健全な夫婦関係の土台は、実は親との関係で培われた価値観の縛りからの解放にあると気付かされました。縛りが本人の潜在意識の深くに劣等感、罪悪感、時には否定感となって表れています。その劣等感、罪悪感、否定感というブラックな感情と向き合う時に、その人本来の愛や生き方の基準が見えてくるのです。
それに気付いた人たちは、短期間に自分らしさを取り戻し、健全な自己愛で自分を受け入れ、人を受け入れるので、自然と親とも自律の関係が生まれ、夫婦の関係も回復します。それも、気付きと同時に迅速な変化が始まるのです。
1. 夫婦関係の問題のほとんどは、親からくる縛りです。
私は現在、家族と経営の再生コンサルタントを営む株式会社家族授業の代表です。なぜそのような変わった仕事を始めたかといいますと、若い頃から、マインドコントロールに縛られた青年を救うために、悩める家族の間に飛び込んで、青年の解放と家族の回復に取り組んできました。また、登校拒否で引きこもる青年や更生を願う人々とともに働き、ある時はともに暮らして支援してきました。経営コンサルタントになって4年、中小企業の経営者の真の課題は、夫婦や親子問題でした。経営の前に家族問題を扱うことが多かったのです。
そのようなわけで、これまで千人近くの家族に接し、家族をテーマにして長年カウンセリングや研究を続けてきました。その結果、夫婦関係の困難さは、実は親子関係の中に介在していることが分かってきました。多くの家族を見ていく中で、この事実と親からの影響力の強さに昨今驚いています。
かくいう私も、長年親孝行が「気になって」いました。「気になる」その背後に、幼い時から受けた親からの縛りが、罪悪感となって表れていることに気付きました。また、他者と比べてがんばる性格の背後で、親からくる劣等感により、価値観のゆがみが生じていることに気付きました。
2. 実は自分を愛することが親孝行です。
「実は、父母との健全な関係回復が夫婦関係の回復につながる」。この事実に気付かされました。この4年間、文化人類学者や潜在意識研究家、組織論者、カウンセラーたちと論議する中で、次第に明らかになってきたのです。
その2つの関係回復は、行動的に親孝行しなさいという物理的なものでなく、劣等感、罪悪感、否定感の気付きと本人のアイデンティティの回復によって同時に起こるのです。相手の存在を自由にし、相手との和解の時が与えられます。
そんな簡単に変化するのかという反論が聞こえてきそうです。ここに、児童養護施設で働く32歳の青年の実話があります。
幼いころ、仕事に多忙な父に「愛して欲しかった。抱きしめて欲しかった。もっと遊んで欲しかった」。その欠乏感から、自分は子どもに対して必死に愛情をかけようとしていたようです。
しかし、それは、条件付けの愛情だと気付きました。子どもの評価=自分の評価とし、自分の心の寂しさを子どもによって埋めていたことに気付き、涙が止まりませんでした。その時、子どもに対して、存在してくれるだけで感謝と思えるようになりました。
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、愛おしい気持ちが溢れ出てきました。自分の親父の愛も感じ、自分の生き方が大きく変わりました。妻に対して腹立つこともなくなり、感謝が生まれてきました。息子の異常なかんしゃくがなくなり、爪噛みが治り、爪が生えてきました。また、妻から「あなた変わったね。ありがとう」と言ってくれるようになりました。
先日両親と兄と食事した際に、父に対しての思い、自分が誤解していた心の状況を伝え、自分も息子に同じようにしていたことを伝えました。私は、自然に涙があふれました。父は本当に優しい笑顔で私を見てくれていました。父の柔和な顔を見て、父もまっすぐで、素直な人だったんだということにも初めて気付かされました。その場は涙、涙で大きな親子の素敵な和解の時になりました。
3. 父母から自律して、夫婦で新しい家族文化をつくるのです。
聖書の創世記2章24節に「男はその父母を離れ、妻と結び合い、ふたりは一体となるのである」とあります。ここで「父母を離れ」とは単に物理的、経済的自立だけではなく、自分たちのあるがままの生き方と、家族としての独立した文化の創造を意味するのではないでしょうか。「男は」と書いていますので、家族における男の責任は重大です。
潜在意識にある父母の価値観の縛りに気付いて、神とともに新たに自分を生きるのです。神とともにというのは、他者にも金にも環境にも依存しない、ぶれない自分ということです。親の価値観から解放されていないと、夫婦の価値観はすれ違い、自分の価値観で相手を否定してしまいかねないのです。
自分が自律的に生きていないと、コミュニケーションが通じなくてお互いの間に葛藤が生じます。ここでいう自律とは、あらゆる環境での葛藤を他責にすることなく自分の気付きに変える、命の律動したぶれない生き方を指します。「妻と結び合い」とは、お互いの存在を尊重し、信頼し合う中で起こるのです。
牧師で文化人類学者の三好明久先生によると、夫婦は初期の段階で、お互いの家族関係の歴史についてライフサイクルグラフを用いて語り合うといいそうです。お互いの父母との関係や兄妹関係が、思い出や辛いことの内容によって理解できるのです。
それを一切、批判を入れずに受け入れます。そして、いったんそれらをリセットし、自分たちの新しい家族文化をつくるのです。お互いの考え方、生活習慣、食事の内容、マナーなどについて、新たにどんな文化を築いていくかを忌憚(きたん)なく正直に語り合います。それが、本当に重要なのです。私は、この知恵を新たな夫婦になるカップルにもお伝えできればと思っています。
4. 自分を愛すると、先祖からの縛りのような価値観から解放されます。
親も、実はその親から価値観の縛りを受けており、家系からの縛りは連綿と続いています。その縛りに影響され、神が望むような自分らしさを失い、本来の生き方からずれている場合があります。聖書は、「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」と書いています。すなわち、自分を自分らしく健全に愛した分だけ人を愛せるということです。
神は何よりも、私たちが自分らしく生き、自分を愛することを望んでおられます。そうする時にこそ、先祖からのゆがんだ価値観から解放され、自分も家族も、そしてその後に続く子孫も新しい家族文化をつくっていく祝福の世界が広がるのです。
いつまでも他責にするのではなく、神に愛されるオンリーワンとしての自分をありのままに生きればいいのです。そうすれば、縛られた価値観に気付き、一つ一つ手放していくことができます。そして、神の望むように、自分を愛し、人をありのままで愛する自律的な生き方が始まるのです。
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田路俊章(たじ・としあき)
1953年生まれ、大阪育ち。オーサカ・ユニーク株式会社前社長、ラジオ大阪「VIPアワー」パーソナリティー(2005年11月~07年3月)、経済産業省登録コンサルタント、CBMC理事(2000年、国家朝餐祈祷会を発起)、VIP関西発起人兼元副会長。2015年2月、経営と家族のコンサルタントとして株式会社家族授業を設立。