1995年に美術宣教を目指して創立されたバイブル&アートミニストリーズ(B&A)の20周年記念美術展「平和をつくる」が1日から、東京都目黒区美術館区民ギャラリーで開催されている。6日まで。初日から100人以上の来場者が訪れた。会場は昨年の倍のスペースが確保され、代表の町田俊之氏が「まるでデパートのよう」と表現するように、油彩画、日本画、水彩画などの絵画や、布、ガラス、クレイなどで製作された58人の作家による作品が展示されており、見応え十分だ。
昨年のテーマ「平和を想う」に続き、「平和をつくる」とのテーマで開催された今回の美術展は、昨年以上に各作家の「平和への想いと願い」が強く表現された作品が並べられている。テロが起こったパリへの祈りをささげるようなトリコロールカラーのブリザーブドフラワーや、国会議事堂前で安保法制反対デモを行う若い人々を描いたアクリル画など、現実の社会問題にインスピレーションを受けた作品が印象的だ。また、それとは対照的に思えるような、雪の残る浜辺が描かれた穏やかな日本画などを見ていると、その作品のコントラストが、自然と見る人の心に「平和とは」と語り掛けてくるように感じられる。
「平和をつくる」というテーマの通り、来場者参加型アートも多く展示されている。広島に落とされた原子爆弾「リトルボーイ」、長崎に落とされた「ファットマン」を実寸大で表した段ボール作品に、昨年は「人」という字を来場者が書き込んでいったが、今年はそれに重ねて花を描き込む来場者の姿が見られた。昨年、黄色い糸と柔軟剤シートで新作のインスタレーションアートを製作したChiyoko Myoseさんは、今年は同じ素材を使用して、来場者が作品に糸を結んでいくインタラクティブ・インスタレーションアートを展示している。
過去の美術展開催の際にも、会場で音楽の生演奏が行われるなど、特別ゲストが用意されていることがあったが、今回は初めて、時代を超えた「絵画」のゲストが会場に招かれていた。ドイツの版画家・彫刻家ケーテ・コルヴィッツ(1867~1945)の「母たち」(フィリア美術館所蔵)、「鋤を引く人たち」(秀友画廊所蔵)の2点だ。20世紀前半のドイツを代表する女性芸術家の一人であるコルヴィッツは、第1次大戦で息子を、第2次大戦では孫を失い、ナチスによって作品発表の機会を奪われるなど不遇の晩年を過ごしたが、苦悩と真摯(しんし)に向き合いつつ創作活動に励み、希望を紡ぎ続けた人物だ。戦後70年を迎えた今年は、コルヴィッツ没後70年にもあたるが、今年夏にB&Aのリトリートで訪れたフィリア美術館(山梨県北杜市)などの協力を得て、この記念展示が実現した。「美術展に絵画作品のゲストを迎えられたことは、一つの大きな進歩だと思う」と、町田氏もその喜びを話す。
20年の節目を迎えたこの美術展初日に合わせて、B&A初となる総会が、目黒区中小企業センター会議室(東京都目黒区)で行われ、約50人の参加者と共に、これまでの歩みを振り返り、活動目的を再確認した。クリスチャン美術の在り方を探求しつつ、クリスチャンによる美術活動を通して、神の存在、イエス・キリストを証ししてきたB&Aは、98年に福音派のキリスト教団体としては国内初となる、美術をテーマにしたシンポジウムを開き、2008年には日韓交流の展覧会を韓国大使館で開催。東日本大震災後には、チャリティー展やアートセラピーを通しての支援活動を展開するなど、多岐にわたる活動を行ってきた。
また、町田氏が示した「この時代へ、この社会へ」というこれからの活動の方向性が、会員全体で共有された。町田氏は、「神と美術のつながりはどこにあるのか、という問いからこの働きは始まり、その問いを抱き続けてきた。しかし、神と美術との関係が分かっても、それが最終目標ではないということを教えられ、それをもっていかに証しするかがもう一つの目標であることに気付いた」と話す。神と美術との関係を追い求める歩みから、この時代とこの社会に対してどう証ししていくかという問いへと、軸足が変わってきたと言い、「これからは、この新しい問いをもって、前に進んでいきたい」と呼び掛けた。
B&Aは、時代と社会から遊離するのではなく、密接な関わりを持ちながら働きを進めていこうと、16年度以降に行う具体的な活動を計画している。毎年の展覧会や、聖書の言葉を描くワークショップなどの通常の活動に加え、アーティストとして献身していくための学び、クリスチャンアーティストのための聖会を開催するなど、後継者を生み出していくための若い世代への発信、他のグループとの積極的な交流を図っていく予定だという。
開場は午前10時から午後6時まで。ただし、最終日は午後4時閉場。入場は無料。美術展やB&Aの活動に関する問い合わせは、B&A(電話:048・837・8583、メール:[email protected])。