私が入社した1980年におけるトヨタ自動車の時価総額は1・5兆円前後でしたが、今年、52兆円を超えるまで成長し、世界経済をけん引するまでになりました。
その間、事業規模は拡大し、関連する事業体は増えたものの、従業員数は約5万人から現在の7万人程度と、大きく増えているわけではありません。また、社内に受け継がれる社風や仕事への姿勢に、大きな変化はないように思います。
このように、社内に大きな変化がない中、事業規模を大きく拡大できた要因は多岐にわたりますが、典型的な日本のタテ社会構造を、社内で効率よく組織化したことが功を奏したように考えています。今回、同じタテ社会構造を持つ地域教会の教勢拡大にとって、参考になる点を見いだしたいと思います。
並外れた仕事への熱心さと忠実さ
31年間の在職中、多くの人と共に働きましたが、社内には並外れた仕事への熱心さと忠実さを持つ人材が大勢存在し、それぞれの部署において組織の中に組み込まれて重要な役割を担っていました。
彼らは、それぞれの立場、役割の中で、世界一優れた車を作ることへの誇りと気概を持ち、多くの犠牲を払って積極的に働く要となる人たちです。闊達(かったつ)な彼らの存在こそが企業価値の拡大をもたらしたように思います。
タテ社会を構成する序列のある組織では、通常トップ(社長)を頂点としたピラミッド型の階層構造を持ち、明確な指揮系統によって業務方針が末端まで短時間に伝わるといわれます。トヨタ自動車も日本独自のタテ社会構造を持っていることは間違いありません。
しかし、トヨタ自動車の組織には、上記のような優れた人材が、中間管理職として数多く組み込まれていますので、彼らの経験や考え方がいったん上層部に吸い上げられ、トップの判断が時間をかけて決まるように思います。
トップの判断が瞬時に行き渡るタテ社会でありながら、組織の中に組み込まれた要となる人材の意向が十分に反映されるため、一時の流れに惑わされない確かな方針決定が可能になるように思います。
現場の活力を維持する惜しみない苦労
この並外れた活力を持つ人材が、上層部の意向に沿って、自由闊達に業務を遂行できる環境こそが、優れた成果を生み出す鍵になりますが、そのために以下のような工夫が繰り返されていました。
・効率的に行う、非常に多い報告機会
報告会の頻度が多過ぎることは、実務遂行の障害になり得ますが、上層部に正しい報告を行い、的確な指示を受けることは大変重要です。また、上層部からの支持を部下や関係者に正しく伝えることも、円滑な業務遂行にとって大変重要です。これらのことから、数多い報告機会を効率的に実施するさまざまな仕組みが存在します。
・頻繁な人事異動、業務変更
本来、専門性の高い人材が組織に固定化されることで、技術的な成果は生まれるものだと思います。しかし、タテ社会の弱点(参考・前回)を補うため、頻繁な人事異動が行われ、業務内容が見直されます。私の記憶する限り、その頻度は年に複数回もありました。
・末端で働く人材への傾聴、カウンセリング
優秀な人材のもとには、通常、数人から数十人の部下が存在します。その中には、知識や経験の浅い者、精神的な弱さを抱える者、人間関係に悩む者などがいて、彼らへのケアが大切な業務になります。彼らの話を聴く個人面談の機会は頻繁に義務付けられていました。
・分野を横断して活動する人材
それぞれの分野には、独自の考え方や仕事の仕組みが生まれますが、他の分野と協調しにくいことが起こり、連携がうまく取れないことが頻繁に起こります。その際、分野を超えて横断的に活動する人材の存在が、業務連携の潤滑剤の役割を担います。
タテ社会構造は安定した一体感を育み、業務の質を高く維持する強みを持ちますが、閉鎖的な考え方や仕事の仕組みが、他部署との連携を阻みやすい弱点を持っています。そのような弱点に対し、分野を超える人材は、包括的な視点を与えてくれる貴重な存在になります。
地域教会への適用と実践
以上述べたことは、大企業の組織を私の経験の範囲でお伝えしたものですが、地域教会も同じ気質を持つ日本人の共同体ですので、参考になる点はたくさんあると思います。
特に、牧師(リーダー)のもとに、複数の小グループが存在し、それぞれの小グループのリーダーが要となって教会活動を行う50~100人以上の規模を維持する地域教会なら、ほぼ同じような課題が存在し、参考になることが多いと思います。また、30人以下の地域教会が複数集まり、教団やグループを形成している場合も、同様に参考になることはあるでしょう。
ただ、少人数の単立教会の場合、タテ社会の弱点を補うことが非常に難しく、教勢拡大には、全く別の手法が必要になると考えています。
これらについては、次回以降で取り上げます。
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