イスラム教の預言者ムハンマドを冒瀆(ぼうとく)したとして、死刑を言い渡され、無罪を勝ち取るまで8年余り収監されたキリスト教徒のパキスタン人女性アーシア・ビビさん(47)がこのほど、回顧録を出版した。5人の子どもを持つ母親でもあるビビさんは、この約10年の間、国際社会が批判する冒瀆罪の被害者として国際的な注目を集めてきた。
出版に合わせ、現在のビビさんが写る写真も公開された。写真には、回顧録の共著者であるフランス人ジャーナリストのアンヌ・イザベル・トレさんから抱き締められている姿が写っている。その顔には、長年の獄中生活を経て自由の身となった安堵(あんど)のほほ笑みが見える。
英BBC(英語)によると、回顧録のタイトルは「やっと自由に!」(仏語版:Enfin Libre!、英語版:Finally Free!)。回顧録の紹介でビビさんは、次のように述べている。
「皆さんは、報道を通して私の体験をご存じかもしれません。私の苦しみを理解しようと、私の立場に自分の身を置いてみたかもしれません。しかし皆さんは、獄中での私の日常生活やその後の新生活を理解するにはあまりにも程遠い状態です。ですから私が、拙著ですべてを説明します」
「地味で読み書きさえできない農民である私が、この50年弱の人生で、宗教過激主義に対する戦いの世界的シンボルになると、どうして想像することができたでしょうか」
「窓のない狭い独房の中で、いつも考えていました。どうしてパキスタンは、私を追い詰めるのだろうと」
収監中は、鉄の首輪をはめられ、看守たちがナットでそれを締めることもあった。一方、囚人仲間の中にはビビさんに同情してくれる人もいたという。回顧録ではまた、亡命先のカナダで新しい生活に順応しつつある様子も明らかにされている。
回顧録は今週、フランス語で出版されたが、英語版は今年後半に出版される予定だ。
ビビさんの「試練」が始まったのは2009年。同じ農場で働いていたイスラム教徒の女性たちから、キリスト教徒であることを理由に嫌がらせを受けた。女性たちは、キリスト教徒であることを理由に、ビビさんの使った器は「汚れている」と言い、その器で水を飲むことを拒否した。
「私は、私の宗教と、人類の罪のために十字架で死んだイエス・キリストを信じます。あなたたちの預言者ムハンマドは人類を救うために何をしたのですか」。女性たちの嫌がらせに、ビビさんはそう応じた。しかし、この発言がムハンマドを侮辱するものだとして、ビビさんは女性たちから訴えられ、逮捕された。そして翌10年、冒瀆罪で有罪となり死刑判決が言い渡された。
しかしビビさんは無罪を主張し、戦い続けた。そして18年秋、ついに最高裁で逆転無罪を勝ち取る。だがその後も、ビビさんの処刑を求める過激派の抗議は続いた。またこの長い戦いでは、公にビビさんを支持し、冒瀆罪に反対した2人の政治家が暗殺された。
ビビさんは海外亡命を望んだが、反対派の抵抗により、無罪判決後も数カ月にわたってパキスタンに留まることを余儀なくされた。そんな中、昨年5月、とうとうカナダへの亡命が成功。家族との再会を果たした。
回顧録の共著者であるトレさんは、パキスタンで長年働いてきた経験がある。これまでにも、ビビさんの事件に関する著書を2冊出版している。