から完全に取り除くべきだというメッセージを送る必要もなかったのです」
「異宗教間的イデオロギーはキリスト教信仰全体にしっかりと組み込まれつつありますが、それにより本質的に(信仰)それ自体を打ち消してしまっています」
「私はキリスト教徒になったとき、私の人生を完全に変えた信仰を人々に示したいと思いました。私はイエスのために立ち上がり、私が持っている信仰を人々に示すために十字架を身に着けると誓ったのです」
CLCのアンドレア・ウィリアムズ最高責任者(CEO)は、「ティムズさんは、彼にとって非常に大切なものを取り除くという巨大な圧力に屈することを拒み、偉大な勇気を示しました」と語った。
英国では6月、十字架のネックレスを外すよう言われたキリスト教徒の工場労働者が、それを拒否したことで解雇されたことを巡って訴訟を起こし、約2万2千ポンド(約360万円)の賠償金を勝ち取っている(関連記事:十字架のネックレスを外すこと拒否して解雇されたクリスチャン労働者が勝訴)。
また1月には、十字架を身に着けて出勤するのをやめることを拒否したため、病院を解雇されたキリスト教徒の看護師を支持する判決も出ている。