9年前の2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール近郊で、信じがたい事件が発生した。レイモンド・コー牧師が車で走行中、わずか40秒の間に黒いSUVの一団に包囲され、白昼堂々、忽然(こつぜん)と姿を消したのである。防犯カメラには、まるで軍事作戦のように手際よく行われた拉致の一部始終が記録されていた。
あれから9年の月日が流れた。しかし、牧師の行方は依然として闇の中にある。政府による特別委員会は、警察の特殊部隊の関与を強く示唆したが、決定的な真相解明には至っていない。マレーシアのような比較的安定した国において、一人の宗教指導者が国家権力の影を感じさせる形で、拉致・失踪させられた事実は、マレーシアのキリスト教界に深い衝撃と恐怖を与え続けている。
残された妻のスザンナ夫人は、夫の帰還を待ちわびながら、孤独な戦いを続けている。彼女は政府を相手取り、真実の開示を求めて訴訟を起こしているが、その道のりは険しい。脅迫、遅延、そして無関心という壁が立ちはだかっている。
しかし、スザンナは希望を捨てていない。「夫が生きているのか、それとも天に召されたのか、私には分かりません。しかし、神様が全ての真実をご存じであること、そして神様の正義がいつか必ずなされることを信じています」
彼女のこの揺るぎない信仰は、マレーシアだけでなく、世界中で迫害に直面する多くのクリスチャンを励ますものだ。
この事件は、単なる未解決事件ではない。それはマレーシア社会における「信教の自由」の現状を映し出す鏡だ。イスラム教を国教とするこの国で、キリスト教徒が少数派として生きることの難しさ、そして福音宣教に対する見えない圧力の強さを、無言のうちに物語っているものだ。
コー牧師が設立した「希望のコミュニティー」という団体は、貧しい人々やエイズ患者、シングルマザー、薬物依存者を支援する活動を行っていた。彼が「邪魔者」とされた理由は、宗教や人種を超えて、ただ困っている人々に愛を注いだことだけであったのかもしれない。
事件から9年の歳月が流れる今、再びこの事件を覚えて祈ろう。スザンナ夫人と家族の上に、神の超自然的な慰めと励ましが注がれるように。隠された真実が明らかにされ、正義が行われるように。そして、コー牧師がまいた愛の種が、恐怖に屈することのない多くの結実をもたらすために、マレーシア全土に芽吹くように祈っていただきたい。
隠されているもので、あらわにならないものはなく、秘密にされているもので、知られず、公にならないものはありません。(ルカ8:17)
■ マレーシアの宗教人口
イスラム 63・5%
プロテスタント 6・1%
カトリック 3・0%
仏教 6・5%
儒教 9・4%
ヒンズー 6・2%
土着宗教 0・9%
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