東京都心がイエス・キリストの福音で満たされるようにと、5年前から教会開拓を始め、さまざまな活動を行っている「グレースシティチャーチ東京」。今年の10月は芸術月間として、地域に根ざした芸術活動を行う「コミュニティーアーツ東京」と協力し、体験型のアートフェスタ「HEART OF THE ARTS」を10月17日、浜離宮朝日小ホール(東京都中央区)で開催した。集まった人たちは、国内外のアーティストによるパフォーマンスや作品展示を楽しむだけではなく、アーティストを交えた小グループでのディスカッションやワークショップを通して「アートの心」を分かち合い、芸術が人々の人生に、また教会や教会開拓にどうつながっているか考える時間を持った。
アートの心とは何か。グレースシティチャーチ東京の福田真理(まこと)牧師は、「クリスチャンの人生は芸術活動」であり、「一人一人が自分の人生を美しく、真実なものとして作り上げていくことができる」と言う。自身の芸術的センスについて、「歌を歌わせると音を外し、絵を描かせると色のバランスが少しおかしい」と笑いながら話す福田牧師だが、説教することについては多少の賜物があるかもしれないと付け足し、「全ての人が、自分を人生のアーティストだと理解するならば、互いを受け入れ合い、それぞれの賜物を用いて互いに仕え合うことができる」と語った。そして、このことこそが「アートの心」であると伝えた。
日本では、秋は芸術の季節だといわれるが、芸術と聞いても、美術や音楽などは思い浮かぶものの、抽象的でぼんやりとしたイメージしか浮かばないという人も多いかもしれない。このイベントが特徴的なのは、芸術がいかに多様であるか、どれだけ人々の日々の生活や人生そのものに具体的に関わっているかを明確にしているところだ。集まったアーティストは、ミュージシャンだけを見ても、クラシックやジャズと非常にジャンルの幅が広い。ピアニスト、オルガニスト、サックス奏者、ドラマー、バイオリニスト、歌手や作曲家もいる。美術分野では、画家にはじまり、グラフィックデザイナーやビジュアルアーティスト、イラストレーターに写真家。さらに、俳優や女優、ファッションデザイナーなども。
各アーティストによるパフォーマンスとプレゼンテーションが行われた後、参加者はそれぞれが希望する8つのスモールグループに分かれて、10人ほどでディスカッションとワークショップを行った。ニューヨークのリディーマー教会から短期宣教で応援に駆け付けたジャズ歌手のロリータ・ジャクソンさん、クラッシックピアニストの田中友樹子さん、ブロードウェイの男優ショーン・デービスさんに加え、サックス奏者のサックス・スティーブさん、女優の長谷川葉生さんらが、グループのリーダーを務めた。
ファッションデザイナーの山上桂さんがリーダーを務めるグループのテーマは、「神様は、どこにいる?」。服を作る型紙に注目し、普段あまり意識することのない、素材の世界から神について考えた。「自分が何か物を作るとき、細かいところまで見えていないことが多い。神様は常にどこにも目を配っていると、聖書には書かれているが、本当なのだろうか」というある参加者の素直な疑問に、グループ全体から活発な意見が出された。「人間的な視点で見ると、理解できないことはたくさんある。でも、神様だからできる。神様が全ての物の細部にまで目を向けているのは本当だと感じることは多い」
「詩と文:言葉の芸術」をテーマに集まったグループは、留学生として東京大学大学院で日本文化を学んでいるクリストファー・ボーンさんがリーダーを務めた。中国の『歌経』や、日本の『古今和歌集』に書かれた文を通して、アジアの人々が言葉というものをどのようなものとして捉えていたかを理解するとともに、今まで出会った文や書籍で心に残っているものはあるか、詩と歌の違いは何だろうかなど、参加者一人一人が感じることを分かち合った。若い時に山岳小説家の新田次郎が好きだったと話したある参加者は、作品に登場する先生からキリストの犠牲がモチーフになっているように感じられたと、強く心ひかれた理由を分かち合っていた。
会場の外に出て行き、自分が「おもしろい」と思ったものを、自由にデジタルカメラやスマートフォンで写真に収めてくるというワークショップでは、撮影したものをすぐにプリントアウトしてフォトレビューを行った。写真家の小田浩之さんが、「一枚一枚に作家の視点、主張が表れていておもしろい」と総評し、「写真にルールはない。角度を変えることはもちろん、必ず何かに焦点を当てて撮らなくてはいけないということもないので、反射や空白を生かすことができる」とアドバイスした。
また、バイブル・アンド・アート・ミニストリーズ(B&A)を主宰する町田俊之牧師が、ワークショップ「みことばを描く」を開き、参加者はオイルパステルを用いて、与えられた聖書の言葉を心の中でイメージして描いた。具体的な形が描かれていなくとも、色や線のニュアンスから、温度や味、時間などを感じることができることを知った参加者は、まず「りんごの味」を描く練習から始め、目に見えない形のないものを「色の付いた空気」のイメージで描き出すことを学んだ。
グレースシティチャーチ東京のスタッフとして、このイベントの準備を進めてきた倉智崇司さんは、最後のあいさつで「人間、芸術、神様はつながっているということを実感した」とコメント。「みなさんは、いかがだったでしょうか」という倉智さんの問い掛けに、会場全体が温かい拍手で応じる中で「HEART OF THE ARTS」は幕を閉じた。このイベントを統括した同教会スタッフのサックス知子さんとコミュニティーアーツ東京のロジャー・ラウザーさんは、来年もぜひ開催したいと話している。