クリスチャン詩画作家・星野富弘さんの世界を、多くの人に知ってもらおうと、さまざまな形のアプローチがされている。クリスチャンアーティストたちによるコンサートやCD制作もその一つ。今回は新たな試みとして、カフェ形式のイベント「Colors of Tomihiro Cafe」が12日、神奈川県川崎市の老舗レストラン「ビストロポップコーン」で開催された。初秋の昼下がり、参加者はゆっくりとお茶とケーキを食べながら、「言の葉アーティスト」の渡辺祥子さんによる詩の朗読、クリスチャン・シンガーソングライターの Migiwa さんと、同じくクリスチャンアーティストの佐々木静さん・潤さんの姉弟ユニット「Rainbow Music Japan」による歌とピアノの演奏を味わった。
イベント直前には、東日本を記録的な大雨が襲い、渡辺さんが住む仙台市も大きな影響を受けた。前日の朝、自宅から仙台駅まで、いつもとは違う道を通ってきたという渡辺さん。スムーズに駅までたどり着き、ほっとして新幹線の中でニュースを見ていると、自分がたった今通ってきた道が、唯一駅に向かう道で、大きな被害もなく、渋滞もなかった道だったことを知り、「いつもの道を通ってきていたら、たどり着かなったかもしれません。何か大きな『力』に守られているのを感じました」と話した。
渡辺さんによる静かな詩の朗読と、潤さんが奏でるピアノの即興演奏が始まると、参加者は手を止め、その詩の世界とピアノの音色に聞き入った。潤さんのピアノは、まさしく「即興」。語られる詩からイメージされるものを、その時のインスピレーションによって音にする。本人いわく「二度と同じものが弾けないので、リハーサルをしても同じものが本番に聞こえるとは限らない」という。
「かつて、三浦綾子さんは、富弘さんの詩画を『決して大声で叫んでいるわけではないが、大声で叫ぶ以上に訴える力がある』と話した」と渡辺さんは話す。それを体感するように、星野さんの詩の朗読とピアノの音を聞いていると、耳で味わうだけではなく、心の奥底から詩を味わっている感覚になるから不思議だ。
シンガーソングライターの Migiwa さんは、以前、姉が星野さんのカレンダーなどを製作する会社に勤めていたことに触れ、「年末になると、カレンダーの発送などで、姉の帰りはいつも遅かった。それだけ、富弘さんはみんなに愛されている作家さんなのだと思っていました。私はクリスチャンホームで育ったのですが、富弘さんの詩画はいつも家の中のどこかにありました。とても身近な存在のようで、いざ、富弘さんの詩に自分が曲を付けて歌うことになると、とても緊張しました」と話した。
終盤には、星野さんの詩に曲を付けた「愛されている」を、静さんと Migiwa さんが披露。大きな感動の中、涙ぐむ人の姿もあった。
演奏の後、潤さんは「素敵な空間で歌と言葉、おいしいケーキをいただいて、フルコースをいただいた後のよう」と振り返った。また、静さんは「目をつぶると広がる富弘さんの世界を味わうことができた」と話した。
同県相模原市から訪れたという男性会社員(20代)は、「自分は、クリスチャンではないが、何度か Colors of Tomihiro Hoshino のコンサートを訪れたり、CDを家で聞いたりしている。今、さまざまな困難な状況の中にあるが、今日は富弘さんの詩画の世界を堪能して、『このままの自分でよいのだ』と思うことができた」と話した。また、「朗読や歌を聞いていると、富弘さんと同じ世界にいる気がして、家族のような気持ちになる」と語る男性(70代)もいた。
カフェを主催した富弘美術館を囲む会東京・神奈川支部の大嶋英知さんは、「このようなカフェ形式のライブの次回のスケジュールは未定だが、今後も順次開催していきたい」と話す。カフェ形式ではないが、星野さんの詩をクリスチャンアーティストが歌うコンサートは、年内では11月28日〜29日に長野県池田町の創造館で予定されており、12月26日に行われるいわき市民クリスマスにも出演が決まっている。「Colors of Tomihiro Hoshino」を聞くことのできる絶好の機会となりそうだ。詳しくは、同会東京・神奈川支部(電話:044・833・2552)まで。