川崎市多摩区登戸(のぼりと)新町で28日朝、包丁を持った男が、スクールバスを待つ私立カリタス小学校の児童や保護者らを次々と刺し、2人が死亡、17人が重軽傷を負った。現場は登戸駅から近く、通勤や通学で人通りの多い朝の時間帯に起こった突然の惨事に、大きな衝撃が広がった。
カリタス小学校は、カトリックのケベック・カリタス修道女会(カナダ)が設立したカリタス学園が運営する学校で、女子児童を中心に約650人が在籍している。同校など全国805のカトリック学校が加盟する日本カトリック学校連合会の品田典子事務局長は事件を受け、「言葉にできないほどの悲しみと衝撃だった」と語った。
品田氏は「この世界には、人間の力では防ぎようのない不条理な出来事が確かに起こるのだということを、あらためて痛感させられた」と言い、「今も『神の沈黙』の前にぼうぜんと立ち尽くされている関係者の皆様に心を重ね、祈りをささげるとともに、当連合会としても今後何かできることがあれば対応したい」と続けた。
事件は28日午前7時45分ごろ、登戸新町の登戸第一公園近くで発生した。公園の前には、道路を挟んでカリタス学園のスクールバス用のバス停があり、バスに乗り込もうとしていた児童らを、両手に刃渡り30センチの柳刃包丁を持った男が次々と襲った。男は、川崎市麻生区に住む岩崎隆一容疑者(51)で、犯行直後に現場近くで首を切り自殺した。所持していたリュックの中からは、別の包丁2本も見つかった。
カリタス小学校が同日夕に開いた記者会見での説明によると、岩崎容疑者は大きな声を発することなく、終始無言で児童らを襲ったという。そのため児童らは、襲われる直前まで岩崎容疑者の存在に気付かなかったとみられる。警察の調べによると、岩崎容疑者はわずか十数秒の間に19人を刺し自殺したという。
品田氏は事件発生当初、怒りのやり場がないまま困惑していたというが、記者会見を見て「学校の責任者たちが深い悲しみのうちにも、この不条理な出来事を静かに、必死に受け止めている姿が印象的だった」という。また「共に苦しみを担おうとしている保護者の姿や、多くの人たちが夜遅くまで献花に訪れている様子を見て、日本中が悲しみ、祈っていると感じた」と語った。
元毎日新聞記者でジャーナリストの佐々木宏人氏(カトリック荻窪教会会員)は、「カリタスというのは、『愛』を意味するラテン語の言葉。そのような名前を付けた学校の子どもたちに、それと真逆のことが起き、本当に大きなショック」と語った。
「このような常軌を逸した事件は、日本でも火山が噴火するごとく、時として突然起こる。しかし、どのように防げばよいのか。防ぎようがないように感じる。ちょうどドナルド・トランプ大統領の来日中に発生したこともあり、米国であれば、包丁を振り回すのではなく銃の乱射となり、もっと多くの犠牲者が出たのではないかとも想像した」
記者会見の内容を見る限り、佐々木氏は学校側に落ち度はなかったと考えている。「学校の先生方も非常にショックだったと思う。カリタスという名前を付けているだけに、これから児童にどのように話していくのかが気になる。特に影響を受けやすい年代であるため、難しいだろうが、何とかケアをしてあげてほしい」と語った。
また、事件に対しては「絶対に赦(ゆる)せない」という声を聞くが、カトリック信徒としては「犯人に対する赦しをどのように考えていけばよいのか、今後の報道を見ながら、落ち着いて考えていきたいと思う」と語った。