聖書が指摘する「罪」を逃げずに、しかも分かりやすく10代の若者に提示した画期的な一冊!
まず言いたい。本書は良書である。職業柄、教会の若者や最近教会に来始めた人向けに適した書籍を常に探している。ビギナーにはやはり『上馬キリスト教会の世界一ゆるい聖書入門』がよいと思うし、本格的に学ぶためには各教会で作成した独自テキストがよいと思う。しかしその中間、またはユース世代にぴったりの書籍(テキスト)となると、皆どれも「帯に短し襷(たすき)に長し」である。
「こんなことなら、自分で書くしかないか」と思う日々が続いていたが、ついに、やっと出会えた最良の書が本書『13歳からのキリスト教』である。副題に「これからの時代、どう生きていけばいいのか 迷いや悩みが人生の支えに変わる本」とある。この丁寧な副題こそ、本書が「13歳からの」と銘打っていることの本質を表している。決して「13歳でも分かる」ではない。「13歳からの」ということは、それ以上の年齢のすべての人に当てはまることになる。そしてこの題名に偽りなし、であった。
従来、この手の本は「神の愛」とか「赦(ゆる)し」という、いわゆるソフトランディングを目指す切り口が多かった。しかし本書は真逆である。「はじめに」で、著者の佐藤優氏は次のように語る。
とくに重要なキリスト教の教えは、罪に関するものです。罪とは犯罪という意味ではありません。人間を悪に引き寄せてしまう、目には見えないけれども、確実に存在する力のことです。どの人にも、1人の例外もなく、罪があるとキリスト教では強調します。(5ページ)
そして全章にわたって、キリスト教が人の罪にどう向き合うかを分かりやすく、そして卑近な例を挙げながら解説している。例えば、第1章は「人生の悩み、キリスト教ならこう解決する」とし、「人間関係の悩み」「仕事や将来の悩み」「恋愛や性の悩み」と続いている。その度ごとに、「人は罪がある」ということが繰り返されている。しかし、その筆致に暗さや嫌味はない。10代の若者が一番悩むであろう「性の悩み」にも真正面からこう語り掛けている。
性欲は、人間の三大欲求の一つであり、それ自体は当たり前の欲求です。性欲がなければ人類は続いていないのですから、性欲を持つこと自体はいけないことではありません。いけないのは、自分の性欲のために、「相手を道具のように扱う」ということです。性欲の解消のため、相手の身体を道具のように利用する態度は、「自分を愛するように、隣人を愛しなさい」という教えに反しています。(51ページ)
そして失恋の痛手で悩む若者に対し、「そんな悲しみのどん底にいるあなたに、旧約聖書の『コヘレトの言葉』を贈りたいと思います」と語り掛け、聖書を引用するのである。
個人的な見解だが、佐藤氏の言い回しはインテリ色が結構強く、時として強烈な嫌味にしか取れないことが今までの著作には見受けられた。しかし、本書に限ってはそんなところがまったくない。年下の未来ある若者に語り掛けるスタンスで、悩み相談からキリスト教の教理や歴史、さらに他宗教との比較の中で、キリスト教の立ち位置などを的確に伝達している。
各章、各節ごとにビギナー向けのバイブルスタディーに援用することも可能であるし、初心者がよく抱くキリスト教に対する質問(例えば「カトリックとプロテスタントの違い」や「牧師と司祭の違い」など)にも目配せを怠っていない。少々乱暴な言い方だが、「分からないことがあれば、この本を読めばすべて解決する」と言ってしまっても、決して言い過ぎではないだろう。
第3章は、新約聖書の4つの福音書の要約である。しかもその歴史的背景や、その後のキリスト教の歴史にもひも付けられて語られているため、その理解の幅は、単に自分で聖書を読むよりも広い。随所に引用される著名な神学者、哲学者の言葉もまた、理解の深みを拡大するのに役立っている。まさに作家にして哲学者、神学者としての佐藤氏の面目躍如といったところである。
第4章は、聖書の名言を紹介している。ここでも「罪」と「聖」の相克が根幹に据えられている。そのため、若者だけではなくすべての年代、あらゆる層に共通する「生きづらさ」からの解放を聖書の言葉に託して解説してくれている。
本書が他のビギナー本と決定的に異なるのは、「情報の洪水」を良しとせず、むしろ厳選された聖書知識や一般教養を、「罪」という裏テーマに沿って見事に佐藤スタイルで紡ぎ上げていることだろう。だからタイトルから受ける印象とは相反して、どんな年齢の人にもしっかりと語り掛けることができる一冊となるのである。罪は普遍的なテーマであり、年齢や性別、世代によってその是非が問われるものではない。「人は神の前に罪人。だからこの世の中は生きづらく、自分勝手な者たちの集合体となってしまう」という主張は、老若男女問わずすべての人が思い当たるだろう。
ぜひ、若者がいる教会に本書を紹介したい。まず、牧師やユースパスターが本書を手に取ってもらいたい。そうしたら、私の言いたいことがすぐ伝わるだろう。百聞は一見に如(し)かず、である。私も早速、自教会で本書を用いて「勝手に宣伝活動」を始めている一人である。
■ 佐藤優著『13歳からのキリスト教』(青春出版社、2021年8月)
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