クリスチャンに対する迫害の事件が、昨年も頻繁に報道された。中東地域での深まる混沌から、中国浙江省での教会破壊まで、2015年は世界で最も迫害されている少数派の一部にとって、苦難の年であった。
米国際宗教自由委員会(USCIRF)のカタリーナ・ラントス・スウェット博士は、「世界的な迫害のレベルは、恐ろしいところまで来ています」と述べた。「政治的指導者、評論家、そして最も重要なことは、正統派クリスチャンの中から国際的な声が上がらないことに、率直に言って衝撃を受けています」
抑圧的な政権や政治団体は全て、「誠実な宗教的信仰、信念、確信によって、他の何よりも」脅かされていると、ラントス・スウェット博士は指摘した。
「信仰的な人々は、独裁体制に対して究極的な挑戦を体現しています。彼らは国家よりもさらに重要なものに対する忠義を持っていることを自由に宣言し、信仰に忠実に従った結果、苦しみを受ける意志を持っていることがしばしばあるからです。これは、独裁体制にとって最も恐ろしいことです」
「そしてもちろん、そのことの対極として、賛同しない人々にもその教義や規則を押し付けようとする、過激派組織『イスラム国』(IS)のような極端な宗教的神学を持つ団体を見ると、その野蛮さは最も深刻な世俗の独裁者に等しく、むしろ上回るほどです。ですから、誠実で本物の信仰や確信を持つ人は、悪意のある世俗の独裁者や、ISのようなさらに邪悪な宗教的迫害者からのひどい迫害の終結を見ることに、彼ら自身を見いだすのです」
このことを念頭に置きながら、昨年1年間に起きた事例の一部を見てみよう。
北朝鮮
北朝鮮は、クリスチャンにとって世界で最も悪い国として常に名が挙がっている。独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の下、政権は国民に対し、組織的な圧政を通して完全な統制を続けている。「Aid to the Church in Need(必要のある教会へ援助する会)」の報告によると、北朝鮮の40~50万人のキリスト教人口のうち、少なくとも5万人が強制収容所での労働を余儀なくされており、多くのキリスト教徒を含む数万人もの市民が、隣国の韓国、中国、モンゴル、ロシアへと脱出している。
昨年の終盤、韓国の宗教団体の使節団が公式訪問として北朝鮮に入国することを許可されてから、北朝鮮が門戸を開いているのではないかという臆測があった。韓国カトリック中央協議会は12月、主要なカトリックの祝祭のため、平壌の長忠大聖堂で礼拝が持たれることを発表した。
しかし同月、カナダのヒョン・スー・リム牧師(60)は、北朝鮮の裁判所で「国家に対する犯罪」で有罪判決を受け、強制労働付きの終身刑に処された。彼は2月に逮捕されたとき、老人ホームや孤児院を支援する人道活動に参加していた。家族は、リム牧師の1997年以降100回以上にわたる北朝鮮への旅行は、決して政治的動機に基づくものではなかったと話す。しかし政権は、その国家の主権を脅かすと見なした宣教師や宗教活動に対して寛容ではなかった。
リム牧師は7月、記者会見の中で、その人道活動が口実で、情報を集めるために北朝鮮を訪問していたことを「自白」した。彼は「神の愛によって」政権を崩壊させるために、集めた情報を国外での説教に用いたと述べた。
リム牧師の状況は、「北朝鮮で長期にわたって起こっていることの象徴」だとラントス・スウェット博士は述べた。「私たちは、今日の世界の人権という観点から見たとき、北朝鮮が最も深いブラックホールの一つだということを認識する必要があります。北朝鮮は宗教を信じる人にとって刑務所のような国家であり、特にキリスト教信仰を持つ人は、不釣り合いなほど激しく国家によって迫害されています」
「これは悲惨で、心痛む状況です」とラントス・スウェット博士。「そして、世界は歴史上の弱い努力からステップアップし、(北朝鮮の)暗いところに最も明るい光を照らし出し、さらなる強い圧力を北朝鮮にかける必要があります」
北朝鮮は以前、韓国系米国人のケネス・ベ宣教師を15年の強制労働刑に処したが、2014年に解放した。米国人のジェフリー・ファウル氏は、清津市北部の町にある外国人船員向けのホテルに聖書を置いていったとして逮捕、告発された。彼は10月に解放された。
中国
中国は教会に対する激しい破壊活動で告発されており、最も激しいのは東海岸の浙江省で、2007年以降1700の教会が破壊されたり十字架を撤去されたりしている。
この破壊活動は強烈になり、活動家は習近平(シー・チンピン)国家主席が市民社会のさまざまな分野、特に宗教について強硬路線を取ったことが原因だとしている。中国は一昨年、独自の神学を導入する計画を発表し、習主席は5月、国外からの影響を退けるよう呼び掛けた。「私たちは、宗教的な物事を法にのっとって取り扱い、私たち自身と調和の取れた宗教団体を運営するための独立の原理を保持しなければなりません」と首脳級会議で語った。「宗教を社会主義社会に取り込むために、積極的な努力がなされるべきです」
昨年あった特に懸念すべき事項は、人権派弁護士に対する抑圧だ。習主席の就任後2年間で拘束されたり行方不明になっている人権活動家の数は、それ以前の20年間より多い。彼らの多くは、破壊活動の標的となった教会の代理人として働いてきた。
浙江省で拘束されたうちの少なくとも10人は、違法な拷問が横行している、いわゆる「黒監獄」に収容されている。その中にはクリスチャン弁護士で、8月に逮捕されて以来行方不明となっている張凱(チャン・カイ)氏も含まれている。彼は十字架の撤去命令に対して戦う100以上の教会の代理人を務め、彼らの権利を守るために、信教の自由を保障する中国の憲法をどのように利用するかについての本『十字架活動家ハンドブック』を著した。
逮捕を目前にして張氏は、「私は心に決めました。彼らができる最大のことは、私を投獄することです。でも、もし私が黙っているのなら、私は全生涯においてそれを後悔するでしょう」と友人に語ったという。
中東
ISがイラクとシリアでの統治を強めるに当たり、残酷な迫害の様子がさらに多く伝わってきた。イラク北部の町を制圧してから1年が経ち、モスルを脱出せざるを得なくなった司祭が9月、中東地域でクリスチャンの苦難が続くことを警告した。「世界は、イラクからクリスチャンを失いつつあります。それは人道的な遺産の大きな損失です」とベーナム・ベノカ神父は語った。
「私たちは全てのものを置いてきました。持っていた全てのものを失いました」
200人以上のアッシリア人クリスチャンが2月、シリア北部のハブール川地域の村からISの戦闘員により誘拐された。現在は135人以上がすでに解放されているが、ISは10月、人質3人を処刑する動画を投稿し、多額の身代金が支払われなければ、まだ拘束している人質を殺害すると脅迫した。
イラクとシリアでのISによるクリスチャンを対象とした大虐殺に関しては、多数の呼び掛けがあり、最近では米国際宗教自由委員会(USCIRF)のものがある。USCIRFは12月7日、キリスト教徒、ヤジディ教徒、イスラム教シーア派、トルクメン人、シャバク人を含む、ISに組織的に迫害されているグループは、大虐殺の犠牲者として認識されるべきだと述べた。
「大虐殺の証左は、全体的にしろ、部分的にしろ、国家的、人種的、民族的、宗教的グループを破壊しようとする意志にあります」とロバート・ジョージ副委員長。「イラクとシリア領内のすでに制圧した町で、極端な神学に従わない宗教的グループを破壊するというISの意志は、その野蛮な行いだけでなく、そのプロパガンダの中にも明白です」
ラントス・スウェット博士も、ジョージ氏の発言を繰り返した。「少数派のクリスチャンコミュニティーに対する、真に存在する脅威に対して、あつい関心が寄せられなければなりません」
「ISは、クリスチャンのコミュニティーに対し、最も恐ろしく野蛮な行いをしました。殺人、強姦、拷問、奴隷化、死の恐怖をもっての強制改宗。彼らは、その自称するイスラム国からすべてのクリスチャンを改宗させるか、殺すか、追い出すかしたいということを明白にしました。なので、私たちは強く、そこには大虐殺の事例があると感じます」
インドネシア
インドネシアのアチェ州で2006年以降、少数派の信仰への抑圧の一環として1000カ所の教会が閉鎖されていることが11月、明らかになった。10年前に施行されたこの法律は、おそらくは宗教間の調和を図るため、実質的にはイスラム教徒以外の宗教に対し、礼拝のための建物を建築する前に、その宗教以外の信仰を持つ地域住民60人以上の署名と地方当局からの許可を義務付けている。
ロイター通信は10月、イスラム急進派組織「イスラム防衛者戦線」のメンバーを含むイスラム教徒の住人が教会の閉鎖を要求したことを受け、数カ所の教会が破壊されたことを報じた。「ゲイトストーン・インスティテュート」の報告によると、シャリーア法により統治されているアチェ州では、イスラム教徒数百人が教会に放火し、およそ8000人のキリスト教徒が暴力によってその地域から追放されている。
ある地域の警察は、教会を破壊するのに大槌(おおつち)や斧(おの)を使用した。
メキシコ
宗教的差別によるトラブル発生のただ中で11月、殺害されたと見られる司祭の遺体がメキシコで発見された。2013年以降11人目となる。エラスモ神父は、メキシコ南西部のプエブラ州クユアコの司祭だった。彼の遺体は、行方不明となったことが報じられてから数日後、さびれた田舎道の路上で発見され、やけどの跡と頭部外傷の跡があった。
世界キリスト教連帯(CSW)は、メキシコ政府に対し、憲法上の自由を保障していないこと、また宗教団体に対する暴力の加害者の責任を問わなかったことを非難した。2014年、メキシコで殺害されたカトリックの司祭や指導者の数は、他のどの国よりも多く、CSWは犯罪的暴力が「信教の自由に対し、凍り付くような影響」をもたらしていると述べた。
メキシコの多くの地域では、犯罪グループの数が統計上では増加しており、多くのカトリックの司祭が彼らに対して公に語っている。CSWによると、これらのグループは「教会を略奪しやすい標的だと考え、またマネーロンダリング(資金洗浄)の手段と考えているほか、教会指導者が彼らの影響力や目的に対して脅威だと考える」ために聖職者を誘拐し、殺害している。
2010年からメキシコ国内での司祭への襲撃を記録しているカトリック・マルチメディアセンター(CCM)は、司祭や教会指導者が、カトリック教会を地域レベルで、また国家レベルで脅かそうという特定の意図によって標的とされていると語った。CCMは、520人の司祭が現在、略奪行為に遭っていたり、ギャングから殺害予告を受けたりしていることを発表した。