日本のカトリック学校は今、少子化や公立志向の増加という日本社会全体の傾向や、それまで学校を支えてきた司祭・修道者の高齢化や信徒教員の減少など、カトリック学校独自の課題も多く抱えている。そしてさらに、2020年の大学入試改革を含む戦後最大規模といわれる「教育改革」が迫っている。そうした中、カトリック教育界の現場で活躍する人たちを講師としたセミナーが開催された。
セミナーを主催したのは、カトリック社会問題研究所。同研究所は毎年、さまざまなテーマのセミナーを開催しており、今回で55回目。カトリックの学校教育については、過去にも何度か取り上げてきた。
今回のセミナーでは2日間にわたり計5つの講演が行われ、1日目には、日本のカトリック学校・幼稚園800以上が加盟する「日本カトリック学校連合会」の品田典子事務局長と、不登校児のためのフリースクール「聖母の小さな学校」(京都府舞鶴市)の梅澤良子副代表が講演した。
60万人が学ぶ日本のキリスト教主義学校
品田氏によると、日本には2018年度現在、大学18、短大13、小中高259(小50、中96、高113)、幼稚園(認定こども園を含む)515と、計805のカトリック学校・幼稚園が存在する(法人数は220)。在籍数は約20万人に上り、プロテスタントの約40万人と合わせると、日本では実に60万人がキリスト教主義の学校・幼稚園で学んでいる。
しかし、少子化や公立志向の増加など、経営的な課題のほかに、宗教科の教員不足や信徒教員の減少、カトリックの行事の形骸化など、カトリック学校としてのアイデンティティーの継承自体が大きな課題となっている。
「少し前までは『宗教の授業が少なくなってきた』『儀式が形式的になってきた』など、教育内容に関する問題が話題に上がっていました。しかし今は、カトリック学校としての枠組自体が大丈夫か、というような状況です」と危機感をあらわにする。
日本におけるキリスト教学校の歩み
日本におけるキリスト教学校の歩みは、大きく3つの時代に分けられる。キリシタン禁令の高札が撤去された1873(明治6)年から昭和初期にかけては、海外から多くの宣教師が来日し、福音宣教を目的に多くの学校を始めた。次に、終戦後から1970年代にかけては、戦災孤児の救済や教育復興などのために、プロテスタント各教派の伝道局や、カトリックの修道会が多くの学校を設立。戦後日本の教育界に大きな貢献をした。そして21世紀以降の現在がある。
教育改革をいかに追い風にできるか
その上で、カトリック学校の将来を考えるとき、品田氏は教育改革をいかに追い風にできるかが重要だと話す。教育改革をめぐっては、否定的な見解を持つ教育関係者も多い。しかし品田氏は「これまでの知識編重の教育では多様な社会について行けない。自分で考える子どもたちを育てなければ」という問題意識から出たのが、今回の教育改革だと指摘する。「日本の教育の在り方を抜本的に見直す動き」であり、欧米諸国も同じ流れを取っているとし、「おそらく逆戻りすることはない」と言う。
政府は教育改革の基本理念の中で、「自立・協働・創造」の3つの理念の実現に向けた生涯学習社会の構築を掲げている(第2期教育振興基本計画)。品田氏はこれを、しっかりとした「自分軸」を持ちつつ、他者を受容して協働し、創造的な価値を生み出すことだとし、カトリック学校が目指す教育と矛盾しないと考える。特に、自らの揺れることのない軸(自分軸)の形成に対しては、キリスト教の価値観や人間観は大きな助けになるはず。日本のカトリック学校は、あくまでも日本社会の中にある存在であり、その社会全体の流れである教育改革を踏まえながら、それといかに「融合」していけるかを探求していくべきだと語った。
非信徒教員との協力、ビジョンの明文化
信徒教員の減少については、非信徒教員との協力体制の構築が重要だという。品田氏によると、教育現場では信徒教員が非信徒教員からIS(Islamic State=過激派組織「イスラム国」)ならぬ、CS(Christian State)と呼ばれてしまう現実があるという。一方で、非信徒であってもカトリックの考えに理解を示し、適合する感性を持った人は多くいるとし、平等で双方向的な「対話の場」の設置を提案する。
また、カトリック学校としてのビジョンの明文化も重要だという。これまでは、設立母体の修道会のシスターや神父たちが学校にも多く関わっており、明文化せずとも彼らの「生き方」自体が自然とその方向性を示していた。しかしそうした人々の高齢化が進み、非信徒教員が多数を占める中では、カトリック学校としてのアイデンティティーを明確な形で示していくことが重要だという。
品田氏は最後に、昨年12月に上智大学で行われたローマ教皇フランシスコと学生との映像回線を通じた対話イベントで、教皇が語った言葉を取り上げた(関連記事:「他者のために奉仕を」教皇フランシスコ、映像回線を通じて学生らと対話)。学生から「学ぶことの意義」を尋ねられた教皇は、次のように答えたという。
「私たちは3つの言葉を持っています。頭、心、手です。それらを他者のためにより良く使えるよう、バランス良く育成すること、それがカトリック教育の目的です」
■ 第55回カトリック社会問題研究所セミナー:(1)(2)