いつも油断せずに
ルカの福音書21章20~38節
[1]序
今回の箇所21章20~38節の全体的な流れを、五つの部分に分け見通し粗筋を確かめ、次にこの全体の流れを大切にしながら、34~36節に集中し終末についての教えにかかわる、主イエスの実際的な勧めに心を傾けます。
[2]「これらのことが起こり始めたなら」(20節~38節)
(1)20~24節、エルサレムが軍隊に包囲されたなら。この部分でルカが描いていることは、
①主イエスご自身の元々の教え
②紀元66~70年、ローマ軍、エルサレムを実際に包囲、陥落させた出来事
③初代教会が主イエスの教えと実際の出来事から教えられ導かれたこと
この三つが一つとなっていると見てよいでしょう。
(2)25~28節、「日と月と星には、前兆が現れ」(25節)と示されているように、宇宙的な規模のしるしについて。人々はこれらのしるしに接し混乱に陥ります。しかし主イエスの弟子たちは、人の子(主イエスご自身)の来臨を覚えて励ましを受けるのです。主イエスの再臨こそ、彼らの贖いが最終的に完成する時なのです。
(3)29~33節、最終的な出来事をめぐることごとの確かさ。ここに見る主イエスのたとえの中心は、「神の国は近い」(31節)事実と主イエスのことばの確かさ、不変性についてです。
(4)34~36節、主イエスの終末についての教えの結びとして、実際的な勧め。油断なく、祈り続けるようにと。
(5)37~38節、主イエスの公生涯の結び。日中は宮で教え、夜はオリーブ山で過ごす。19章47、48節、22章39節参照。
[3]「いつも油断せずに祈っていなさい」(34~36節)
(1)実際的な勧め。終末についての単なる教え・知識ではなく、それに基づく生活・生き方(義なる務め・義務)が課題です。
この点を聖書全体で繰り返し強調しています。たとえば、「深酒」のかかわりでは、ルカ12章45節、マタイ24章49節、エペソ5章18節、Ⅰテサロニケ5章7節などで明らかに教えています。
「・・・私たちが明るい目と思慮深い澄んだ精神をもち、目の前で起こっていることが何を目ざしているのかを、見きわめることを要求する。そうでないと、人間は、野卑な享楽と心をむしばむ思いわずらいにおしつぶされて、神の御業に少しも気がつかず、鈍く無感覚になってしまう」(A・シュラッター、『講解』P242)
(2)目をさましている者としてのキリスト者・教会の生き方について、今回教えられている箇所と同じメッセージを、ロ-マ13章11~14節、Ⅰテサロニケ5章4節以下に見ます。目を通し、心に刻みたいものです。
[4]結び
(1)「いつも油断せずに祈っていなさい」
この勧めを軽く聞き流し心に止めず、生活に根づかすことをしないと、教会は、はやかれおそかれ、ルカ19章45、46節に鋭く警告しているように、「強盗の巣」になってしまいます。
(2)祈りの生活・生涯のために
①ロ-マ8章26節、「御霊も同じようにして、弱い私たちを助けてくださいます。私たちは、どのように祈ったらよいかわからないのですが、御霊ご自身が、言いようもない深いうめきによって、私たちのためにとりなしてくださいます」。8章33、34節、「神に選ばれた人々を訴えるのはだれですか。神が義と認めてくださるのです。罪に定めようとするのはだれですか。死んでくださった方、いや、よみがえられた方であるキリスト・イエスが、神の右の座に着き、私たちのためにとりなしていてくださるのです」。これら聖書の教えている恵みの事実をしっかり心と生活・生涯に受け止めたいのです。
②祈りの習慣の確立のために。心に定め、生活の中で繰り返し、生涯の終わりまで続ける必要があります。個人や家族としての祈りの時や場所について工夫が大切です。形式的になることを必要以上に恐れることが、祈りの良い習慣を止めてしまう落とし穴になることがあります。私たちの三度の食事は、ほとんど毎日何の感動もなく継続されているように見えますが、それが私たちになくてならない生命の糧です。毎度毎度御馳走を求めるあまり、平凡に見えても大切な土台である家庭料理を軽く見てはいけないのです。静かな日々の祈りを続けることが恵みなのです。また祈りについて時や場所を定めておくことにより、挫折してもそこに立ち返る道が開かれていることになります。
③個人としてまた家族としての祈りのときと共に、公の祈りの機会を大切に、恵みの機会を見逃さないようにしたいものです。
宮村武夫(みやむら・たけお)
1939年東京生まれ。日本クリスチャン・カレッジ、ゴードン神学院、ハーバード大学(新約聖書学)、上智大学神学部修了(組織神学)。現在、日本センド派遣会総主事。
主な著訳書に、編著『存在の喜び―もみの木の十年』真文舎、『申命記 新聖書講解シリーズ旧約4』、『コリント人への手紙 第一 新聖書注解 新約2』、『テサロニケ人への手紙 第一、二 新聖書注解 新約3』、『ガラテヤ人への手紙 新実用聖書注解』以上いのちのことば社、F・F・ブルース『ヘブル人への手紙』聖書図書刊行会、他。