「お父さん」と聞いて、何を連想するのだろうか? 何年も前にテレビCMで「亭主元気で、留守がいい」という言葉がはやり、これを世間が愉快に思って受け入れていること自体、悲しく思ったものだ。一体、父とはどんな存在なのだろうか。父との関係はどうあるべきなのだろうか。
昨今の時代が抱える社会の諸問題は、家庭に原因があり、家庭の中でも父親の存在意義が薄くなっているためである。父親の権威を回復させ、家庭を確立させ、ひいては社会を変えていこう――こうしたビジョンのもとに発足した「父の学校」という運動がある。
1995年に韓国の教会で始まった「父の学校」運動は、現在全世界61カ国に広がり、米国でも展開されている。ニューヨークの都心マンハッタンでは、2月13日から15日まで日米合同教会を会場に、今回で3期目となる「父の学校」が開催された。
ニューヨークの「父の学校」で中心的な働きをしているのが、ニューヨーク及びニュージャージー初代日本語教会の曺基七(チョウ・キチル)牧師だ。曺牧師は、「現在、日本の家庭の多くが問題を抱えている。家庭の問題は父の問題と認識することで、家庭の回復が起こり始め、家庭が変わることによって地域が変わり、国が変わる。まず父が立ち上がらなければならないのです」と話す。
ニューヨーク「父の学校」では、東海岸の日本語教会の牧師たちが、教団や教派を超えて協力し合い、連日メッセージを伝える。また過去の参加者たちは奉仕者として仕え、このプログラムを支える。奉仕者は、参加者に仕え、参加者の心が神によって解放されるよう祈り支えることによって、自分たちも神の御業を見ることができ、恵みを受けてさらに成長できるのだという。一人ひとりの参加者が、自身の父親との関係が癒やされ回復し、「最初は固い表情の方も、プログラムが進むにつれ、聖霊の赦しと癒やしを体験し、どんどん心が開いていくのです」と曺牧師は言う。
「自分が夫として、父として、家族を祝福する権威を与えられていることに気づかされました」。そう話すのは、2012年に行われたニューヨーク「父の学校」第1期に参加し、今回は奉仕者として参加した初代日本語教会信徒の大清水良裕さん。「父の学校」に参加して、実父へ感謝の気持ちを手紙にして送ることができたという。今では、「父との関係で大きな感謝が生まれなければ、天の父への感謝も本当には生まれてきません」と話す。
また、実父だけでなく、妻へも思いを手紙にして渡すことができた。今回は奉仕者として参加したが、「参加者それぞれが、主によって大きく変えられるようにと祈る思いも強く湧いてきました。天の父との関係も、今まではただあがめるだけの存在だったものから、権威と力を求めるものと、それを与えてくださる存在へと変わってきました」と語る。
グリニッチ福音キリスト教会所属で、今回信徒リーダーとして奉仕に参加した平野博文さんは、「この『父の学校』は、自分の夫婦間の関係を大きく方向転換させる分岐点となりました。妻と破局寸前だった関係が、神を中心とした関係に改善されて、会話が復活し、さらに互いをさらけ出して、赦し合うことができるようになったのです」と話す。
自分の考えを主張するのではなく、相手を受け止めることができるようになった。さらに、人生を変えた神の素晴らしさを伝えたいという思いも与えられるようになったという。
ニューヨーク「父の学校」第1期生の平野さん。参加後すぐに、何年も遠のいていたという義父を訪れ謝罪。義父には「自己欲と自己中心から一言で説明できないほどの迷惑をかけてきた」という。その年の11月、「あの博文さんをここまで変える神がいるのであれば、私もその神を信じたい」と、義父は89歳で信仰告白をして受洗。昨年91歳で亡くなるまで、聖書の学びと牧師との交わりを続けたという。
平野さんは、「問題のない男性、家庭、夫婦などはありません」と言い切る。社会的には成功していても、家庭の問題を抱えていた男性が、父の学校で心のこもった講義を受け、赤裸々で正直な証を聞いて勇気を得、自分の問題を分かち合い始める。幼い時に自分の父親から受けた傷を封じ込めたまま成人した男性が、心を解放して自分の父親を赦し、自分の子どもに同じ過ちを犯してはならないと学ぶ。「これこそが、『父の学校』を通して参加者が得ることのできる素晴らしい神様からの恵みなのです」と平野さんは言う。
「父が生きれば、家庭が生きる。家庭が生きれば、教会が生きる。教会が生きれば、社会が生きる。父との関係の回復、神との関係の回復によって生まれ変わった父親や男性たちは、教会に神の生きる命を注ぐことができます。そしてその教会は、コミュニティーに愛を広げていくことができるようになるのです。これは事実です。そのためにも多くの父親と男性に父の学校を知ってもらいたいのです」と熱く語る。
次回のニューヨーク「父の学校」は、来年2月か3月に開催される予定。詳しい日程はまだ決まっていない。第3期となった今回の反省も含め、祈りながら準備をしていきたいと曺牧師は言う。
第3期目は日英両言語で行われ、これは米国で開催するにあたってとても良かったという。今後は未信者向けのプログラムを用意するなど、教会につながっていくよう工夫したいと、奉仕者たちは意欲を見せる。
課題はたくさんあるというが、このような生き生きとした「お父さん」たちの声を聞き、キリストのようにへりくだって人々に仕える姿勢を見るだけで、心が癒やされ励まされる。父親が変わり、家庭が変わり、教会が変わる。そして社会が変えられていくことを、陰なる祈りをもって期待したい。