2015年大晦日、私は3度目のアトスへ向かった。前回、前々回と配信したアトスの降誕祭(クリスマス、1月6、7日)の取材が目的であり、その数日前に入山し、幾つか修道院を回った。冬のアトスは厳しいという前情報があったが、現実その通りであった。今回から数回、冬の厳しいアトスについてお送りしたい。
1月1日元旦、私はウラノーポリに着いた。テッサロニキの早朝到着便を利用すると、ウラノーポリへは9時ごろ到着し、1日1本の9時45分発のアトス行きに乗船できるのである。
夏とはうって変わって、変わり果てた街。人もまばらで、海岸沿いのテラス付きのレストランは、椅子やテーブルもなく閑散としていた。この街は夏の街。冬は数カ月お店が開かないのは当然である。
夏と違うのは、巡礼者の数や身なりもそうだ。人でごった返していた乗船券売り場も数人ほど。いざ船に乗ると、最上階のデッキにはほとんど人がおらず、皆防寒対策をしっかりしており、登山客のようないでたちであることに気付く。皆、2階席の室内でコーヒーなどの温かい飲み物などを飲んで過ごしていた。
ここ数日悪天候が続き、波は少し高く、薄暗い空、また景色もあの夏の鮮やかなブルーとは違った。室内といえども海風が隙間から入り、ずっと腕組みをしながら過ごしていたことを思い出す。修道士たちも乗っていたが、厚着の防寒着を着込み、肩を丸めて2時間半を厳しそうに過ごしていた。
ダフニ港へ到着。港も閑散としており、降りる人も乗る人もまばらである。いつものように首都のカリエを目指した。
薄暗い山道を1時間バスで登るが、これまでに見たことのないアトス山の情景を目の当たりにした。
雲が異様に速く、右から左へと半島の型に沿って、まるで竜のようにウネウネと流れていった。ギリシャの気候は、夏はカラッと乾燥しているが、冬は寒く厳しく湿度が高いのも特徴で、たまに雨粒を感じる不順な天候であった。
しかしながら、アトス山は遠く向こうにくっきりと見え、われわれ巡礼者を迎えてくれているようであった。
次第にその雲は首都カリエの上空に停滞し、街全体が雨粒と共に霧に包まれる。さらに、数メートル先までも見えなくなるくらいに広がり、方向感覚を一瞬見失うかと思うほどの情景になった。
今回の目的としては、降誕祭ではあるが、夏と違った風景も当然収めたく、贅沢(ぜいたく)をいえば、雪が降るのを少し期待をしていたのも確かだ。冬のアトスの気候は、数日悪天候が続き、また数日カラッと晴れ、また悪くなるという繰り返しのようであり、つい2日くらいまでは晴天が続き、穏やかであったそうだ。
悪天候になると、船やバスの運行も止まり、足止めを食うという巡礼者も多くいるようである。父も以前は船が荒波のため、足止めをくらい、下山が1日遅れたということやバスが動かず徒歩で、港まで歩いたという経験があるそうだ。今回も実は、帰りの日に荒波により、下山を1日遅らさざるを得ない状況になったのだ。それは、また追ってお話しさせていただく。
天候不順と一気に来た移動の疲れから、カリエから徒歩10分のところにある、クトゥルムシウー修道院を目指すことにし、今日の宿泊先と決めた。
アルフォンダリキ(受付)で記帳を済ませ、少し天候が落ち着いてきたので、カリエの方へ撮影に戻り、政庁に延泊の許可を頂きに大臣に謁見(えっけん)してきた。彼は、メギスティス・ラヴラ修道院の修道士であり、父とも長年の友人であり、快く執務室に招いてくれ、許可をしてくれた。
2時を過ぎると、次第に空が暗くなり始める。夏とは違い、日が傾くのも早い。景色も色も全く違うこのアトス、これから訪れる情景が楽しみで仕方なかった。明日は、とりあえず、メギスティス・ラヴラ修道院を目指すことにした。
夕方5時には闇夜に包まれた。そして朝の8時ごろ、ようやく日が上がり出す。ほとんどが闇の1日のこの厳しい冬を乗り越えなければならない。修道士たちはどんな気持ちでこの時間を過ごしているのだろうか。
次回予告(2月4日配信予定)
冬のメギスティス・ラヴラ修道院を訪れます。お楽しみに。
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