世界平和統一家庭連合(旧称:世界基督教統一神霊協会=統一協会)による霊感商法被害の根絶と被害者救済を目的に活動している「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)が12日、東京都内で記者会見を開いた。旧統一協会は前日11日、安倍晋三元首相銃撃事件を起こした山上徹也容疑者が、犯行の動機として協会に対する恨みを挙げていることを受け、記者会見を開催。2009年以降はコンプライアンス(法令遵守)を徹底しており、問題は起きていないなどとしていたが、全国弁連は今も多くの被害があり相談が寄せられていると強調。11日の会見内容は「あまりにも事実に反している」「全くのうそ」などと批判した。その上で、政治家に対しては、協会や関連団体を支持するような行動はしないようあらためて強く求めるとした(関連記事:旧統一協会、安倍元首相銃撃事件受け記者会見 動機が報道通りなら「重く受け止める」)。
旧統一協会を支持するような行動しないで
会見では冒頭、全国弁連としての声明を発表。山上容疑者の犯行は「卑劣極まりない行為」であり、「いかなる理由があろうとも決して許されない」として、安倍氏への哀悼の意を示した。その一方で、山上容疑者の母親が旧統一協会に多額の献金をして家庭が崩壊し、そのために協会に恨みを抱き、事件を起こしたという動機が事実であれば、山上容疑者の苦悩や憤りは理解できるとした。行政や政治家はこの30年以上、家庭を崩壊させる協会の活動に対し、何の手も打ってこなかったとし、「こうした問題に対して、社会としてどう取り組むべきかがあらためて今回問われている」と訴えた。
また、協会が会見で「友好団体」と説明した「天宙平和連合」(UPF)については、「ダミー組織」だと指摘。安倍氏が昨年9月にUPF主催の大規模イベントにビデオメッセージを送り、教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の妻で、協会とUPFの現総裁である韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏に対し「敬意を表します」と述べたことは、被害者にとっては「大変な衝撃を与えるもの」だったと説明。全国弁連として、安倍氏に公開抗議文を送り、厳重に抗議したことに触れ、政治家に対し、協会や関連団体を支持するような行動はしないようあらためて強く求めるとした。
元2世信者の証言
会見には、旧統一協会信者の2世(子ども)で現在は脱会している40代の女性も出席した。3人姉妹の2番目だった女性は、母親が最初に入会。夫婦仲が良くない家庭で、母親に同情する思いがあったことから、母親が信じる協会の教えを受け入れることが親孝行になると思い、自らも入会したという。21歳の時に合同結婚式で、文鮮明氏が選んだ韓国人の19歳男性と結婚。中学中退の無職の男性で、住む場所もないため協会に転がり込んできたような人だったが、どんな人であっても断ってはいけないと教えられ、そう神の前に誓わせられていたため、断ることはできなかったという。
男性は合同結婚式の3年後に来日し、生活を共にするようになった。だが、家庭内暴力がひどく、子どもが生まれた後には離婚を考えるようになる。しかし、協会の教えを理由に、協会からも母親からも強く反対された。そんな中、男性が日本の永住権を取得するために自分と結婚したことを知り、離婚を決意。男性は母親の目の前でも女性に暴力を振るうようになり、それまで反対していた母親も離婚を認めてくれた。しかしそれでも、離婚をすれば天国に行けなくなるという教えのために、母親は離婚を深く悲しんだという。
その後、韓国側から再祝福(再婚)を提案された。女性は家庭内暴力の被害者と見なされていたため、再祝福が許される立場にあったという。2人目の相手も韓国人だったが、合同結婚式に参加するのに必要な費用は、日本だと140万円であったのに、韓国では140万ウォン(約14万円)と10分の1ほどしか求められなかった。これは、日本が韓国人女性を従軍慰安婦とした過去を理由に、日本側により高額な献金を求める反日的な教えのためだったという。女性は結局、再祝福を受けるが、2人目の相手は学歴、職業、年齢など、さまざまな点でうそをついていた人物だった。女性は自身の信販系カードを使い込まれ、自己破産に追い込まれた。韓国で10年にわたる極貧生活を送るが、文鮮明氏が死去したことをきっかけに脱会。2013年に、子どもを連れて日本に帰ってきた。しかし、母親は今も現役の信者で、家族は離散状態だという。
山上容疑者が起こした事件については、「何一つ擁護することはないですし、正しいと思ってもいません」としつつも、「人生を統一協会によって破綻させられた身としては、(協会に対する恨みについては)理解できてしまう苦しい心情があります」と吐露した。その上で、「それだけ統一協会は人生を破壊します。統一協会に関わってきた人たち、また2世と呼ばれる人たちがどんなに苦しい立場にいるか、私はよく理解できます。その思いが正しい方向に報道され、今まで放置されてきたこの問題が少しでも解決の方向に向かっていけばと思っています」と語った。
1冊3千万円の「聖本」 被害は2009年以降も
会見ではこの他、献金を呼びかける旧統一協会の集会の様子を捉えた動画も紹介された。これは、1998年に埼玉県内で撮影されたもので、協会の講師と見られる男性が、「所有権を転換しなければなりません」「天の側に立つことができないならば、私(自分)の先祖のすべてを殺す立場になる」と声を張り上げ、献金を促している場面が収められている。また、信者に対し1冊3千万円で販売されているという、文鮮明氏の言葉をまとめた「聖本」も紹介されるなどした。
11日の会見で協会が説明した内容については、出席した弁護士らは相次いで事実と異なると批判し、最近の裁判事例などを紹介した。
これまでの報道や協会の説明によると、山上容疑者の母親は1998年に協会に入会し、2002年には自己破産した。09年ごろから17年ごろにかけては協会から遠のくが、ここ2、3年は再び協会の行事に参加するようになり、現在は月1回程度の頻度で通っているとされる。協会は11日の会見では、山上容疑者の母親の入会や自己破産は20年余り前のことであり、追跡しきれていないと説明していた。しかし、郷路征記弁護士は、自身が担当する裁判では1999年の献金台帳が証拠として提出されていると指摘。協会としては、損害賠償請求を起こされる可能性があるため、故意に廃棄していなければ、献金の記録は残っているはずだと語った。
また、献金は本人の自由意志だという協会の説明についても、献金台帳には「義務献金」と記録されている献金があると指摘。さらに、先祖供養のための献金は定額制で、先祖をさかのぼって供養すれば、1千万円を超える献金が必要になる例もあると説明した。
山口広弁護士は、協会が信者になりそうな人に対してまず行うのは、財産の把握だと指摘。「信者の財産は丸裸にされている」と言い、11日の会見で、山上容疑者の母親の献金額を把握しきれていないとした協会の説明を否定した。
佐々木大介弁護士は、最近の裁判事例として、2020年2月に東京地裁で判決が出て確定した事例を紹介。この事例で被害があったのは13年から15年の間だった。また、協会は被害者に対し、一部の献金を返金する代わり、残額の返金請求をしないとする合意書にサインさせており、非常に悪質な事例だったと説明。「(協会が)09年以降、コンプライアンスを徹底しているというのは明らかにうそで、社会に対してうそをついている」と批判した。
旧統一協会と政治家の関係
旧統一協会と政治家の関わりについて、渡辺博弁護士は、20年ほど前に調査した際には、100人を超える信者が、国会議員の秘書になっていた時期があったと説明した。こうした信者たちは独自に会議を持ち、各自が秘書を務める国会議員の動向を協会に報告し、指示を仰ぐという実態があったという。また現在も、こうした秘書経験のある信者たちが、地方議員になっている例が少なくないとした。
山口広弁護士は、岸信介元首相と文鮮明氏が握手する写真を、協会が利用してきたと強調。また、第2次安倍政権下では、若手の政治家が名前を出して協会関連のイベントに出席する事例が増えたと指摘。そうした状況を憂い、全国弁連では19年と20年に、すべての国会議員に対し、協会とは関わらないよう求める要望書を出したことを説明した。
紀藤正樹弁護士は、協会の実態は、政治や経済、芸術、学問などさまざまな分野で活動する「コングロマリット宗教団体」であり、一つの宗教法人だけでは説明しきれないと指摘。全国弁連では、そうした実態を可能な限り説明してきたつもりだが、力不足の点もあったと思うと語った。一方で、岸信介元首相が協会本部を訪問した1973年から、すでに50年近くがたっているが、この間に協会は膨大な数の被害者を生み出していると強調。全国弁連のホームページには、被害の集計や裁判事例などを載せているとし、協会の会見内容にだまされないでほしいと訴えた。